第15話「韓国人とフラットシェア」
ホームステイ先のレスさんには、色々とお世話になって感謝の気持ちで一杯だ。辞書を持っていなかったカツヒロに、前に住んでいた日本人留学生が残していった英和辞典を貸してくれた。
レスさんは、日豪協会の役員をしているから、簡単な日本語も話せる。ホームステイをし始めた頃は、カツヒロが殆ど英語を話せないから、一生懸命レスさんが話しかけてくれた。
時々、チンチンとか、ハラキリとか、面白い日本語を使っておどけて見せた。当時は、うっとうしいからあっちにいって欲しいとか恩知らずな事も思ったりもしたけど、離れて暮らすようになり、それが彼の優しさだった事が身に染みた。
・・・。
留学生活も3か月が経ち、自分の英語力に多少なりとも自信を持てるようになったカツヒロは、思いっ切ってホームステイ先を離れる決断をした。
「ホームステイをしていれば、食事も用意してもらえるし、困った時に色々と助けてもらえるからありがたい。」「でも、留学生同士でフラットシェアをした方が生活費は押さえる事ができる。」カツヒロの計算では、自炊をする事で月に300ドルぐらい生活費を抑える事が可能だ。当時、1オーストラリアドル=100円だった。
カツヒロは学校の掲示板で見つけたフラットメイト募集の案内に連絡をしてみる事にした。連絡先の名前はウンソンと書いてあった。どうやら、韓国人のようだ。
ウンソンに電話をして、3日後に物件を見るアポイントを取った。
待ち合わせ場所のクーヨン駅(Kooyon station)から徒歩で10分、ウンソンのフラットは大きな公園沿いにあった。同じ敷地内にもう2軒フラットがある。お隣のデニスさんは、気のいいオージーのおじいさんでCindy(シンディ)と言う名前の白のマルチーズを飼っている。もう一人のお隣さんは、スリランカ人のメラニーさん。日本に興味があり、特に北野武さんのファンらしい。息子のアンドレ君と二人暮らしで、時々、別れたれた旦那がやって来ることがあるそうだ。
「クーヨンか、良いとこだよな。確かテニスの四大大会の一つ全豪オープンが開かれていた場所だよな。」調べてみると1972年から1987年まで全豪オープンの会場だったテニススタジアムが駅の反対側にあった。
・・・。
ウンソンは26歳で、ソウルの出身。徴兵制度で2年間の兵役義務を終えた後にオーストラリアにやって来て、苦労して英語力を身に着けた。そのかいがあって、今、名門のメルボルン大学で建築学を学んでるそうだ。
2週間前にフラットメイトのタイ人が帰国してしまったので、新しい入居者を募集していたらカツヒロから連絡があった。
フラットは2ベットルーム。ウンソンの部屋の方が大きいので、その分は余分に支払う事になっていた。リビング、キッチン、バスルーム、冷蔵庫や洗濯機他、家具や家電共有となる。電気代、水道代は割り勘。食費も週に一回ビクトリアマーケットに行って肉や野菜、果物を一緒に買って割り勘にしようと提案された。
「ウンソンさん、料理はどうしますか?もし、よければ順番で料理担当を決めて朝食と夕食はシェアしませんか?」
「おお、それは良かった。私も料理は好きだし、一人分を作るより、まとめて二人分作った方が安上がりだからね。君さえよければ、その条件で良いよ。」
「もちろん。その方が楽しそうだし、私も東京で自炊生活をしていたから料理は好きなんです。」
「そうか、良かった。カツヒロはキムチは食べられるかい?それから、韓国料理は好きか?」
「うん、大丈夫。キムチも好きだけど、石焼ビビンバとか、プルコギ、それから骨付きカルビは大好物だよ。」
「前にクラスメイトの韓国人がソウルという名前の焼き肉レストランに連れてってくれて、そこが安くて美味しかったから、その後、何回か食べに行きました。」
「そうなんだ、私も日本食が好きだから、TOKIOで照り焼きチキン定食やカツカレーをお昼に食べたりするんだ。」
二人の会話は弾んだ。
韓国料理の事はあんまり良く知らないけど、ご飯とお味噌汁に肉や魚、玉子料理に漬物とかを用意すれば大丈夫かな?とカツヒロは思った。
「それでは、決まりだね。」ウンソンの声は弾んでいた。
「はい、よろしくお願いします。」
「引っ越しは土曜日の午前中でしたよね。」
「はい。」
「では、その時にデポジット(保証金)の2週間分の家賃と最初の1週間分の家賃を合わせて3週間分の家賃を持ってきて下さい。それから、エージェントに提出するのでパスポートのコピーもお願いします。」
「はい、分かりました。」
「それでは、これがあなたのカギです。無くさないように。」
「ありがとうございます。」カツヒロは笑顔で答えた。
つづく。
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