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自分のための備忘録

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古今東西の名作からセレクトしました。 思想・寓話が多め。 ※文章はすべて青空文庫からの転載であり、著作権が切れたものに限定しています。 青空文庫へのリンクはこちら↓↓↓ www…
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2022年5月の記事一覧

自分のための備忘録⑬ー原民喜『気絶人形』ー

自分のための備忘録⑬ー原民喜『気絶人形』ー

 くるくるくるくる、ぐるぐるぐるぐる、そのお人形はさっきから眼がまわって気分がわるくなっているのでした。ぐるぐるぐるぐる、くるくるくるくる、そのお人形のセルロイドのほおは真青になり、眼は美しくふるえています。みんなが、べちゃくちゃ、べちゃくちゃ、すぐ耳もとでしゃべりつづけているのです。暗いボール箱から出してもらい、薄い紙の目かくしをはずしてもらい、ショーウインドに出して並べてもらったのでみんな大は

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自分のための備忘録⑫ー竹内浩三『人生』ー

自分のための備忘録⑫ー竹内浩三『人生』ー

映画について

むつかしいもの。この上もなくむつかしいもの。映画。こんなにむつかしいとは知らなんだ。知らなんだ。

金について

あればあるほどいい。又、なければそれでもいい。

女について

女のために死ぬ人もいる。そして、僕などその人によくやったと言いたいらしい。

酒について

四次元の空間を創造することができるのみもの。

戦争について

僕だって、戦争へ行けば忠義をつくすだろう。僕の心臓

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自分のための備忘録⑪ー芥川龍之介『英雄の器』ー

自分のための備忘録⑪ー芥川龍之介『英雄の器』ー

「何しろ項羽こううと云う男は、英雄の器うつわじゃないですな。」
 漢かんの大将呂馬通りょばつうは、ただでさえ長い顔を、一層長くしながら、疎まばらな髭ひげを撫でて、こう云った。彼の顔のまわりには、十人あまりの顔が、皆まん中に置いた燈火ともしびの光をうけて、赤く幕営の夜の中にうき上っている。その顔がまた、どれもいつになく微笑を浮べているのは、西楚せいその覇王はおうの首をあげた今日の勝戦かちいくさの喜び

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自分のための備忘録⑩ー森鴎外『文芸の主義』ー

自分のための備忘録⑩ー森鴎外『文芸の主義』ー

 芸術に主義というものは本来ないと思う。芸術そのものが一の大なる主義である。
 それを傍から見て、個々別々の主義があるように思うに過ぎない。
 Emile Zola(エミール・ゾラ)なんぞは自家の芸術に自然主義という名をつけていた。そうして書いているうちに、しだいにその主義というものに縛せられてしまって終に出した二、三部の作は、すこぶる窮屈なものになっていた。
 近ごろイタリヤの Fogazzar

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