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COOLTOREN 《 V8 ARCHITECTS 》を見た。

縁あってロッテルダムの超高層マンションCooltorenの一室を覗かせて頂ける機会を得た。
2022年竣工のこのタワーマンションは高さ154mとロッテルダム市内で最も高い住宅タワー。ロッテルダム港や主要な建物がだいたい見渡せてしまうだろうロッテルダム中心地に位置し、周辺は再開発中の工事現場がたくさんあり今後も注目を集めそうな場所である。

外観

外観はスラブを積層させたミルフィーユようなデザイン。中層部に平面形状を変えた層を差し込むことでタワーの外観が単調にならないよう工夫がされているように見える。


エントランス

エントランス外部の仕上げは木材が張られていた。オランダらしいといえばそうかもしれない。ただ小庇はあるものの実質は雨掛りであるためすでに木材に変色が見られる。朽ちてきたら張り替えることを想定しているのかもしれない。良く言えばオランダのトライアンドエラー精神が良く表現されているのかもしれない。

エントランスロビー

エントランスロビーである。ホワイトを基調としたモダンなデザイン。レセプションデスク、ポストなどの家具も白。内装材は石のように見えるが詳細は分からない。とにかく白に包まれたエントランスである。

住宅エントランスから内部を見る

エレベーターを上がると左右に廊下が分かれ突当りに3つの玄関ドアがある。つまり1フロアーは計6住戸である。
さっそくインターホンを押し家に入れてもらう。玄関はコートを着脱することを考慮してか空間に余裕があるが、奥へ続く廊下は細長くそして少し薄暗く計画されている。壁にはいくつもアートが並びそれに目を配りつつ廊下を抜けた先にメインルームが広がる。

メインルーム

細長く薄暗い廊下を抜けた先にあるメインルーム。躙口のような視覚効果を設計者が意図したのかは分からないが、おそらく60㎡弱という驚くほどの広さでないにも関わらず大きな窓と相まって室内がとても広く感じる。
部屋のどの位置に立っても窓に大きく切り取られたロッテルダムの街が借景となる。Depot Boijmans Van Beuningenから始まり、ロッテルダム港やエラスムス橋、オールドハーバー、マルクトハル、そしてキューブハウス。
オランダには高い山がないためベルギーまで見えそうなほど遠くまで見通せる。
室内に柱は二本のみ。構造的に建物全体は中央のEVや非常階段のあるコアで支え、この見える柱はスラブを支えているだけとのこと。日本とは環境が違うため大きな開口部が比較的容易に計画出来ることは意匠設計者冥利に尽きるのかもしれない。

このマンションは販売時はスケルトン状態。購入者が内装の仕様を決める。そのため居住者の好みが明確に出る。
天然色を基調とした内装計画で落ち着きがありつつも、生活感が出ないよう日常的に使用されるものはすべて収納の中に隠され、また必要以上のものを所有しないよう努力されているように感じる。

キッチン

モダンで収納が多く使いやすそうなキッチン。IHコンロ4口分の排気口はそのコンロ4口の中央に設けられていた。Jをひっくり返したような水栓では瞬く間に水、とても熱いお湯、ぬるめのお湯、そしてスパークリングウォーターを切り替え提供することが出来る。天井近くにあるカラフルな照明はスマートフォンの音声認識により変更することが出来た。

メインベッドルーム

20㎡程度の広さのベッドルーム。こちらも不要なものは一切隠蔽されていて生活感がしない。ただ、この部屋は廊下の奥にあり、また調光器付きの照明のおかげで心を落ち着けて就寝に迎えそうである。
ヘッドボードは居住者が計画し設置したもの。ゴールドの枠の中にやわらかいクッション性のあるそして手触りの良い生地で作られたパネルが張り詰められている。

オフィス

20㎡程度の1部屋をオフィスとして設えていた。投資家という職業は物理的な資料を多く所有する必要がないのかもしれないが、これまでの部屋と同様にとても綺麗に整頓されている。
それだけだと単調になりそうな室内だが、壁にはいくつものアート、そして原始的な民族のものと思われる木彫マスクがかけられており、遊びの感じられる空間が作られていた。

トイレ

トイレは至って標準的である。もちろん日本が誇る温水洗浄便座ではない。手洗いが慎ましい。
オランダのトイレは総じて狭いように感じる。オランダ人は高身長で有名だけど、日本人の体感でも少し狭い。それはオランダ人がトイレ空間をこれまで重要視してこなかったという表れなのかもしれない。

シャワー+洗面室

共通する落ち着いた内装という特徴を除くと、徹底して華美を排除したような実用的な洗面室である。洗面台も鏡もシャワールームも標準的な仕様に見える。
トイレと共通して、実用性を求める部屋は清掃の容易さを考え装飾的にならないようにしているのかもしれない。

https://youtu.be/DFjlXCaaJLI

最後に居住者の方に聞いた話。
この住宅を購入したのはRotterdamが自分の生まれ故郷に最も近い都市であり、自身のご家族も近くに住んでいるためだそうだ。建設途中に購入手続きを済ませ23年早々から居住を始めた。今、別の階で同様の間取りの1室が売り出されている。その価格はこの居住者が購入した当時の金額の概ね1.5倍とのこと。それがたった半年程度のことで起こっているのである。
日本とは異なり、海外では購入した住宅の価格は多くの場合上昇すると聞いたことがあった。そんな現状を目の当たりにし、驚きとともに日本の新築住宅至上主義に隠されたなにかを同じく目の当たりにしたいという欲求が強くなった。


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