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神奈川にある海の見える新耐震住宅


電車を乗り継いで潮の匂いのする街を訪れた。

それなりの規模のある2駅のちょうど真ん中に位置する、ある物件を見に行くためだ。


物件は

それなりの規模のある2駅のちょうど真ん中に位置する。

新耐震基準で建てられた住宅で2階からの眺望が魅力的だ。

緑が多く2階からは畑や山だけでなく遠くに海が見える

落ち着いた生活が望めそうな物件である。

とはいえ、都心へのアクセスもよく羽田空港まで1時間以内で到着する。

しかもその駅からの始発の電車があるため、上手くすれば座って通勤することが出来る。



僕は2駅あるうちの、海に近いA駅から歩いた。

駅前には規模は小さいが商店街があり

一時は繁盛したであろう店舗が立ち並ぶ。

そこを抜けてしばらく歩き、いよいよ丘を登り始める。

坂は徐々に急になり、その先で階段に変わった。

階段は神谷町にある愛宕神社のような急勾配。

やっとの思いで登り切った階段の先には、平らな住宅街が待っていた。


住宅街にはそれなりに人や車の往来がある。

立ち並ぶ住宅は綺麗に手入れされたものが多い。

古い住宅もあるが、荒廃しているものは見当たらない。

そのような住宅街を見て、これから見る物件に期待ができた。


その住宅街の奥にある、物件へアプローチできる歩道を探す。

住宅街の奥の奥に、確かに歩道はあった。

歩道に出ると目下にはいくつかの住宅の屋根と畑が見える。

空がよく見え、風があり気持ちの良い場所だった。


歩道を歩き進め、小さな坂を下る。

両脇にある畑を抜けたところで、急な山に張り付くような、今回の目的地である物件を見つけた。

資料上は接道しており、再建築が可能とのことだ。

急な階段付きスロープで物件の玄関に向かう途中、市が設置したカラーコーンを見つけた。

それはスロープ脇が滑り落ち、その養生のためのものだった。

その養生の範囲はおそらく物件の敷地内ではない。

それでも大雨などの影響を受け、往来に支障をきたす可能性がある。

そんな不安を感じつつ、とにかくまずは物件をみようと階段を登り玄関に到着した。


想像していた通り眺望が良い。

隣家は4軒ほどある。

洗濯物が干してあったり、玄関ドアを開けて換気しているところを見ると、どれも人が住んでいるようだった。

隣地境界の目印は確認できなかったので、何かをする場合は協議が必要になるかもしれない。

そんなことを気にしながら4軒の敷地関係を頭に入れた。


預かっていた鍵で玄関ドアを開け、中に入る。

滞留した空気を出すために玄関と2階の窓を開放した。

2階の状態はとてもよく窓からの眺望もやはりとても良い。

2階は2間だけのこじんまりしたものが、傾きはなくまだまだ使えそうだった。

2階の窓から裏庭を見ると、敷地内の土が隣地に流れているのが見えた。


1階に降りる。

水廻りの床は軋み、一部は撓む。

それは20年の築年数を超えると仕方がないものだ。

洗濯機と冷蔵庫置き場に悩む間取りだったが、LDは悪くない広さだ。

トイレは少し狭いが洋便器である。

風呂には追い焚き機能がついている。

階段下の収納をうまく使えば、それなりに住みやすい家になるだろう。



ざっと建物を体験し物件の長短をまとめる。

建物に大きな問題はない。

借り手次第だが、手を入れずともこのまま借りてもらえるかもしれない。

多少クロスや床を直しても、大きな負担にならないはずである。

駐車場はないが、広めの玄関には自転車や電動キックボードが置けるだろう。


借り手のイメージは、都心で働く自分たちの時間を自然と過ごしたい夫婦やカップルだ。

海が近いのでサーフィンやウォータースポーツが楽しめる。

海の幸を味わえるお店や市場も近くにあり都会暮らしとは違う生活ができる。

そんな自分の時間を過ごしたい人たちには良い物件になるだろう。


問題は敷地に関係するものである。

1つは、隣地に流れ出た土を止めなければならない。(図の青部)

それをするためには生えている植物を伐採し、土留めをする必要がある。

場合によっては擁壁が必要になるだろう。

もう1つは、玄関の下の擁壁が僅かだが傾いていた。(図の赤部)

傾いた擁壁の先にはこの家のためのスロープがある。

もしそれが倒れたら、隣家の方々含めて全員が家にたどり着くことができなくなる。

運が悪ければ人を傷つけてしまう可能性もある。

この擁壁への対応はとても重要になる。

アプローチと擁壁の関係図


この擁壁の改修にはいくらかかるだろうか。

通常の環境での擁壁工事であれば

50万程度でできる面積である。

ただこの物件は条件が悪い。

どのように工事をするか考えあぐねる。

擁壁に依存した敷地に家が建っていないのなら方法はあるだろう。

しかしここには家がある。。。



帰り道、何か対策はないかと考えながら

来た駅とは違うもう一つの最寄駅Bに向かって坂を下る。

参考になる擁壁を探すため、山に張り付いた多くの住宅を見ながら下る。

山の中腹にあった住宅街は、物件までに歩きながら見た住宅街とは様子が異なった。

空き家や手入れの行き届かない庭を持つ家が目立った。

山の影になり陽の当たりにくい区画もある。

山の北側と南側で街の様子が大きく違う。

このようなことは現地を歩かなければ感じることができないことだ。


坂を下りきり開けたところに出たその頃にはもう、擁壁のことは頭には無く、この物件は諦めることに決めていた。



※memo

建物で最も重要なものの一つは基礎である。

その基礎が力を発揮するためには信頼性の高い敷地づくりが必要である。

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