CHICHINOHI
あたしが生まれたその日。
病院の窓から稲刈りをする人がよく見えたって
あなたはいつかあたしに教えてくれた。
*
お父さんへ
*
なかなか素直になれないけれど
いつもこっそり思うことを、
いつだって、母の日にやきもちをやいていたあなたに
今日ばかりはちゃんと伝えようと思うよ。
1人でこっそりと読んでね。
*
小さいころのあたしのおもいでは
いつだって、
あたしにカメラを向けて笑うあなたです。
*
そのカメラを通して残してくれたものは
あたしの小さいころの想い出。
そして。
あたしへの愛情。
わかりやすく形にしてくれた大事なもの。
*
いつかあたしがあなたを傷つけた日。
あなたに言ったあのことばを
思いだすたびにあたし自身が痛くなった。
あなたはそれでも
あたしを守ってくれていたと知った日。
あなたの大きさを知った日。
*
あたしもだんだん年をとり、
今では少しずつやっと見えてきたものがあるんだ。
あなたがあたしの名前にどんな願いをこめたのか。
あのときどんな気持ちで病院の窓をながめたのか。
あたしがはじめて歩いた日のこと。
そこにあるのものは「たったひとつ」だったよ。
*
あたしがどんなに傷つけても
それでも変わらずにいてくれたあなた。
あなたが守っていた「たったひとつ」は
どれだけ強くあったのだろう。
どれだけあなたを支えていたのだろう。
*
あなたが持ってた「たったひとつ」が
今ではあたしのことも守ってくれるんだ。
あなたを支えていたそれに
たくさんのあなたのこころが入って
すごい力をもってあたしを支えているんだよ。
*
お父さん。
あたしを生んでくれてありがとう。
あたしを信じてくれていてありがとう。
あたしを守ってくれてありがとう。
「たったひとつ」を、ありがとう。
*
あなたにそっくりなあたしは
きっといつまでもつながっていられる。
きっとひとつになれるんだ。
あなたがどこに行ったとしても。
*
大事な大事なあなたへ。
「父の日」というすてきな日に
あなたがさみしい想いをしませんように。
*
あなたが見たあの日の病院からの稲刈りの姿は
きっとあたしがたどり着きたい場所。
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