幻覚二次創作 - La prière FANLETTER 『ILLUMINATION』
ATTENTION【注意書き】 本文の前に必ずお読みください
・当記事は、『La prière Advent Calendar 2024』22日目の記事です。
21日目の記事はこちらからご覧ください。
・こちらは、La prière様の楽曲『Time Lapse Lights』の二次創作(とは名ばかりの幻覚)小説です。
・元楽曲URL:https://www.youtube.com/watch?v=xCVBxGOCGm0
・当記事はLa prière二次創作ガイドラインに則って制作しております。
・公序良俗に反するまたは反社会的な表現および特定の思想・信条または宗教的、政治的メッセージを含んでおりません。予めご了承ください。
・なんでも許せる方向けとなっております。地雷を踏んだ方はそのまま爆発してください。
・すまんかった。
本文
1
『ええと、つまり? あなたには一緒にイルミネーションを見たい人がいる、と』
『そうなんです』
インターネット上でしか、言えないこともある。
過疎という言葉が似合う掲示板。
そんなところに、私は肯定のメッセージを送って、息をついた。
『私にってか、こんなところに書くことじゃないでしょ、それ』
『そうなんですよそうなんですけど!』
携帯の画面が鈍く光る。
私のほかに書き込みをしているのはコテハンがついた一人だけ。愛川という名前はきっと偽名だろう。
どこかやりきれない気持ちを抱えながら、私は教室に目を向けた。
別にこんなところにいなくたって高校生活なんて送れるのになあ、なんて考えながら。
携帯のブラウザウィンドウを新しく開いてみれば、ニュースはいくらでも目に入る。
『東京 地価の高騰止まらず』『超高層ビル街と化した大岡山』『トーチタワーも今や低い!? 最新不動産事情』……そんな記事は探さなくても出てくる。
親に流されて通学するタイプの高校なんて選ぶんじゃなかった。
ビルの16階に組み込まれた教室から外を見てみる。道路を挟んだ先にあるビルしか視界に映らないけれど。
物理的な教室がある高校。
もう東京では絶滅危惧種みたいなものらしい。
実際、中学生時代のクラスメイトはアバターでしか見たことがない子もいた。
当然、VR空間で授業するわけじゃないから接続用端末は高校にない。
だからこそ、こんな過疎った掲示板に私はいるのだけれど。
『そもそもイルミネーションとかやってるものなの? ビルの夜明かりに負けるイルミネーションなら映えないでしょ』
そこは抜かりない。私の頭にはしっかりと調べた情報が刻まれている。
『丸の内でやってるらしいんですよ』
『あのへんか』
皇居から東京駅にかけては、災害対策も兼ねて広々とした道が整備されている。
海外から来る観光客の玄関口的な側面もあるので、景観がそれなりに優先されている区画だ。
『ま、いいんじゃない。誰を誘いたいのかも知らないけど』
返事はそれだけだった。
愛川さんからしたらどうだっていいのかもしれない。極論言ってしまえば顔も知らない他人なのだから。
それでも、素っ気なくても、貶すこともなく、笑うこともなく、ただ私の背を押してくれる。そんな人だから、私はこの掲示板に来ている。
『ああ、でもひとつだけ』
『いくら人が多い街で探すのが大変だからってさ、今ので東京に住んでるのがバレるから書かない方がいいよ、個人情報』
こうして最後に釘を刺してくるあたり、素っ気ない態度なのに優しさを感じてしまうのだ。
2
学校の廊下を歩いていると、ギターケースを背負いながら歩く人影を見つけた。
私はその方向に歩く。声をかけると、綺麗なバリトンボイスで返事が返ってきた。
「どうした?」
息を吸い込む。上擦らないように、精一杯落ち着けと自分に言い聞かせる。
「イルミネーションをさ……」
誘いたい人というのは、彼その人だからだ。
「……みみみみ、見に行きたい人がいるんだけどぉ……」
噛んだ。噛んでしまった結果、変なことまで口走ってしまった。
うわああああああ、と頭の中の私が叫ぶ。こんなことを言いに来たんじゃないのに、と。
目の前の人は、一瞬考えるような仕草をして、こう言った。
「おう、じゃ場所変えるか」
恥をかかせないようにするためなのか、落ち着かせるためなのか。
空き教室をこっそり借りて、私と彼はふたりきりになった。
「で、誰よ」
それがかえって私をオーバーヒートさせてしまうのだけれど。
きっと、私の顔は今ごろ真っ赤になっているだろう。
「……言えない」
「おー、そう来たか」
言ったら、私がどうにかなってしまいそうだから。
胸の中のこの思いは、本当は一緒にイルミネーションに行きたいっていうものじゃないから。
「でも、お前のそういうところ好きだけどな。ちゃんと真剣に思ってなきゃ、そんな顔できないだろ」
駄目だ。彼の目が見えない。全部見透かされているようで、下を向くことしかできない。
「じゃ、ゆっくり考えようぜ。お前がちゃんと誘えるような伝え方」
そう言ってから、彼はギターを取り出す。
かと思えば、優しい音色でゆっくりと音を奏で出した。
それが、私を考えるだけのどつぼにハマらせないようにする行為なのか。手持ち無沙汰になったからかは分からない。
ただ、冬の曲を奏でたかっただけかもしれない。
それでも、どこか甘いメロディは、私には心地よいものだった。
好きだなあ、と心の底から思う。
こうやって、私の目線で考えてくれるところが。
一緒になって、悩んでくれるところが、たまらなく好きだ。
3
結局、それからも答えは出なかった。
彼からは、別れ際にいつでもまた声をかけていいと言われたが、私にとってはそれはつまり、勇気が出たら誘うということで。
どうしてこうなった。頭を抱えて帰宅した。
だからかもしれない。変な考えだけが私の脳内で暴れまわるのは。
掲示板にアクセスする。二人しか来ないそこに、私は
『アンダーテイカーって知ってますか』
余計な感情を引き取ってくれるという謎の存在。
少し前に噂話が流れた、そんなおとぎ話のような存在。
誰が見ているネットならこんなことも書けてしまえるのに、現実だと何も声を出せない。そんな私の恥ずかしさをいっそ消してしまえたら、どんなにいいだろう。
『やめといた方がいいと思うよ』
愛川さんから、そんな返信が来る。
まるで、そこから先を見透かすかのような返信だった。
『それは本当にあなたと言えるの?』
息が止まる思いがした。
『あなたが見せたいのは、そんなあなたじゃないでしょ』
そんなに分かりやすいのか、私。
『こんな時代に、一緒にいたいっていうのは、そういうことじゃない?』
図星だった。だからこそ、何も言い返せなかった。
『仕方ないなあ』と愛川さんは書き込んで。
それから、動画サイトのURLが送られてきた。
“Time Lapse Lights”というタイトルのそれをクリックする。
それはまるで、思い違いかもしれないけど私の未来のようで。
愛川さんが、私を励ましてくれているようで。
ギターソロも、彼が弾いたのならどうなるんだろうとか思ってしまって。
恐れ多いのかもしれないけど、そうなりたいと思った。
音楽の力は偉大だなあ、と感じる。昼もそうだし、夜だってこうなのだから。
『ありがとうございました。ちょっと元気出ました』とそれだけメッセージに残して。
私は電話を掛けた。
「あのさ、イルミネーションの話、なん、だけど」
声が止まろうとする。私はどこまでいってもそうなのだろう。
でも、それだけじゃ、きっとこのまま進めないから。
「見に行きたい人っていうのは…………君なんです」
ありったけの勇気を、振り絞る。この気持ちの灯火を、光らせる。
「こんな時代に、どこにも行かなくてもどこへでも行けるこんな時代に! 私は、君と…………一緒に見に行きたいんです」
怖さを抱えているから、人間はできる限りの思いを、ぶつけるんだと思う。
4
行ってきます、と家を出る。
約束した日がやってきたんだ。
夢で見た、愛をまぶしたようなイルミネーションが、待っている。
そして、待っているのはイルミネーションだけじゃない。
ささやかな祈りをあげよう。
(上手くいきますように)
どうか叶いますようにと星に願った。
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⇒ヤケノハラさんの記事はこちら
「……もしもし。七瀬だけど。 お前らクリスマスとかどうすんの? いやふと思っただけだけど。いつまでも夢見る少女じゃいられないんだぞ、乙女っていう生き物は」