残高管理 - 資産運用サービス ラップとシステム ②
はじめに
前回の投稿「資産運用サービス ラップとシステム ①」では、ラップ契約残高が10兆円を超えたこと、そもそもラップって何?といった内容を記載しました。資産運用サービス ラップとシステム①
今回は、証券業的に言うと「お客様からお預かりしている」、投資運用業的には「お客様から資産運用を託された」お客様の資産の残高を、投資運用業的にどのように管理しているかについて記載したいと思います。
証券システムや投信銀行窓販システムの残高管理との違い
普通、こんな風に感じますよね?ところが、残高の考え方が少し違うんです。投資信託や現物株式などの金融商品の残高は、一般的に、証券業における預り管理、投資運用業におけるポートフォリオ管理とも取引の約定日に約定した数量分預り残高を増減させます。もちろん、受渡日に増減させる受渡ベース残高も管理していますが、一般的に利用されている(見ている)のは約定ベース残高です。ところが、預り金やMRFといったキャッシュ性資産については、証券業では金融商品の取引の受渡日に増減させるのに対して、投資運用業では金融商品の取引の約定日に増減させます。
ポートフォリオ管理ではキャッシュ性資産の増減を金融商品の取引約定日に行うか?
投資信託A、投資信託Bとキャッシュ性資産で構成されるポートフォリオを保有しているとします。
投資信託Bを一部売却した場合の売却約定から売却受渡までのポートフォリオの総資産評価額を見てみましょう。シンプルにするため、その間、保有する金融商品の時価単価に変動はないものとします。時価単価に変動がなければ、ポートフォリオの総資産評価額は変わらないはずですよね?ところが、下記の図を見てみてください。売却の約定日から、売却の受渡が起こる前までは、投資信託Bの一部売却額分、総資産評価額が低くなっています。下世話な言い方すると、その間、やられているように見える。ですが、実際はそうではありません。受渡代金が入ってくると元に戻ります。これは、上記のような、金融商品の残高は約定日に、キャッシュ性資産の残高は金融商品の受渡日に増減させる証券業スタイルだとこうなってしまいます。
ポートフォリオ管理では、日々ポートフォリオの評価額を管理し、日々どれぐらい増減しているか(日次収益率)も管理します。簡単に言うと日々どれぐらい儲かったか、どれぐらい損したかを管理しています。上記の図のような管理方式では、3日間損しているように見えています。何度も言いますが、実際はそうではありません。ポートフォリオ管理においては、総資産評価額の連続性を維持するため、下記のように管理しています。
2種類の残高作成方式
上述の通り、キャッシュ性資産の残高については、証券システムとラップシステムで異なります。そのため、どのような方式を採用しても、ラップシステムにおいて残高を計算するという行為が発生します。キャッシュ性資産以外(投信や現物株式など)の金融商品の残高作成については、概ね2方式に分類されます。ラップシステムで保持している前日の残高に当日の取引(約定)を適用し、残高を算出する方式(自己完結方式)が一つです。もう一つは、証券システムから連携される残高情報を取り込む方式(証券システム依存方式)です。
自己完結方式の方が長く採用されてきたように思います。発注・注文受付プロセスが高度にシステム化されておらずヒューマンエラーの入り込む余地があるようなら、自己完結方式でそのエラーを検知できるようにしておく必要があります。また、証券会社と投資運用業者の関係性が薄く、とことん信用できない場合には自己完結方式をとらざるを得ません。
一方、証券システムと一蓮托生、高度にシステム連携されておりヒューマンエラーが起こる余地がない場合などは、残高作成機能を作りこむ必要がなくコストが抑えられる、夜間処理のコンピュテーションコストも下がるということで、証券システム依存方式がいいと思料します。
最後に
今回、ラップシステムでの残高管理ついて記載してみました。知ってれば難しい話ではないですが、知ってないと全くわからない話かと思います。
何か他のネタで書いてほしいみたいなのがあれば、是非、コメントください。
関連ノート
資産運用サービス ラップとシステム①
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乖離検知 - 資産運用サービス ラップとシステム ④
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報酬(概要) - 資産運用サービス ラップとシステム ⑥
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成功報酬- 資産運用サービス ラップとシステム ⑧
適宜関連ノートは追加していきます。