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幻想的空想的妄想的ジブリ解釈です!(『On Your Mark』編)4

『On Your Mark』の謎 〜その4〜
 
《このシリーズは、すでに視聴されている方を対象としています。ご容赦ください。なお、以下の解釈は、できるだけ、アニメを見ながら読んでいただけるとありがたいです。》
 
『On Your Mark』の謎
①繰り返しがある(よく見ると、2箇所)。繰り返しはなぜ起こっているのか、その意味は何か。
②挿入シーンが3箇所ある。どういうシーンなのか。
③顔の表情や手の動き、飛び立つ動作などがクローズアップされ、わりあい長く映し出されるシーンがいくつかある。何か意味があるのだろうか。
④天使を大空に飛び立たせて終わる、ということにどのような意味があるのか。
⑤アニメ開始後すぐ、パトロール装甲車が登場するシーンは、「On Your Mark」というタイトルが登場した後のシーンとどのようにつながっているのか。
 
【④の謎・「天使」の意味】
 今回は、④の謎の分析の続きです。
 前回、歌詞を映像分析に利用すること、特に、天使が最後に飛ぶシーンに重なる歌詞に注目してみること、天使を飛ばそうとしたシーンが4回あり、歌詞にも4回でてくる語があること(こじつけ感ありですが)を指摘しました。これらを念頭において、以下分析を進めましょう。
 最後に、2人が黄色い車に乗って天使を飛ばすシーンがあります。そのシーンにどのような歌詞が重なるのか、DVDで再生する際、「歌詞あり」で再生してみてください。その天使を飛ばす場面に重なる言葉は、「夢の心臓めがけて」です。ちなみに、「夢」という言葉が、この歌詞の中に4回出てきます。天使を飛ばそうとするシーンも4回です。この「天使」をどのように理解したらいいのでしょうか。具体的に物語を理解しようとしても、どうしても意味不明になってしまいます。つまり、2人は、天使を空に飛ばしたかった、ということなのですから、その意味が分からなくては、このアニメの内容はよく分からないままなのです。
 そこで、悪戦苦闘した結果、採用した解釈の仕方が以下のようなものです。もしかすると、「天使」は重なった歌詞と関連があるのではないでしょうか。そうです。具体的なストーリーを一度脇に置いて、「天使」が何かを表しているとするならば、それは、その場面の歌詞にあるのではないか、と(妄想的に)考えてみるのです。この天使を飛ばそうする場面を停止させてみると、「夢」という言葉がこの場面の歌詞の中にあるではありませんか。「天使」は「夢」そのものを表して(象徴して)いると考えられないでしょうか。
 さらに妄想を続けて、天使が大空に飛び去っていく時、天使も車に乗っている2人も大いに満足しているところから、「大空」「天使=夢」の居場所なのではないか。「夢を大空に飛ばす」とは、「夢を本来あるべきところに戻す」ことを意味するのではないか、と考えてみるのです。すると、アニメ全体はどのように理解することができるでしょうか。この考え方を、他の具体的なものにまで拡張してみましょう。
 
【④の謎・象徴分析を全体に広げる】
 つまり、「天使」は「夢」を象徴する具体的な存在であるとしたら、「謎の集団」、「警察組織」、「科学者(の実験)」という具体的な存在者や組織・活動は、それぞれ何を表していると考えることができるでしょうか。
 「謎の集団」は、狂信的な信念を持った集団で、その集団の建物に警察の飛行艇が突っ込み、信者らしき人物たちを皆殺しにする、という残虐に見えるシーンがありました。具体的には、残虐なのですが、これを具体的にではなく、象徴的に、つまり抽象的な観念に置き換えて考えてみると、どうなるでしょうか。狂信的、ということは、偏見に凝り固まった信念、容易に修正できない極端な考え方、というふうに置き換えられるでしょうか。それを皆殺しにする、ということは、その狂信的な信念を否定する、ということを表しているように思えます。
 「警察組織」は、いわば目的のはっきりした、安定した集団です。その組織にいれば、毎日の業務も明確です。組織には、その組織のルールがあり、慣習があり、これまでのやり方に従う必要があります。それらが一概に悪いわけではなく、否定されるべきものではありませんが、しかし、時には、修正も必要でしょう。現実に、そのルールに従って行動していることが当たり前の日常になっていると(自動反応)、次第に自分の存在が歯車の一つになっていることに気づけないかもしれません(自己喪失)。CHAGEとASKAが、この組織のルールから逸脱したのは、組織そのものを否定したというより、その組織内で生じている自動反応による自己喪失に気づいたことを表しているように思います(先走りますが、最後の⑤の謎の分析で指摘したいと思いますが、このことは装甲車で地上をパトロールしていることと関係していると思われます)。
 「科学者(の実験)」は、合理的に、時には功利的に、思考し行動する集団を形成します。このアニメでの「科学者」は、自然科学者が代表しているようですが、一般的に言って、「学者」はそのような傾向があると言えるのではないでしょうか。特に、自然科学者の実験は、分析的、機械的な印象を与えます。切り刻まれる感じです(もちろん、その成果は、病気をなくしたり、生活改善の手助けになったりと、彼らの活動は一般の人たちの生活をより豊かにするために行なっているとは思いますが)。その科学者たちの考え方、つまり、「天使」の特徴を合理的に、機械的に分解し、そこから得られた要素(成果)を薬のように処方しようという行動は、彼ら2人には耐えがたい誤謬であると感じられたのではないかと思います。「夢」は物ではなく、生きもので、分解したら死んでしまうと。
 以上のことをまとめてみますと、例えば、次のような等式が考えられます。
 
天使
謎の集団凝り固まった考え方・偏見
警察組織組織の規制・ルールに縛られること・「夢」を忘れてしまう日常生活
科学者行き過ぎた合理的・功利的・機械的考え方
 
このような等式で、再度このアニメを見直してみましょう。
 もしも、私たちの抱いている「夢」が、凝り固まった考え方や偏見に囚われているとしたら、「夢」は次第に力をなくし、ついには痩せ細って、死んでしまうかもしれません。このアニメでは、謎の集団を壊滅状態にするという残酷なシーンが映し出されていますが、それを具体的に文字通りに理解するのではなく、象徴的に、上記に指摘した「凝り固まった考え方・偏見を徹底的に排除する」、というように解釈するのです。
 また、社会のルールや組織の力を借りて、そのような偏見から「夢」を救い出すまでは良かったのですが、その「夢」を有効活用するためには、要素に分解し、万人に活用できるよう、いろいろと実験をして試してみる必要がある、と科学者たちは考えるでしょう。いわゆる、科学者集団の考え方です。科学的で、合理的、機械的な思考で、「夢」を分解して、薬のように万人に与えることができれば、これほど有益なことはないでしょう。
 しかし、このような考え方は、何かがおかしいと気づいた2人は、科学者たちから「天使」である「夢」を奪還します。「夢」は、科学的合理的に分解する思考や実験の対象ではなく、本来あるべきところ、もしかすると、達成できない(届かない)かもしれないところ、すなわち大空にあるべきものではないでしょうか。そこには、もしかすると、危険(このアニメの具体的な表現としては、地上の環境汚染)があるかもしれません。その「夢」を追うことで、人は「夢」をかなえることができず、心理的にも身体的にも傷つくことがあるでしょう。しかし、「夢」は、本来そういう場所にあるものなのです。大空に飛び立つ時、「天使」がうれしそうな、満足げな表情をしていました。それは、囚われた野生の動物たちが野生に戻った時の表情なのかもしれません(もっと必死な表情かもしれませんが)。
 
【④の謎・分析の材料・タイトル】
 さらに、このアニメを考える材料があります。それは、タイトルです。「On Your Mark」とは、「位置について」「よーい」「ドン」の「位置について」です。これから、走り出すための出発点に立つことです。いったい、何の「位置」なのでしょうか。まさか、徒競走ではないでしょう。ここから先は何も材料がありませんが、これまでのアニメの分析手法から推測しますと、このアニメでは主人公の生き方に関わっているわけですから、「人生の位置」と考えてもおかしくはないでしょう。人がこれから生きるに値する人生の位置に着くため、「夢」を本来あるべきところに、つまり、達成できるかどうか分からないし、達成には危険がつきまとうかもしれませんが、自分の「夢」を自分の生活の場に持つこと、それが「位置について」で表されている、とみなしてもいいように思います。
 
 まだ、分析は続きますが、以上と同じくらいの長さが必要となりますので、いったんここで止めておきます。次回は、繰り返しの意味と、これまでの分析から抽出できる、このアニメに込められたメッセージの作成、そして⑤の謎の分析です。今回は、中途半端で終わりです。ご容赦ください。

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