第32話「退職、さらば東急観光」
本当は3月まできっちりと勤めて3年間で退職をしたいと思っていたが、支店長の島津から、退職するなら12月末日付けにして欲しいと頼まれた。
理由は、次年度の支店予算割り当ての関係で、カツヒロが3月まで在籍してしまうと、営業員が一人分多い予算を割り当てられてしまうからだ。12月いっぱいで辞めれば、カツヒロ一人分の予算は次年度はカウントされず、更にカツヒロのクライアントを他の営業マンが引き継ぐ事が出来るが、その分の予算を増額はされない。
だから、千葉支店にとっては総予算が減らされた上に、確実に受注が出来る仕事が引き継がれるから2倍ありがたい。
専門学校の学校推薦をもらって入社したのに、3年もせずに会社を辞めてしまったら、母校の後輩に迷惑をかけるんじゃないか?
それだけが、気がかりだったが、それ以上に支店の仲間に迷惑をかけたくなかったから、島津の提案を飲み込んだ。
10月1日の朝礼時に、カツヒロが年内で退社する事が発表された。直後に、一瞬「え~。」と言うどよめきが上がり、同期の田中が近寄って来た。
「カツヒロ、お前辞めるのか?」 最初に声をかけて来たのは、同期の田中だった。
「うん、そうだよ。残念だけどね。」
「本当に。どうして。お前、もったいないよ。折角、仕事もバリバリにこなせるようになったのに。辞めてどうすんだ?」 田中の目は、まるでタネが分からないマジックショーを見せられて「あれ、どうなってんだ。」と言いたいようだった。
「確かにな。両親にも言われたよ。どうして、折角、良い会社に入社して、この先も安泰だと思っていたのにって。イギリスに留学するつもりだよ。」
同じ一般団体旅行セールス担当の牧野も会話に加わった。 「カツヒロ、お前がいなくなったら、俺、同期で一人になっちゃうから寂しいよ。困った時に他に仕事を頼める人、いないからさあ。」
・・・。
10月は秋の行楽シーズンだから、旅行会社の団体セールスは忙しい。カツヒロも企業の慰安旅行を6件抱えている。そのうち2本は海外旅行で4泊5日のタイ、バンコク・パタヤビーチの旅とソウル3泊2日だ。残り4本の国内旅行は1本だけ添乗員を付けて欲しと頼まれていて、クライアントの社長からは是非、カツヒロに来て欲しいとリクエストがあった。
「うーん、可能なら社長の希望を叶えたいけど、海外添乗が2本入っていて、さらに4本のツアーの打ち合わせや清算までするとなると厳しいから...。」仕方ない、派遣添乗をお願いするか?
カツヒロは普段以上に多忙な毎日だったが、何とか10月を乗り切った。
バンコク・パタヤの旅は10社競合のコンペで勝ち取った思い出深い仕事。JTB,近畿日本ツーリスト、日本旅行など、毎度おなじみの競争相手以外に東武トラベル、農協観光、東日観光他、地元旅行会社も数社加わった。病院関係の仕事で、職場の慰安旅行に当たる。
旅行の参加者は看護婦さんが中心のツアーだ。予算と日数は決まっていたがデスティネーション(行き先)は旅行会社が提案して良い。カツヒロは自分が行きたいと思っていたタイのツアーを作った。なぜ、タイにしたのかと言えば、他社は無難なハワイやグアム、香港やシンガポールなど女性受けの良い場所を提案するだろうと思ったからだ。
後で知った事だが、「タイはまだ衛生面で不安があるから病院関係者は職場旅行で通常行かない」と言われていた。
逆に、その事を知らなかった事が良かったのだと思う。そのおかげで、他社が出して来ないプランを出せた事で注目してもらえた。そして、一人の力のある看護婦さんが「タイには中々、行けないから、是非、行ってみたい。」と言ってくれた事で受注が決まった。
そして、最後の添乗も医療関係の視察旅行。がん治療医師会の設立20年ソウル3泊4日の旅と言う事だった。参加するのは現役医師13名とスポンサー3名。このスポンサー3名と言うのは、医療機器メーカーの営業担当が1人。製薬会社の営業員が2名だった。
ドクターってやっぱり力があるんだな~、わざわざ3人もスポンサーがついてくるんだから。それにしても、どうして彼らは旅行先までついてくるんだろう?
カツヒロは不思議に思っていたが、実際に添乗をして見て、彼らの目的が何なのか、直ぐに分かった。ようするに、1台導入すると1億円以上する医療機器や多額の利益が見込める薬を発注してもらうための営業活動だ。
製薬会社の営業員の接待交際費は一人当たり年間1千万程度あると、聞いた事があったが、接待する相手はドクターになる。ソウル3泊4日の旅に同行したスポンサー企業の営業マンたちは、飲食時のアルコール代からはじまって、カジノで遊ぶお小遣い、接待ゴルフ、そして、夜の女性の代金まで躊躇なく接待していた。
カツヒロにすれば、ドクターがシングルルームでなく、ツインルームをシングルユースで買ってくれるから追加の売上げと利益が増える。更に、夜の女性の代金は現地オペレーターを経由して送客手数料という名目のキックバックが支払われるから旅行会社にとっては大変ありがたい。
日本でこれをやったら売春あっせんで法律違反になるが、海外で現地手配会社を間に挟むことで、グレーにしている。汚い世界だけど、もうこれで最後だからと目をつぶった。
11月に入るとクライアントの引継ぎ活動や他の営業マンの添乗を積極的に引き受けた。12月は実質的に有休消化期間になってしまうから11月が最後の月とも言える。
12月、今まで使いたくても忙し過ぎて使えなかった有給休暇を使って、ハワイのホノルルマラソンに参加した。大して練習もせず、殆どぶっつけ本番のような状態で42.195㎞を走り切った。タイムは6時間7分。決して速い方では無いが、20㎞あたりから右ひざを壊してしまった状態で完走したのだから十分に頑張ったと自分を褒めた。
ホノルルから帰国後、ロンドン行きのチケットを買った。出発は1月6日でJALの直行便にした。
つづく。
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