#3(ジャズライブバー)
「赤ワインのグラスをお願いします。」
都内の一等地にあるライブバー。来たのは初めてだった。
カーペンターズやノラ・ジョーンズ、小野リサ、そういうゆったりとした音楽が昔から好きだった。
勉強や部屋の掃除をするときなどによく音楽をかけた。
ダンスミュージックのようなノリのよい曲、恋愛を歌った流行りの歌、どれも最初はいいのだが、だんだん乗ってきたときに、作業に対する意識と音楽がバッティングしてしまう気がした。
”気遣いの音楽”
私が昔から好む音楽を、私はそう呼んでいる。こちらの様子を見て、スッとBGMになってくれる。作業がひと段落して一息つくと、またバックグラウンドから戻ってくるのだ。
「お待たせしました。」
紙でできたコースターにウェイターが丁寧に置き、会釈をして帰っていった。
今日は海外でも評価が高い日本人アーティストのライブだ。ピアノを得意とし、シンセやボコーダーを操ってつくる独自の世界観が高い評価を受けているという。コラボ歴などを見てみても錚々たるメンツだ。
パチパチパチパチ
拍手が起こった。登場だ。
♢
私は帰路についていた。
演奏は、最初からはげしかった。
正直、声も出ないくらい圧倒されていた。
鍵盤2台を操り、シンセで自在に音を変え、ループさせ、音を組み合わせる。数秒前にだした自分の音にリアルタイムでまた音をかぶせ、それらの音をまたループさせ、という動作を全身を使って行うその様は、まさにパフォーマンスそのものだった。
1時間ほどの演奏だったが、短いとは感じなかったどころか、むしろ圧倒的な情報量に、早く終わってほしいとさえ思った。
私は、とても興奮していた。
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