不動産事件簿 相続手続に不動産調査が必要と思うわけ
現在行政書士である私が、不動産会社に勤務していた時のお話です。
ある人気地で借地権付の中古建物の売却依頼を受けました。
借地権譲渡には地主様の承諾が必要です。本格的な活動の前に、礼儀として、地主様のもとへご挨拶に行くことにしました。
地主様は上品な老婦人です。
挨拶をし、内容を伝えると、
「わかりました。弁護士に相談しておきますね」
あ・・・弁護士ですか・・・
嫌な予感しかしません。
あとこの老婦人、自分で物事を判断することを躊躇している印象があります。
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後日地主様に、電話連絡をしました。
弁護士と相談した結果を確認するためです。
私「弁護士の先生はなにかおっしゃっていましたか?」
老婦人「なにもしなくていいんじゃない?といっていました。」
老婦人「なので、なにもしません」
嫌な予感は的中です。裁判になった方が弁護士は仕事になりますもの。。。
地主様からそのような回答が出たのであれば仕方ありません。
でもまぁ、まだ大丈夫です。
この物件、他にも問題があります。
どちらかというとこっちの方が深刻。
立派な建物がありますが、「接道義務」という、建物を建てるための重要な義務を果たしていないのです。
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接道義務とは建築基準法に定めがあります。一般的な住宅の敷地では、4m以上の幅の道路に、2m以上接することが求められます。その要件が満たせなければ、建物を建てることができません。
この借地は、道路に面していません。
建物建築時は通路(民地)を介して道路と接していました。しかしこの通路を他の親族が既に処分をしていて、現在はありません。
現在道路に接していないということは、車両の通行や給・排水管、ガス管を埋設に他人の許可が必要です。
老婦人が持っているこの土地は人気地域にありますが、価値としてはかなり低い状態であります。
いわゆる「訳あり物件」という状態です。
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老婦人はこの土地を相続で得ています。
もともと大きかった土地を、各相続人のために分割したようです。
接道義務を果たし最も価値のある部分は、老婦人の親族であるA氏が相続しています。
ちなみにこの相続手続きは、A氏が主導したとのことです。
売主様から依頼を受けたこの建物売買。。。
次に買う方が困らないよう、事前に調べて権利の道筋をつけておきたい!
A氏に会いに行くことを決めます。
目的は、
●将来の大修繕および再建築の許可(通路の使用)
●車両の無償通行の許可
●ライフライン埋設の許可
です。
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売主様とともにお菓子持参でA氏を訪ねます。しかし世間話もそこそこに
A氏はATフィールド展開、フルパワーの圧力!
「けんもほろろ」とはまさにこのこと。
こちらはお願いする立場、なにもできません。
今回の中古建物の売主様と地主の老婦人・・・
共に、A氏の被害者なのではという考えも頭をよぎります。
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結果、この建物に通路を再設定することは不可能。
将来この土地を活かせるのは、接道部分を持つA氏のみであることが確定です。
しかし、ふと考えます。
老婦人に相続手続の際に不動産の知識があったなら、この不利な条件を受け入れただろうか?
老婦人が不利な遺産分割であると理解したうえでこれを受け入れたのなら何も問題はありません。しかし、これまでのやり取りを考えると、その確率は低いと思われます。
私は老婦人が気の毒になりました。
自分で判断せず、弁護士に決めてもらうスタンスには、これまでの様々な経験が影響しているのかもしれません。
こういうとき、何か私にできることはないだろうか。
この考えが、私の現在の活動の礎になっております。
この件は、相続手続に不動産の調査を取り入れようと思った、事例の一つです。