見出し画像

MTB

マウンテンバイクに乗り始めてもう一年半くらいになる。
僕は平日の休みが月に1〜2回あるので、そういう時にMTBに乗っている。もっと早くから始めていれば、ちゃんとしたコースを走ってなんかの大会に出て、みたいなのも良かったのかもしれないけど、そういうのはいまさらすぎるので、もっぱら近くの林道や山道をひたすら走っている。

初めのころはいったいどこを走ればいいのかすらわからなかったから、ネットやYouTubeでいろいろとルートを探していると、とあるブログに行き当たった。そのブログには近畿圏内の林道や作業道、古道など信じられないくらいの量のルートが網羅されていて、かつひとつひとつにたくさんの写真と解説があり、ほんとうにわかりやすかった。今では僕の指南書になっていて、走る前日にはこれを見てルートを決めている。とても重宝している。

と、ここまで書いていて、つい先日MTBに乗っていてこけた。
最近は林道だけではなく、登山道とかトレッキングコースも走ることが多くなり(あまり推奨されないんだけど、そういうところに限っておもしろい道が多い…)、それに伴って、MTBで走るにはきついんじゃないかというルートも必然的に増えていた。MTBを押したり抱えたりと、なんだかまるで登山のようになりつつあった。
今回こけたのはもう道がほとんど死んでいるところだった。あたりは倒木だらけで、倒れた木をくぐったり乗り越えたりしながらむりやり進んでいた。

こういう倒木が続く


さすがにもう進めないというところで引き返した。戻る途中、MTBと人が通るには幅がほとんどない、もうただの山肌と言った方がいいようなところがあった。行きと違って今度は僕が崖側になるせいもあってか、そこで足を滑らせてしまい、そのまま3mくらいごろごろと転がっていった。

このへんで落ちた
写真では傾斜とか遠近感がわかりにくいですね…
落ちたところを上から見る
落ちたところから上を見上げる

落ちた先には小さな川が流れていた。僕はしばらく頭がぼんやりしていて、どういう経緯でここにいるのか、うまく思い出せなかった。一時的に記憶の時系列が崩れていたような感覚だった。
左後頭部に痛みがあり、手を当てると出血していた。近場の山だったのでヘルメットをしていなかったのがいけなかった。タオルを川の水で濡らして血を拭き取るけど、完全には止まらない。どうやらそこそこ切れているようで、仕方なくアンダーキャップの下にタオルを挟んで止血できるようにした。いちおう小さなリュックは背負っているものの、中にはタオルとパンク修理の道具ぐらいしかなく、絆創膏すらない。こんなことが起こるのを想定していなかったことに今さらながら気づく。
しばらく放心したあと、とりあえず崖を登り、陰鬱とした気持ちでもと来た道を走る。車を停めたコインパーキングに着き、服を着替えて家の近くの病院へ向かう。病院に行かなくてもいいかなとも思ったんだけど、まだ血が止まっていなかったし、自分の目で傷を確認できなかったので、やっぱり行くことにした。
夕方だったけどそんなに待つこともなかった。まず傷口を洗浄され、CTを撮ってから縫いましょうということになる。CTの結果、頭蓋骨にひびが入っているけど深刻なものではなく、抗生物質を飲んでおけばいいらしい。抗生物質の点滴をしながら頭を7針縫う。局所麻酔があまり効いていなくて痛い。明日は脳外科に診てもらうことになる。ちょうど仕事は休みだった。家に帰ると妻に怒られ、子らにも驚かれた。さすがに食欲もあんまりない。痛み止めを飲んで寝た。
翌日は言われた通り脳外科を受診し、ひびは入っているけど大丈夫でしょうと昨日と同じことを言われた。今回は意識消失やひどい骨折をしてはいなかったので良かったものの、今後そういう可能性も多分にある。ということで妻とGPSで位置情報を共有することにした。携帯の電波も届かなかったりする山の中だからGPSを使わない手はない。プライバシーより安全優先ということで。
抜糸するまではガーゼをあてて、外れないように頭にネット包帯をかぶっていた。なので職場でも会う人みんなにどしたんですかそれ?と聞かれ、いや自転車でこけて、あ、マウンテンバイクで崖から落ちて、7針縫って… みたいなやりとりを何度も繰り返した。

今後、もうちょっと備えもちゃんとしておくために、ファーストエイドキットや、もう少し荷物の入るバックパックを買うことにした。シューズもフットサルのものを今は履いていて、本来ならMTB用のシューズを買うべきなんだけど、半分登山みたいなことをしている僕はMTB的かつ登山的なシューズがいいはずなので、それっぽいのを探している。


もう夏は終わってしまったけど、これは夏になるとよく聴いていた。スチールパンが気持ち良い。


あとこれも。真夏、実家の畳の部屋で突っ伏してよくこれを聴いていた。畳の少しひんやりした感じと、このアルバムの涼しげな静けさがなんだかよく似ていた。


くるりの屏風浦も夏。海水浴とかの記憶。


たまたま聴いたんだけど、ふだんこういうのに接しないからとても新鮮だった。特に1曲目が良かった。



MTBの魅力はやっぱりダウンヒルになると思う。悪路をスピード出して降っていくというやつで、たしかに僕も初めはそれに魅力を感じたんだけど、次第に山の中森の中をさまようこと自体の楽しみが大きくなっていった。
そういえば高校生のころ、受験勉強で疲れた時には、近くの山へ行って当時飼っていた犬と一緒にうろうろ歩き回っていた。山の中を歩いていると、いろんなものから自由になっているような気がした。
そのころの記憶を引きずっているのかなとも思ったんだけど、たぶんそれよりも、おそらくほとんどの人が足を踏み入れたことのない場所に一人きりでさまよっているという、浮遊感というか漂泊感に心を捉えられてしまっているんだと思う。誰にも知られないまま山奥にひとりでいることに、何ともいえない高揚感があるような気がする。
でも、今回の怪我以降、家族とGPSで位置共有するとなると、誰にも知られないまま山奥にいるということはなくなり、今までに感じていた漂泊感もまた違ってくるかもしれない。
漂泊感… もしかしたらこれは自分の存在が危うくなるかもしれないという、その境目みたいなところにいることへの快感なのかもしれないなあと思う。

ぼくらは迷ってからでないと、つまり世界を失なってからでないと、自分自身が見えてこないし、自分の居場所も、自分とかかわる世界の無限の広がりも、かいもく分からぬこととなる。

ソロー「ウォールデン」

たまたま読んでたソローはこんなふうに言っていて、これはなんかわかる。
迷うと自分がどこにいるかわからないし、そうなるとあたりは既知の世界から茫漠とした見知らぬ世界へと変わってしまう。これはソローの言う「世界を失う」ことと同じだと思う。
そしてこの状況は、解放感と不安がないまぜになって、いつもと違った自分自身の見え方を突きつけてくる。迷ってしまってどこにいるのかわからない自分自身をどうしたらいいのか、どの方向に行けばいいのか。何だか急に自分自身という存在が重みを増したような気がする。自分自身がくっきりと見えてくるような感じがする。
そして、シンプルに、ただ無限に広がる世界と自分自身だけになる。たぶんそういう感覚が気持ちいいのだろうと思う。

まあでも気持ちいいだけでは済まされなくて、これからはきちんと安全にも留意して、本当にさまよって遭難したりしないようにしないといけない。ほんと自戒。猛省。

いいなと思ったら応援しよう!