コーポレートガバナンス・コードが改訂!新旧を比較します
2021年6月11日、東京証券取引所が改定コーポレートガバナンス・コードの施行を発表しました。
特にプライム市場への上場を狙う企業にとっては、改定内容の把握は不可欠です。
そんな企業のため、本記事では、6月11日以前のものと、改定後のものとの違いを列挙していきます。
なお、大きく意味が変わらないと思われる変更は省いています。
(例:「サステナビリティー」→「サステナビリティ」)
集計した結果、改定内容を大きく4種に分けました。内訳は以下の通りです。
・プライム市場に関して……6件
・環境・SDGsに関して……2件
・ダイバシティに関して……3件
・ガバナンスに関して……13件
今回は、上記の順番で改定内容を列挙します。
なお、ひとつの項目で改定内容が複数にまたがっているものもありましたので、それらは最下部にまとめました。
★ プライム市場に関する改定
原則 1-2④ 株主総会における権利行使
◆ 改定前
上場会社は、自社の株主における機関投資家や海外投資家の比率等も踏まえ、議決権の電子行使を可能とするための環境作り(議決権電子行使プラットフォームの利用等)や招集通知の英訳を進めるべきである。
◇ 改定後
上場会社は、自社の株主における機関投資家や海外投資家の比率等も踏まえ、議決権の電子行使を可能とするための環境作り(議決権電子行使プラットフォームの利用等)や招集通知の英訳を進めるべきである。
特に、プライム市場上場会社は、少なくとも機関投資家向けに議決権電子行使プラットフォームを利用可能とすべきである。
原則3-1② 情報開示の充実
◆改定前
上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範
囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである。
◇改定後
上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範
囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである。
特に、プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきである。
原則3-1③ 情報開示の充実
◆改定前
(項目なし)
◇改定後
(以下の内容を追加)
上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについて
の取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。
特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社
の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行
い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。
★ 環境・SDGsに関する改定
第2章 株主以外のステークホルダーとの適切な協働 考え方
◆改定前
……また、近時のグローバルな社会・環境問題等に対する関心の高まりを踏まえれば、いわゆるESG(環境、社会、統治)問題への積極的・能動的な対応をこれらに含めることも考えられる。……
◇改定後
……また、「持続可能な開発目標」(SDGs)が国連サミットで採択され、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同機関数が増加するなど、中長期的な企業価値の向上に向け、サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)が重要な経営課題であるとの意識が高まっている。こうした中、我が国企業においては、サステナビリティ課題への積極的・能動的な対応を一層進めていくことが重要である。……
原則2-3① 社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題
◆改定前
取締役会は、サステナビリティー(持続可能性)を巡る課題への対応は重要
なリスク管理の一部であると認識し、適確に対処するとともに、近時、こうした課題に対する要請・関心が大きく高まりつつあることを勘案し、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討すべきである。
◇改定後
取締役会は、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理など、サステナビリティを巡る課題への対
応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきである。
★ ダイバシティに関する改定
原則2-4 女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保 補充原則
◆改定前
(項目なし)
◇改定後
(以下の内容を追加)
上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登
用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。
また、中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性
の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである。
★ ガバナンスに関する改定
第4章 取締役会等の責務 考え方
◆改定前
上場会社は、通常、会社法(平成 26 年改正後)が規定する機関設計のうち主要な3種類(監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社)のいずれかを選択することとされている。
また、本コードを策定する大きな目的の一つは、上場会社による透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を促すことにあるが…(略)
◇改定後
上場会社は、通常、会社法が規定する機関設計のうち主要な3種類(監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社)のいずれかを選択することとされている。
また、本コードを策定する大きな目的の一つは、上場会社による透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を促すことにあるが…(中略)
そして、支配株主は、会社及び株主共同の利益を尊重し、少数株主を不公正に取り扱ってはならないのであって、支配株主を有する上場会社には、少数株主の利益を保護するためのガバナンス体制の整備が求められる。
原則4-2② 取締役会の役割・責務
◆改定前
(項目なし)
◇改定後
(以下の内容を追加)
取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリテ
ィを巡る取組みについて基本的な方針を策定すべきである。
また、人的資本・知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきである。
原則4-3④ 取締役会の役割・責務
◆改定前
コンプライアンスや財務報告に係る内部統制や先を見越したリスク管理体制
の整備は、適切なリスクテイクの裏付けとなり得るものであるが、取締役会は、これらの体制の適切な構築や、その運用が有効に行われているか否かの監督に重点を置くべきであり、個別の業務執行に係るコンプライアンスの審査に終始すべきではない。
◇改定後
内部統制や先を見越した全社的リスク管理体制の整備は、適切なコンプライアンスの確保とリスクテイクの裏付けとなり得るものであり、取締役会はグループ全体を含めたこれらの体制を適切に構築し、内部監査部門を活用しつつ、その運用状況を監督すべきである。
原則4-4.監査役及び監査役会の役割・責務
◆改定前
監査役及び監査役会は、取締役の職務の執行の監査、外部会計監査人の選解任や監査報酬に係る権限の行使などの役割・責務を果たすに当たって、株主に対する受託者責任を踏まえ、独立した客観的な立場において適切な判断を行うべきである。
◇改定後
監査役及び監査役会は、取締役の職務の執行の監査、監査役・外部会計監査人の選解任や監査報酬に係る権限の行使などの役割・責務を果たすに当たって、株主に対する受託者責任を踏まえ、独立した客観的な立場において適切な判断を行うべきである。
原則4-11① 取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件
◆改定前
取締役会は、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性
及び規模に関する考え方を定め、取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである。
◇改定後
取締役会は、経営戦略に照らして自らが備えるべきスキル等を特定した上で、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスをはじめ、経営環境や事業特性等に応じた適切な形で取締役の有するスキル等の組み合わせを取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである。その際、独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含めるべきである。
原則4-13③ 情報入手と支援体制
◆改定前
上場会社は、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきである。
また、上場会社は、例えば、社外取締役・社外監査役の指示を受けて会社の情報を適確に提供できるよう社内との連絡・調整にあたる者の選任など、社外取締役や社外監査役に必要な情報を適確に提供するための工夫を行うべきである。
◇改定後
上場会社は、取締役会及び監査役会の機能発揮に向け、内部監査部門がこれ
らに対しても適切に直接報告を行う仕組みを構築すること等により、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきである。また、上場会社は、例えば、社外取締役・社外監査役の指示を受けて会社の情報を適確に提供できるよう社内との連絡・調整にあたる者の選任など、社外取締役や社外監査役に必要な情報を適確に提供するための工夫を行うべきである。
原則5-1①株主との建設的な対話に関する方針
◆改定前
株主との実際の対話(面談)の対応者については、株主の希望と面談の主な
関心事項も踏まえた上で、合理的な範囲で、経営陣幹部または取締役(社外取締役を含む)が面談に臨むことを基本とすべきである。
◇改定後
株主との実際の対話(面談)の対応者については、株主の希望と面談の主な関心事項も踏まえた上で、合理的な範囲で、経営陣幹部、社外取締役を含む
取締役または監査役が面談に臨むことを基本とすべきである。
原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表
◆改定前
経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである。
◇改定後
経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人的資本への投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである。
原則5-2①経営戦略や経営計画の策定・公表
◆改定前
(項目なし)
◇改定後
(以下の内容を追加)
上場会社は、経営戦略等の策定・公表に当たっては、取締役会において決定された事業ポートフォリオに関する基本的な方針や事業ポートフォリオの見直しの状況について分かりやすく示すべきである。
★ 複数項目の改定
原則4-8.独立社外取締役の有効な活用
★ ガバナンスに関する改定
★ プライム市場に関する改定
◆改定前
独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである。
また、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、上記にかかわらず、十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである。
◇改定後
独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、プライム市場上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも3分の1(その他の市場の上場会社においては2名)以上選任すべきである。
また、上記にかかわらず、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、過半数の独立社外取締役を選任することが必要と考えるプライム市場上場会社(その他の市場の上場会社においては少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社)は、十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである。
原則4-8③ 独立社外取締役の有効な活用
★ ガバナンスに関する改定
★ プライム市場に関する改定
◆改定前
(項目なし)
◇改定後
(以下の内容を追加)
支配株主を有する上場会社は、取締役会において支配株主からの独立性を有
する独立社外取締役を少なくとも3分の1以上(プライム市場上場会社においては過半数)選任するか、または支配株主と少数株主との利益が相反する重要な取引・行為について審議・検討を行う、独立社外取締役を含む独立性を有する者で構成された特別委員会を設置すべきである。
4-10① 任意の仕組みの活用
★ ガバナンスに関する改定
★ プライム市場に関する改定
★ ダイバシティに関する改定
◆改定前
上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社
外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会を設置することにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。
◇改定後
上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社
外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名(後継者計画を含む)・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする独立した指名委員会・報酬委員会を設置することにより、指名や報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり、ジェンダー等の多様性やスキルの観点を含め、これらの委員会の適切な関与・助言を得るべきである。
特に、プライム市場上場会社は、各委員会の構成員の過半数を独立社外取締
役とすることを基本とし、その委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等を開示すべきである。
原則4-11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件
★ ガバナンスに関する改定
★ ダイバシティに関する改定
◆改定前
取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正
規模を両立させる形で構成されるべきである。
◇改定後
取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性、職歴、年齢の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである。
まとめ
以上、コーポレートガバナンス・コードの改定内容でした。
環境意識の隆盛や市場再編による影響から、今後も金融やIRの現場は激変していくことでしょう。
ストックウェザーでは、変化の兆候や詳細を逐一発信してまいります。今後もぜひ弊社メディアをご覧ください。
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