#1(骨董店)
「鍔なんかは今もそんなに変わらないけど、掛け軸とか刀とかはもう10分の1以下だね。」
駅に行く途中に立ち寄った骨董店で、店主はそういいました。
「時代によって流行がある。今は床の間なんて家にないからさ、当然掛け軸なんて買う人がどんどん少なくなっているんだ。壁に飾る絵だってさ、今の壁じゃ耐え切れない。重くて。」
「そうなんですか。」
「君は白洲正子が好きだからって言ってたけど、若い人がここに立ち寄る人なんて珍しいよ。私はそういう本みたいなものは読まないけどね。コレクションの写真集とかは持ってるけど。本とかでお金を儲けようってのがどうもね。」
ちょっと待ってね、といって店主は店の奥に引っ込んだ。店と奥は、藍色の暖簾で仕切られていた。奥は住居なのかもしれない。
「ほら、これだ。」
「白洲正子のコレクション。」
「そう、今じゃ出回ってるみたいだけどね、白洲正子が持っていた、ってだけで値段が3倍くらいになるんだ。やんなっちゃうよね。」
店主は笑った。
「そこに一つあるけどね。」
店は、ありとあらゆるお宝で埋め尽くされていた。ガラスのショーケースの中に鍔がずらりと並び、壁には能楽のお面や、飾りと思われる天狗のお面、江戸時代に使われていたという刀などが飾られていた。床には掛け軸が積まれていた。勝海舟や、徳川慶喜のものもある。
「こういうのは、骨董が出回る市場で仕入れるんですか。」
「そういうのもある。けど、家庭からの持ち込みもあるよ。」
「最近はどうですか、なかなか前ほど欲しがる人も少なくなってきたっておっしゃってましたけど。逆に持ち込みとかは増えてたりとか。」
「それがね、そうでもないんだよ。やっぱりいい値がつかないからね。買う人も少なくなってるから、全体的な市場が小さくなってるんだ。人っていうのは値段が張るほど価値があると思う生き物なんだよ。今の値段だったらやっぱり誰も買いたがらない。」
「そうですか。意外です。」
「きちんとした文芸評論がすくないんだよ。本屋に行ったって、ほとんどない。それじゃあ、魅かれる人が減っていくのは当たり前だよ。」
僕はコーヒーを一口飲んだ。
「お皿とか、壺とか、気に入ったものに囲まれる生活には憧れがありますけどね。掘り出し物の中から見つけたとか、手触りが好きとか。」
「そういうもので好きになるなら、それもありかもしれないね。」
ごと。
「ごちそうさまでした。そろそろ行きます。」
「雨降りそうだけど。気を付けてね。」
「はい。」
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