『obsess』から『obsess remix』へ。アートワークをリミックスする。
Ayako Taniguchiの1stアルバム『obsess』が8名のリミキサーの手によって9つの新たな完成形を見せることになりました。それが2021年11月19日にリリースされた『obsess remix』です。原作のリリースから1年の時を経て、その楽曲の解釈は新たなアルバムとして、表現されることとなりました。
全ては、Ayako Taniguchiさんの「アートワークもリミックスしてほしい」
その一言から始まりました。
この記事ではアルバムリリースに伴い制作が進められた『obsess remix』のアートワークの制作過程と、そこに込められた想いをお伝えします。
1. コンセプトを深掘りする
まずは「アートワークもリミックスする」というコンセプトをさらに発展させ、以下3つのこだわりたいポイントをクリアする方法を探りました。
①『obsess』のアートワークを尊重しつつ、そこに手を加えることで新しい表現をしたい
②「全て主役に相応しいほどの個性を持つ9曲が1枚のアルバムに収録されている」ということが魅力なので、9つのアートワークを制作し1つのジャケットにまとめることで表現したい
③曲と無関係なアートワークではなく、それぞれの曲とアートワークに関連付けや意味を持たせたい
2. 楽曲を図形化して、物理的にremixする
『obsess』のアートワークは、「生と死への祈り」をテーマに、
池田早秋さんによる緻密な点描画によって表現
楽曲を何かに置き換える行為によって、絶対音楽から外れてしまう、という懸念があったため、アートワークの表現方法には工夫が必要でした。いくつかのアイデアの中に、音の変化を視覚的に捉えることができるクラドニ図形というものがありました。クラドニ図形とは、音振動によって板上に現れる図形のことです。板に小さな粒を乗せることで、さまざまな音が持つ形を視覚化することができます。
この性質を利用して、原曲からremixされていく様子を視覚的に表現するというアイデアが生まれました。音が形になることに加えて、粒が幾何学な模様を生むという、幻想的で無機質なイメージが『obsess』の世界観にフィットしたのです。
さらに、オリジナルのイラストが細かい点の集まりで描画されていることと、音の振動によって粒状のものが別の形になることが、リミックスというキーワードでつながることからこのアイデアが採用されました。
3. 原曲からremix曲へ変わる様子を撮影する
表現方法が決まり、すぐさま図形を作るテストが行われました。綺麗な図形を作るためには和音ではなく単音である必要があったので、原曲とremixそれぞれの特徴的なコードから、綺麗な幾何学模様が現れる1音を選んで撮影を行うことになりました。
装置を自作し、実験するも、最初は図形が現れず苦戦を強いられました。今回のリミキサーであり、Steve* Musicのエグゼクティブプロデューサーでもあるno.9の知恵をお借りしながら、メンバーとも協議を重ね、試行錯誤して、なんとか図形が現れるように。安心するのも束の間、今度はフォトグラファー、Munehide IDAさんのお力も借りて、撮影に進みます。
まずはじめに原曲とremixから1音ずつ、図形が美しく現れたものを写真に収めていきました。
(左:原曲コード、右:remixコード)
そこからスローシャッターで原曲の図形からremixの図形に変化する様子を撮影し、『obsess』から『obsess remix』への変遷の表現に挑戦しました。
すると、2音を同時に表現する新しいクラドニ図形が完成しました。単音では規則的で無機質に見える図形から、原曲の残像によって変則性が生まれ、幻想的で有機的な図形となりました。ずっと見ていると、どんどん吸い込まれていきそうなその不思議な魅力は、今作に共通する部分かもしれません。
『obsess』のアートワークであるトナカイは型を切り抜き、そこに砂を流し込んで作成。均一すぎない砂の様子から、人の手による有機的な雰囲気を感じ取っていただけるのではないかと思います。
4. アートワークをジャケットとしてデザインする
試行錯誤の末、大きな正方形の中にCDサイズのアートワークを9つ配置し、それを折り畳んでいくことでCDを包み込む、というジャケットデザインにたどり着きました。
中面には9つのアートワークを、表面には『obsess』のアートワークであるトナカイの絵を図形化したものを、レイアウト。原作からのリミックスを二面で表現しています。
5. 完成したアートワーク
撮影したものからデザインして完成したものがこちらです。
▼表面
▼中面
『obsess』が、各リミキサーの手によって自由に解釈され、昇華されていく。『obsess remix』は、言葉や情景で表現せずとも、リスナーにその世界を感じてもらえる。そうしたアルバムのコンセプトを体現したアートワークに仕上がりました。
サブスクリプションサービスで音楽を聴くことが当たり前となった今、フィジカルで音楽を購入する機会は少なくなっています。
しかし、外袋を開けてCDケースを開いた瞬間の、緊張にも似たドキドキ感は今でも忘れたくないなと、ふと思ったりします。
今回のアルバムではジャケットへのこだわりを決して忘れず、細部にまで意味を持たせています。だからこそ、手に取った時の高揚感を思い出していただけるアルバムになったと感じています。
この記事を通して、作り手たちの想いが少しでも多く伝わればいいな、と思っています。ぜひお手にとっていただき、あの頃のドキドキを思い出してもらえると嬉しい限りです。
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