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#インボイスRADIO vol.12 農業編/農民連本部さん

2022年7月13日インボイスRADIO vol.12 農民連編
宮崎県農民連 来住誠太郎さん


ーー今日、農業編ということで宮崎県農民連の書記長、来住誠太郎さんに来ていただいています。こんばんは。

来住誠太郎さん(以降、来住) こんばんは。

ーー税理士の山崎哲先生、よろしくお願いします。

山崎哲先生(以降、山崎税理士) よろしくお願いします。

ーー参院選後、初のインボイスRADIOということで、皆さんお疲れ様でした。
私がびっくりしたのは、与党圧勝と分かった途端、「インボイス」がtwitter上でトレンドに入ったことです。「これで本当にインボイスが始まっちゃうんじゃないか」「与党圧勝で本格的にまずいんじゃないか」という声がたくさんみられたような気がします。
STOPインボイスとしては参院選後も粛々と「STOP!インボイス」という声を全国で集め続けたいと思っているので、引き続きよろしくお願いします。

では早速、来住さんよろしくお願いします。今日はありがとうございます。

来住 はい、よろしくお願いします。

ーーまず、来住さんがいらっしゃる「農民連」というのは、どんな組織なのか教えてください。

来住 正式名称は農民運動全国連合会、短くして農民連。1989年1月26日に結成しました。アメリカや日本の財界による農業の破壊っていうのを守るために、この農民連、農民運動が、積極的な伝統の継承をしながら農民運動の組織を作るっていう、「たたかう農民」ていうので作られた、という経緯になっています。

ーーなるほど、農業の方の権利を守る組織、労働組合といった感じですかね。

来住 そうですね。農民の労働組合と考えてもらった方がわかりやすいかなと思います。

ーー私、実は実家が野菜の卸をやっているんです。築地市場から野菜を買ってきてレストランに納品するっていうのがウチの実家の商売なんですが、でもよくよく考えてみると、その市場の野菜がそこに来るまでにどういうふうな流れで来てるのか、インボイスがどうやってそこに関わってくるのか全然分かってなかったので、農家さんにとってインボイスっていうのはどういう影響があるのか、その辺りをお聞かせいただけますか。

来住 出荷するところから言いますと、市場やら農協さんに出荷をするっていうだけに留まらず、直売所やら産直センターっていうところに出荷されてる方がいます。農協やら市場の出荷っていうのは一応インボイスはそこまで影響はない、というと語弊があるかもしれないですけども、農協の出荷っていうのは自分で値段を決めることができないので、「特例」という形でインボイスは大丈夫なんです。
ただ直売所とか、お店にそのまま直接卸している農家さんは、インボイスがすごく影響を及ぼしてくるだろうなって思っています。市場から小売に行って消費者の方に届く、直接お店や小売に卸して消費者に届く、という流れがあるように思います。そういう意味ではインボイスが影響してくるのは、直接、小売やお店に卸す農家がすごく影響するのかなと思っているところです。
インボイス制度がはじまると、インボイスが発行できない免税業者の農家の場合、自分たちの作った農作物を仕入れてくれたお店や直売所の経費にならないので排除される、または消費税分はもらえない、ということになってくるのかなっていうふうに思っています。

ーーつまり農家さんにとってインボイスが関係ない人は、市場に卸している人、あとは完全な消費者に直接販売してる人だけで、他の方はほぼ全員インボイスが関係してくるということですかね。

来住 そうですね。市場だけに出荷してるわけではないので、やっぱりお店に卸してる部分ていうのがすごく影響してくるのかなと思っています。

ーー市場に卸してたり直売所に卸してたりお店に卸してたり産直センターに卸してたりと、ひとつの農家さんに複数の卸先があるのが普通なんですか?

来住 地域性があると思います。私のいる宮崎では、農協市場さんが大半を占めてるのかなというふうに思っていて、若干地域の直売所とか、そういうところにも別で自分達で袋に詰めて出荷、という形の方もいるかと思います。

ーー自分がインボイス制度でどれくらい影響を受けるかは、地域性や普段お付き合いされている取引業者によって異なるということなんですね。

来住 そういうことですね。

ーー農家さんは、免税業者が多いのでしょうか?課税業者が多いのでしょうか?

来住 課税業者は少ないと思います。9割を超えるところが1,000万円いかない、いわゆる免税業者という統計も出てますので、ほとんどの方がインボイスの影響をすごく受けるだろうなっていう認識はしています。

ーー農家のみなさんの“インボイス認知度”はどうですか?

来住 宮崎で聞く範囲内では、まだやっぱり分かりにくい制度。インボイスってなんなの?っていうところが多いように感じていて、今税務署さんの方から、課税事業者の方に対してはインボイス制度について説明会を行いますとか、そういう通知が行っているみたいですけれど、免税事業者、消費税払っていない方にはそういう通知が行かないので、結局9割の方が分からないまま、いつの間にか始まってしまうんだろうなというふうに感じています。

ーー例えば産直センターや直売所といった取引先から免税業者の農家さんに対して、課税業者になってインボイスを発行してほしい、といった要請などは来ているのでしょうか?

来住 若干話では聞いていますけども、まだそこまではないと思っています。
ただ農民連の組織内で産直センター組織を持ってるところについては、自分の産直組織を守るためにはやっぱり、インボイスの関係で消費税の部分をどうするのか、消費税分を払わないようにするしかないのかなぁ、もし始まれば免税業者さんに課税業者になってもらうかどうするのか、選択せざるを得ないよねっていう話は出ていますね。

ーー産直センターが消費税を被ることもありえますか?

来住 センターが被るか、または農家の方に課税事業者になってくれと言わないといけないかなぁと、そこらへんはセンターで違うとは思いますけれど、そういう悩みを今、産直センター組織は抱えていると思います。

ーー来年10月から始まるインボイス制度ですが、今お聞きした限り、免税業者である農家さんに対して、インボイスについての情報が行き届いていません。実際に制度がスタートした場合、農業への影響は具体的にどんなことが考えられますか?

来住 農家を守ってあげたいと思っている産直センター組織が、農家に対して課税事業者になってくれと言わなければいけない、そういう辛い状況、結局お互いで苦しめ合うようなインボイス制度っていうのがまず見えてきて。来年10月1日に向けて、小売で出している産直センターじゃないところも含めて、どんどん無視できない状況になるので、農家からというよりも、産直センターや小売業の方から農家に対してなんらか通知をしていくだろうなと。それによって農家の方もインボイスについて「大変なことになった」と分かってくるのかな、というふうに感じていますね。

ーーインボイスを発行するためには課税業者にならなければいけないわけですが、金銭的・事務的負担に耐えられず、農家をやめてしまう方が出てきてしまわないでしょうか。

来住 考えられますね。今農業資材がすごく高騰し始めて、それで今でも経営が苦しい状況に追い込まれている中、結局今まで消費税分ももらえていた8%部分がもらえなくなるということは収入減につながる、所得減になるっていうことになるので、そうなると農業経営をしていくって一生懸命頑張ってらっしゃった高齢のおばあちゃんやらおじいちゃんなんかも、ちょこちょこ自分の菜園とか頑張って作っていらっしゃる方が、「もう、ちょっとできないよね」っていうことも含めて起こりうるんではないかなと思っています。相当経費上がって深刻な状況になっているのが今の実態なので。

ーー農民連さんとしては、例えば課税業者になってくれというような通知が来た、どうしようっていうご相談が農家さんからあった場合、どのようなアドバイスとかをされていますか?

来住 今の段階では、アドバイスまではちょっとできてはいないんですけれども、どういう制度なのかっていうことをまず知ってもらうことがすごく大事なのかなと思っています。制度が分からないと、なかなか対応できないのかなと思っているところです。

ーー消費税の仕組みから説明しないといけない部分がありますよね。

来住 そうですね、課税事業者じゃなかったっていうことは消費税の申告もしたことはなかったわけですから、消費税のことをまず話さないといけない。そこからインボイスっていうことになるでしょうね、もし話すとなれば。

ーーでは山崎先生、今農民連さんにお話をお聞きして農業にインボイスが与える影響っていうのがざっくり分かったかと思うんですけれども、税理士の視点から、農業さんならではの辛さとか大変さってどこにあると思われますか?

山崎税理士 なかなか東京にいると農家の顧問先の方がいらっしゃらなくて、細かいところ分からないところはあるんですけど、最近テレビとかを見ていると、農家の方、農協とか卸売市場とか以外の販路を求めている方も若い方とか出てきているのかなと思っていまして。

例えばこのコロナ禍であれば、レストランが休業になるので作ったものが売れないとなった時に、今ECサイトが盛んになってるので、そこに販路を求めたりですとか、例えば地元産の食材を消費してくれるレストランができているところに、直接卸売していくといった場合です。そうした場合に多分、インボイスの問題が出てくるのかなと。そうすると卸売先を自分で見つけられれば値段交渉が自分でできていくので、自分の手元にお金をどうやって残していくのか、っていうこともあるのかなと思うんですが、この辺はちょっと僕がテレビ見たり聞いたり、本を読んだりした話なので実態に則しているかどうかが悩ましいとこなんですが、その辺はどうなんでしょう?農民連の方から見て。

来住 周りに一人、マンゴー農家の方がおられて、ホテルに卸していましたが今結局コロナ禍で取引がなくなったというふうに聞いています。
やっぱりそういう販路を求めて、若い方は自分で、市場とか農協だと値段は決められないから、自分で値段を決められるところに販路を求めていくっていうことはあると思っています。
それがさっき山崎さんが言ったインボイスの影響が、「あなたは課税事業者/免税業者?」っていうところでさばかれる可能性はあるなと思っています。同じ品で同じ金額だったら、課税事業者の方を選択しますよっていうことがあり得ると思いますね。

山崎税理士 ありがとうございます。そうですね、そうした場合に自分の経済的対価をきちんとした対価で求めていこうとした場合に、インボイスあるなし、自分の販売先を広げていくことの足を引っ張るじゃないですけどちょっと足枷になってしまうっていうところが一つ問題点として十分考えられるところだと思いますね。

ーーうちの兄は八百屋なんですが、他の八百屋との差別化を図るため、直接農家さんとやりとりしてるんですよね。で、レストランに「うちだけで扱ってる野菜ですよ」みたいな感じでアピールしてると聞いたことがあるので、まさにそうすると、うちの八百屋と農家さんとの間で消費税の押し付け合いが始まるんだろうなって、今お聞きして思いました。

山崎 そうですね、そうした時に、免税事業者のままでいようとした場合に、じゃその分値引かれてもいいように、2割アップの状態で値段持っていくとした時に、なかなかそれが「モノは良いんだけどでもこんだけの仕入れになっちゃうとちょっとうちのお客さん相手だと原価率が上がり過ぎて厳しいな」っていうとこになっていっちゃうと、結局どっちの負担になるのかみたいな話になっちゃいますもんね。

ーー来住さん、今後の農民連さんはじめ農業に携わっている皆さんとしては、どういった運動、アクションを考えていますか?インボイスに関して。

来住 そうですね、まだインボイスは始まっていませんから、反対はし続けながら、これがやっぱり農業を破壊する、農業だけではなくて他の中小業者に対しても相当な影響を及ぼすって分かっていますので、農家ではない所とも一緒になってインボイスに対しては「STOP!インボイス」っていう形でたたかっていきたいなと、農民連では思っています。

ーーさっき山崎先生のお話にもあったんですけど、都市部と地方っていうのもなかなか断絶しちゃってて、手を組みづらい。農業のことが分からないのもそうですし、そう言った意味で私としては今後、横に横に連帯を広めていきたいなと思ってます。では山崎先生、最後にまとめに何か一言いただけたら。

山崎税理士 去年のデータになるんですけども、国税庁で毎年滞納税額がどれくらいあったかっていうのを発表してるんですね。大体8月位に発表してるので去年の分はまだ出ていないんですけども、令和2年度分は去年の8月に発表されてて、コロナの影響で滞納額が5年ぶりに増加した形です。消費税の新規発生滞納額も5年ぶりに増加ってあるんです。

これを見ると消費税って5年ぶりに増加するってことは、みんなこれまで払えていけてたんだだって勘違いしちゃいそうなところですけども、赤字であっても、消費税というのは納税が発生します。
ただ消費税の滞納が多すぎると国側としてもまずい。そんな滞納になる税金をさらに上げてくとかインボイスを出していくということが、データとして出ちゃうとまずいので、滞納する方は優先して消費税を払ってって下さいと税務署から指導がある。だから消費税の滞納額がこれだけ少なくなってきたんですよ、っていうところがあるので、このデータを見たときに消費税滞納額そんなにないんだからみんな消費税払えるじゃないかって思われるところがあるんですけども、税務署としても消費税優先して徴収、なるべく納めてください、で払えない部分は免除しますってこともあったりするんですけども、それだけ躍起になる税金だっていうところを皆さんにまずはご理解、留めていただければなと。

ーー解説がないと絶対にそのカラクリは分からなかったです。

山崎税理士 税務調査を受けると結構やっぱり税金が出ちゃったりするケースもあるんですね。そうした場合に一括では払えないので、税務署に対してこの後どういうふうにこの税金を払っていくかって納税者の方と一緒に聞きに行くことがあるんですけど、まずは消費税の本税から納めていって、そのあとで法人税、所得税を払っていきましょうというケースはよくあります。

ましてこれから始まるインボイス、適格請求書がありませんてなったときに、来年10月からは、免税事業者からの仕入れはインボイスが無くても8割分は引いていいですよっていう経過措置があるんですけど、これが例えば3年間後に税務調査が入ったときに、一般の方がそこまで理解できていなくて全部引いちゃってましたとなった場合、税務署は「いやこれは全部控除できないので2割カットで計算し直します。ついてはその3年間分を一括で払ってください」っていう制度なんですよ。そこまで対応できるのかって話なんです。

ーー本当そうですよね、結局免税業者と付き合うのって、8割引けたとしても、その8割引くって計算もめちゃくちゃややこしいですよね。

山崎 そうですね。これまで手計算で申告書作られてきた方も会計ソフト入れなきゃいけない、そのランニングコストもそうですし、じゃ調査入りますってなったときに、危ないかもしれないから税理士を入れますとなるとその時の料金が…というので、事務負担もそうですけど、それに関わるお金もかかってきてしまうっていうところが厄介なところですよね。

ーーでは来住さん、来年の3月に登録の締切という段階で全然認知が進んでない中で、どうしていくべきっていうか、来住さんとしては今後農家さんに向けてどんなことをしていきたいとかってありますか?

来住 インボイス反対っていうことは行いながらも、先ほど山崎さんが言われた通り、農家の人も事務が大変になってくるのは間違いない。課税事業者の人も免税業者から仕入れたものというか、農家も仕入れが存在するのでちゃんと分けていかないといけないとか、そういうとこまで説明して、帳簿の中でそれ分けといてくださいねとか、分けないとと消費税計算できないんですよってことまで学習していかないといけないんだなと実感すると、そういう要求、うちの記帳簿をつけるそういう要求で自主申告という形で農民連もやっているんですけども、そういうことも含めてインボイス・消費税の学習会も強めると同時に、インボイス反対も、というふうに今改めて実感しました。

ーー結局皆さん、STOP!はしたいけどそれと同時に、もし実施されてしまったら…ということで勉強とか対応とかについても考えておかなくちゃいけないっていうのは、すごく辛いですよね。

来住 そうですね。農民連の税対部っていうところでも、反対もしないといけないでも、インボイス制度・消費税っていうものを学習も進めていかなきゃいけない。逆にいうとインボイス進めてるような学習会をしなければいけないっていう苦しみっていうのがすごくあって。

ーー矛盾したアクションを同時にやらなくちゃいけないってすごくストレスですよね。最後に、来住さんがインボイスについて一番心配されていることはどんなことですか?

来住 農家は減っていって高齢化になっていますので、今統計でも販売農家戸数100万戸を切ったと言われているので、これで引き続き農家が減っていくような、インボイスでもっと減るスピードが加速されるのではないか、というふうに感じているので、そういう心配。
やはり日本の農業、さっきも「食糧が何よりも大事」だと皆さんも感じてらっしゃるんですけれども、でも実際日本の自給率は37%だと。その自給率がもっと下がる、そういうことが懸念されるし、日本の農業ってすごく、こっちの田舎へ行くとまあ田んぼやら畑、そして今宮崎だとちょうど稲穂が垂れて7月20日くらいから収穫が始まるんですけども、そういう姿が無くなっていくんじゃないかっていう心配、そういうことを感じています。

ーーそれは本当に国の形が変わるような話ですね、景色が変わるというのは。我々はフリーランスの集まりなのでカルチャー寄りのことを発信することが多かったんですけども、今日こうやって農民連さんとも繋がれたので、また第一次産業の方ですとか、本当に全然違う職種の方々と「インボイスが嫌だ!」という一点で一緒に闘っていけたらなと私も強く思いました。ありがとうございます。



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