広島のこと
ちょっと前に仕事の関係で2日間広島を訪れた。いちおうは仕事なんだけど、何とでもなるスケジュールだったので2日目はほぼフリーにした。事前にレンタカーを予約して、呉に行く計画を立てた。
実家が広島に近いせいもあり、子供の頃は家族でよく訪れた。たぶん父親が広島を好きだったのかな?夏になればよく行っていた記憶がある。大人になってからも何度か訪れ、子供たちとも家族旅行に行った。
それと数年前に知ったこうの史代という人の「夕凪の街 桜の国」を読んだことも影響している。いわゆる原爆ものの漫画なんだけど、僕はこれに痛く感動した。この人はもうひとつ原爆ものを書いていて、それは「この世界の片隅に」という、映画化もされた作品。この作品で灰ヶ峰がとても印象的に描かれていて、その頃から一度訪れてみたいと思っていた。
天気はとても良かった。レンタカーに乗り灰ヶ峰へ向かう。Bluetoothがうまくつながらず雑音ばかり入るので直接iPhoneのスピーカーで音楽を聴く。山へ向かうので道も次第に険しくなるんだけど、それにしても対向車がない。土曜日の午前中に来るようなところじゃないんだろうか?ちょっと不安になりながら車を進める。ようやく着いた頂上らしきところには小さな駐車場があり、少し歩くと展望台がある。天気はいいんだけど、風があって寒い。スーツのジャケットを着て展望台に向かう。
天気がいいこともあって、展望がすごくいい。波は穏やかで空は晴れわたり、ずっと向こうまで見渡すことができた。海面に光が反射して、ところどころ柔らかな乳白色に輝きゆらめいているのが信じられないくらい綺麗だった。できることならずっと見ていたかった。
ぼんやり眺めていると、トレッキング姿の女性が展望台に来て、写真を撮ってほしいという。はいはいと撮っていると、どうやら超社交的な人らしくいろいろと話しかけてくる。呉にある美味しい海自カレーの店や、観光に適した所を詳細に教えてくれる。広島の人はとても親切だ。僕が今まで出会った広島の人は、初めはどこかつっけんどんなんだけど、そのうちにところどころその人の優しさが垣間見えるようになり、いつの間にかとてもいい人だと認識するようになる。心根がいいと言うか、ツンデレとでも言ったらいいのかな。元来こういう県民性なんだろうか?でも今までに出会った人ほとんどがそのパターンなので、広島出身というだけでもう全面の信頼を寄せてしまう(そういえばレイハラカミも広島出身だ)。
トレッキングさんはいそいそと下山し、僕はまだしばらくこの景色をぼんやりと眺める。ほんとうに美しい。いつまでも眺めていられそうだけど、時間も限られるので後ろ髪を引かれる思いで呉市内へ向かう。
すすめられたカレー屋は行列ができており、仕方なく待つことにする。風が強くて寒い。目の前には潜水艦が浮かんでいる。呉市は好きだけどこういう風景には特に興味は湧かない。カレーは普通。潜水艦の乗船員が曜日感覚を失わないように、毎週金曜日はカレーだったらしい。まあ海底の閉鎖空間にいればそういう工夫も必要なのかもしれない。
店を後にして、瀬戸内の島へ向かう。呉から行ける島は2つで、時間の許す限りで何となく走る。何だか解放感があり、音楽を聴きながらぼんやりと走る。いちおう適当な目的地をナビに入れてたけど、時間が厳しそうだったので途中で適当に道を外れて小さな漁村のようなところに着く。車を停めてうろうろしていると、ちょっと良さそうな場所を見つける。たぶん地元の人が休憩したりくつろいだりするんだろう。公民館のようなところに古い椅子が置いてある。僕もここに座ってしばらく海を眺めながらぼんやりする。
帰りはずっと海沿いの道だった。海のそばで暮らすのってどんななんだろう?僕は一度も住んだことがない。
広島の原爆に関する書物に初めて触れたのは、はだしのゲンだった。近所に住んでいた同級生がその漫画を持っていた。彼の父親が広島出身だったからだ。僕はその残酷な描写にとにかく目を奪われた。たぶんひと夏かけてその友達の家に行って読んだ。人が死ぬことが具体的に書かれていた。それもかなり酷い死にかただ。原爆が落ちた直後、市内で被爆した人たちは皮膚が焼け爛れ、あまりの熱さに近くの川に飛び込んだらしい。
広島の街中を歩いていると、わりと大きな川がいくつか流れている。僕は広島に来てこの街を流れる大きな川を見るたびに、あのはだしのゲンに書かれていた皮膚の焼け爛れた人たちのことを思い出す。この街はそんな記憶を持ちながら、今の時間を生きている。広島は、僕にとってどうしようもなく死を意識させてくれる街なのだと感じる。
はだしのゲンが戦争の悲惨さを直線的に力強く伝えてくれる一方で、こうの史代の作品はもっと個人的な、生活感覚に根付いたものをすくい上げるような視点で戦争を描いている。どちらもすごい作品だと思う。そういう作品を生み出さざるを得ない広島を訪れることは、ちょっと特別な感覚がある。
自分が二度寝が好きということもあってこのプレイリストを最近よく聴いていた。広島に行っている間も主にこれを聴いていた。ゆるめの心地良い曲が多いです。
これもプレイリストだけどearly hours というやつ。朝早くというか夜遅くの時間のイメージで選曲されてるらしく、そのコンセプトがまず良いなあと思う。
環境音と静かなノイズと楽曲の良さがいい具合に混在している。
これを聴きながらこの文章を書いてた。
むちゃくちゃひさしぶりに聴いた。ウルフ・トレッソンかトーレ・ヨハンソンかどっちかだったと思うけど、その人の功績が大なアルバム。