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自分のための備忘録

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古今東西の名作からセレクトしました。 思想・寓話が多め。 ※文章はすべて青空文庫からの転載であり、著作権が切れたものに限定しています。 青空文庫へのリンクはこちら↓↓↓ www…
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#小説

自分のための備忘録②ー葉山嘉樹『セメントの樽の中の手紙』

自分のための備忘録②ー葉山嘉樹『セメントの樽の中の手紙』

 松戸与三はセメントあけをやっていた。外の部分は大して目立たなかったけれど、頭の毛と、鼻の下は、セメントで灰色に蔽おおわれていた。彼は鼻の穴に指を突っ込んで、鉄筋コンクリートのように、鼻毛をしゃちこばらせている、コンクリートを除とりたかったのだが一分間に十才ずつ吐き出す、コンクリートミキサーに、間に合わせるためには、とても指を鼻の穴に持って行く間はなかった。
 彼は鼻の穴を気にしながら遂々とうとう

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自分のための備忘録①ー岡本かの子『慈悲』ー

自分のための備忘録①ー岡本かの子『慈悲』ー

 ひとくちに慈悲ぶかい人といえば、誰にでもものを遣る人、誰のいうことをも直ぐ聞き入れてやる人、何事も他人の為に辞せない人、こう極きめて仕舞うのが普通でしょう。それはそうに違いないでしょう、それが慈悲ぶかい人の他人に対する原則ですから。
 然し、原則というのは結局原則であります。ものごとが凡て、原則どおり単純に行って済むのなら世の中は案外やさしいものです。お医者でも原則通りですべて病人が都合よく処理

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