人の相性【小説】
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泥棒がケチンボの家へ入ってピストルを見せて、お金を出せと言いました。ケチンボは、
「ただお金を出すのはいやだ。その短銃ピストルを売ってくれるなら千円で買おう。お前は私からお金さえ貰えばそんなピストルは要らないだろう」
泥棒は考えておりましたが、とうとうそのピストルを千円でケチンボに売りました。ケチンボは泥棒からピストルを受け取ると、すぐにも泥棒を撃ちそうにしながら、
「さあ、そのお金ばかりでない、ほかで盗んだお金もみんな出せ。出さないと殺してしまうぞ」
と怒鳴りました。
泥棒は腹を抱えて笑いました。
「アハハ。そのピストルはオモチャのピストルで、撃っても弾丸たまが出ないのだよ」
と言ううちに表へ逃げ出しました。ケチンボはピストルを投げ出して泥棒を追っかけて、往来で取っ組み合いを始めましたが、やがて通りかかったおまわりさんが二人を押えて警察へ連れて行きました。
警察でいろいろ調べてみますと、泥棒が貰った千円のお金はみんな贋物のお金で、ピストルはやっぱり本物のピストルでした。
二人共牢屋へ入れられました。
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牢屋にて、ケチンボは憤っていました。
「あいつが来なければ俺は今頃こんなことにはなっていなかったはずだ。あいつのせいだ」
一方の泥棒は、
「あいつはなんだって俺に抵抗してきたのだ。贋物のお金なんてなんのやくにも立たないじゃないか。牢屋に入ったのは不服だが、まんまと贋物をつかまされるよりはよかった。」
「それにしても、ピストルを向けられたときは焦った。とっさの嘘だったが、うまくいったものだ」
と、状況をいぶかしがりながらも、なんとなく得をした気分になっていました。
♢
おまわりさんは不思議でした。おまわりさんにしてみれば、ケチンボが贋物のおかねを必死で守ろうとした理由も、金銭の対価はあれど、泥棒がピストルを渡してしまった理由もわかりませんでした。
「不思議なこともあるものだ」
おまわりさんは手元の紙きれに一言、”似た者同士”と書きつけました。
完
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