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オススメ映画レビュー【シングルス 1992年】PIZZA COLA DIARY #02 “キャメロン・クロウだからこそ、作り得た普遍的名作”

PIZZA COLA DIARY #02    

今回は1992年制作のアメリカ映画 キャメロン・クロウ監督の『シングルス』を紹介したいと思う。グランジロック全盛のシアトルを舞台に6人のシングル=独身生活愛好者たちの友情や恋愛など人間模様を描いた作品だ。現在でも根強いファンを持ち来年30周年を迎える本作の魅力について語っていきたい。

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1.【時代背景ーファッションと音楽】

この作品の時代背景であるが、そもそもグランジロックは、この映画の舞台となるシアトルを中心に全米へと広がっていったムーブメントでシアトル出身のバンドたちが大きな成功を収めていった。この映画には、その時代背景が大いに反映されており当時のカルチャーを知る教科書的な側面もある。

グランジ (Grunge) とは、ロック音楽のジャンルのひとつ。「汚れた」、「薄汚い」という意味の形容詞 "grungy" が名詞化した "grunge" が語源。1989年頃からアメリカ・シアトルを中心に興った潮流であり、オルタナティヴ・ロックの一つである。

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ファッションについては、グランジルックと呼ばれたネルシャツ、ダメージデニムやカーディガンといったスタイルを登場人物たちも着用しており特に劇中のブリジット・フォンダの着こなしは今見ても新鮮で可愛らしい。 バンドTシャツが高騰している近年でも、参考にできるスタイルが多々ある。

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劇中で流れる音楽についてもグランジロックが満載である。Mudhoneysoundgardensmashing pumpkinsPearl Jamなどの楽曲が劇中で使用され サウンドトラックは当時ミリオン越えの大ヒットを記録したそうだ。Alice in chainsが爆音で演奏する中、主人公たちが出会うというシチュエーションにも痺れるし、Pearl Jamのメンバーが映画にカメオ出演していたりとファンにはたまらない。(ちなみにNIRVANAの楽曲“Imodium”(後に名盤“nevermind”に“breed”として収録された)を使用する予定もあったそうだが、うまくいかなかったらしい。)ただ、これらのファッション、音楽といったグランジムーブメントを取り扱った映画ということだけであれば ここまで長く愛される映画にはならなかった。

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2.【監督 キャメロン・クロウの存在】

そこで重要になってくるのが、この映画で監督を務めたキャメロン・クロウの存在である。そもそも、キャメロン・クロウは 15歳の時に全米でもっとも有名な音楽雑誌“ローリングストーン”誌でキャリアをスタートさせており、音楽についての造詣がとても深いのである。(このキャリアについては彼の自伝的映画作品『あの頃ペニーレインと』で描かれているのでぜひ観てみてほしい。)そんな彼だからこそ、しっかりと当時の背景を丁寧に読み取り、血の通った作品になったのだ。彼の作品だから、参加したというアーティストもいたと思うし、彼で無ければ 中身の無いファッション映画になっていたことだろう。

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キャメロン・クロウはこの映画で監督、制作、そして、脚本まで務めている。彼は前述したローリングストーン誌のライターとしてキャリアをスタートした後、大学卒業後に高校生の話を書きたくなって人知れず高校に再入学し、1年間潜入取材をしてリアルな当時の高校生のライフスタイルを描いた小説“Fast Times at Ridgemont High”を出版化する。この小説が好評で1982年『初体験/リッジモントハイ』として映画化され その際に彼は脚本を務めた。この映画は450万ドルの低予算に対し、2,700万ドルの特大ヒットとなり その後、1989年にジョン・キューザック主演の青春映画『セイ・エニシング』で彼は監督デビューを果たした。その後、全ての監督作品で脚本まで務めている。

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3.【愛すべき隣人たち】

彼のほとんどの作品で共通しているのが、丁寧な人物描写である。脚本を兼任しているという点が大きいと思うが、今作も実に登場人物たちが瑞々しくまるで実在するかのようにしっかりと描かれている。マット・ディロンが演じた“クリフ”は女を振り回す典型的なバンドマンだが、どこか憎めないし そのクリフに振り回されるブリジット・フォンダ演じるジャネットは うまくいかない恋愛を通して自分という存在を見つめ直していく。初めての一人暮らしの喜びも束の間、突然の失恋にショックを受けるキーラ・セジウィック演じるリンダは、“独身が一番だ”と仕事に燃えるキャンベル・スコット演じるスティーブと出会い 愛を深めていくが思わぬ事件が二人の行く末を阻む。

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彼らが直面する出来事は、どれもすごく身近だ。“誰かと出会い恋に落ちる”、“やりたい仕事を見つける”、“週末の夜に友達と出かける”、そういった身近な出来事が決して大袈裟でなく等身大で描かれている点がこの作品を含めキャメロン・クロウ監督の大きな魅力だ。主人公たちはいわば誰の生活にもあてはまる身近な愛すべき隣人たちなのである。この映画を観ると、身近な問題で悩む登場人物たちを愛おしく感じると同時に自分の生活にも愛おしさを感じることが出来る

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4.【カルチャー映画から普遍的な名作へ】

この作品には派手な特撮も、大どんでん返しも、スリルもサスペンスも無いが 自分の生活に立ち返って考えた時に 共感する瞬間がある。日常生活には映画ほどおしゃれな出会いは無いかもしれないが、何気ない近所の公園の風景が少し違ってみえたり、身近な家族や恋人・友人の存在を改めて考えたり、仕事を行う上での視点が変わったり、本作はそういった日常生活に彩りを加え、良いヒントをくれる作品だと私は思う。だからこそ、全米の沢山の悩める人々の共感を呼び 単なる一過性のカルチャーを取り扱った作品では無く 30年近く経った今も愛される普遍的な名作になったのでは無いだろうか。

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5.【日常生活と映画】

キャメロン・クロウ監督は 今作の公開後 1996年にトム・クルーズ主演の『ザ・エージェント』でアカデミー作品賞、2000年に前述した自身の自伝的映画『あの頃、ペニーレインと』でアカデミー脚本賞を受賞し その後も2005年『エリザベスタウン』や2011年『幸せへのキセキ』など派手さは無いが 今作同様 愛すべき隣人たちを描いた良作を数多く発表している。この作品を観て気に入った方はぜひ その他のキャメロン・クロウ監督作品も鑑賞してほしい。どの作品も、昔からお互いを知っている友人のように人懐っこく あなたの一番の理解者として、生活に良いヒントをくれるだろう。

ふぇふぇ

still in a dream 愛媛県在住、ソロプロジェクトとして2018年4月に活動を開始。 全ての楽曲制作・映像、アートワーク制作を自身で行っている。 2020年12月 初となるシングル “faith”、翌年4月にはセカンドシングル“TONIGHT”を配信リリースした。 


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