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雨に嫌われた今日
Photographはphoto(光)とgraph(書くこと)が語源であるように、カメラを趣味にしていると「太陽」と仲がいいことが大切になる。
ボクは自他ともに認める晴れ男で、大雨が降っていてもボクが車を降りるときには晴れていることなんかザラ。『弁当忘れても傘忘れるな』と言われるほど雨が多い金沢に住んでいながら、ボクは傘をもたずに生活している。
そんな人に自慢しても大して話題にもならない特技のおかげで、ボクのカメラライフは結構充実していると思う。
『いい時も悪い時も、その時の感情や状況を大切にしたい』
人生は波の引き寄せのようにいい時もあれば悪い時もある。ボクの身の回りに起こっていることも一時の寄せ波。
だからボクは、その時の状況にぴったりなBGMを選択して、自ら深い井戸の下に降りていく『ねじまき鳥クロニクル』の「僕」のように、静かに暗い底に座って遠くの空と流れる雲を眺めている。
今は、暗い井戸のそこで仰向けに寝っ転がって空を眺める時だ。
昨晩から続いた大雨が小雨に変わった頃、ボクは一緒に16万キロの道のりを共にしたマニュアルシフトの軽で家を飛び出した。手にはドリップしたてのホットコーヒーとストラップすらついていないα7RⅢを持って。
昼でも暗い森の中は、毎日積み上がっている数字を伝えるニュースの喧騒は届かず、雲か霧かわからないもやがボクの目の前を流れている。
命が芽吹く時の吐息がそこら中に漏れているかのように埃っぽい憂鬱な春の姿はそこになく、クリーナーで久しぶりに拭き取ったスマホのディスプレイのようにボクの目の前に艶やかな世界が広がっている。
思春期を終えた青年が、これまでの数年間を恥じながらも、これからの数年間に大きな期待を持って一歩を踏み出すように、そこかしこからミドリの小人が立ち上がっている。
シャワー上がりの彼らは憑物を落としたようなすっきりとした表情でボクのα7RⅢの前に立ってくれている。
暗い中に微かに見える希望のように。
『今日はいいのが撮れる』
そう確信したボクは間欠ワイパーを動かしながら、ハンドルを山頂へむけた。
ボクが目指したのは山の頂上から少し下がったところにある大きな二つの池。大きな池と小さな池があるから夫婦のような名前を付けられているこの池は、人の目に触れる機会が少なくて知る人ぞ知る隠れスポットだ。
池のすぐそばまでクルマをつけて、α7RⅢを片手にボクは飛び出した。
もう一度言うけど、ボクは晴れ男だ。大雨が降っていてもボクが車を降りるときには晴れていることなんかザラ。
さっきまで雨を降らせていた空は、ボクがクルマを降りたことを見て雨を降らせることをやめたらしい。空には一気に青空が広がる。
そう、ボクは晴れ男だ。
α7RⅢをボクの目の高さに合わせた頃には、太陽が顔を出し霧はなくなっていた。ボクが撮りたかったのはどん底の世の中を表すように暗いけど、その中に一筋のヒカリが見えるような、そんな風景を撮りたかった。
でも目の前に広がっているのは。。。
ボクの背後にはもうすでに青空が広がっていた。
雨に嫌われた今日のボク。
もう少し雨にやさしくしてあげるためにこれからは傘を持つようにするよ。
つらい時はムリに明るく振る舞わなくてもいい。気持ちのままに深いところに沈んでいけばいい。引いては寄せる波のように、いつか必ずボクたちの目の前には明るい世界が広がるから。
だからこそ今は、暗く息苦しい世界を全身で感じてボクなりの言葉と写真で表現していきたいと思っている、そんな晴れ男な一日。
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