11. ベーシックな蒸気滅菌器
近年の蒸気滅菌器は、ISOやCENに規定される多くの規格に準拠しなければなりません。しかし、そのシステムの中心を成しているのは、旧型と共通の基本パーツです。
本章では、滅菌器の基本型がどのように作られていったのか、そしてそれが如何に近年中央材料室で運用されているコンピュータ式自動制御のオートクレーブに進化していったのかを順番に学んでいきましょう。
本章では、手動式のオートクレーブの基本型について学びます。その多くは、遠隔地や、電力や水の供給が全くない、あるいは充分でない場所で用いられ、スペアパーツや熟練したサービスマンの調達もままならないような災害エリアなどで現在も運用されています。
また後述しますが、こうした滅菌器は管腔(ホロー)器材、ポーラス(多孔性)器材の滅菌用としては適していません。本章ではまた、滅菌器の回路図(配管図)に用いられるさまざまな部品の配管図記号も紹介していきます。
12章では、管腔器材やポーラス器材の滅菌における問題点に焦点を当てます。このように章立てて理解することにより、滅菌技術の基礎を学ぶことができます。さまざまな工程管理システムについて学び、14章では国際規格に準拠した滅菌器の必要条件について理解を深めていきます。
11.1 ベーシックなオートクレーブの設計
第10章 滅菌剤としての蒸気 では、高温の蒸気を作ることが可能であることを学びました。これは蒸気滅菌工程の基本的な必要条件です。蒸気滅菌器は、以下のような部品を主として構成されています:
• 蓋とガスケットのある圧力容器
• 圧力調整バルブ
• 安全バルブ
• 空気除去システム
11.2 圧力容器
蒸気によって高圧になるので、強度のある容器と頑丈なカバー(蓋)の中で水が加熱されなければなりません。
そのような高圧蒸気滅菌用の容器をオートクレーブ、そして被滅菌物が置かれるスペースを滅菌チャンバーと呼びます。
主たる容器と蓋の間でリーク(漏れ)が起きないよう、間にはガスケットがあります。普通、ずっしりとした蝶ナットで容器と蓋をしっかりと固定し、ガスケットでリークを防ぎ密閉します。
他の機種では、カメラのレンズ取り付けのようなバヨネット式が使われていて、ねじで止めることなく素早く密閉することができる仕組みです。
このガスケットは専用設計になっています。このタイプは、小型の卓上オートクレーブで見られるものです。
11.3 圧力と温度の制御
圧力は、適切な値を保たなければなりません。ベーシックなオートクレーブでは、蒸気の圧力で直接、圧力調整バルブを動かして調整を行います。最もシンプルな圧力調整バルブは、蒸気の圧力で錘(おもり)を持ち上げ、通気口を開く仕組みになっています。
充分な高圧に達すると、蒸気の押し上げる力が錘の重さを上回るために錘が持ち上がり、通気口から蒸気が逃げる仕組みです。
このようにして、圧力は目標の値で一定に保たれます。錘を変えれば、バルブが開く圧力を変更できます。
スプリング(ばね)の力でバルブを密閉している機種もあります。蒸気の圧力が高まり、ある一定の圧になるとバルブが開き、圧力差分の蒸気が逃げる仕組みです。スプリングの力を調整することで、バルブが開く圧力を設定できます。
最新の滅菌器では、温度や圧力をセンサー検知し、供給する熱量を調節し、滅菌の各工程で必要な温度・圧力に達するまでチャンバー内の圧力を調整します。
このような制御システムの場合、圧力と温度はそれぞれ専用のセンサーによって検知されます。オートクレーブの加熱システムによって、熱量を制御するために以下の装置が用いられます。
• 加熱エレメントへの電力供給のON/OFF
• バーナーへの燃料供給用バルブの開閉
• 蒸気供給バルブの開閉
このようにして、温度や圧力を極めて正確に調整できます。
滅菌器が蒸気発生器( 12.7 参照)で発生した蒸気で加熱される場合、蒸気供給は電動のバルブで開閉を行います。
工程制御の方法の詳細については、 13章 も参照してください。
11.4 安全バルブ
圧力調整バルブは目詰まりを起こす可能性もあります。すると蒸気は逃げ場を失い、圧力が高まりすぎて容器は爆発してしまいます。それを防ぐため、予備のバルブ(安全バルブ)が付いている場合もあり、メインの圧力調整バルブが機能しないときには、この安全バルブが蒸気を逃がします。
多くの国ではこの予備の安全バルブが法的に義務付けられています(圧力容器安全規則)。この安全バルブは、通常のバルブと構造は同じですが、通常のバルブよりも高い圧力で開くよう設計されています。
※製造元によっては、圧力調整バルブをそのまま「安全バルブ」と称しています。これは、予備の圧力調整バルブがついていない、比較的古いタイプです。
11.5 滅菌時間の制御
最も単純な手動式滅菌器では、滅菌時間を計るのに時計やストップウォッチを使います。しかし、規格に準拠するためには、オートクレーブには電気式タイマー( 13章 、 14章 参照)がなければなりません。手動式を使う場合、滅菌時間の計測は適切な温度・圧力に達したときに初めて計測を開始することを覚えておいてください。
チャンバーと被滅菌物が滅菌温度に保たれている(保持されている)時間を滅菌時間といい、滅菌保持時間と呼ぶこともあります。
11.6 滅菌チャンバー内の空気
前述のように、湿熱は乾熱にくらべて遥かに大きなエネルギー(熱量)をもっているため、高い熱伝導性があります。実際に、乾熱による滅菌では湿熱による滅菌よりも非常に長い時間・高い温度が必要であることを学びましたが、オートクレーブを使うには、まずこの点を押さえておかなければなりません。
被滅菌物を積みつけする時点で、オートクレーブ中には空気が存在します。
この空気は蒸気と滅菌物の間でバリアのように働き、蒸気の熱伝導を妨げます。
空気が残存していると充分に熱が伝わらなくなり、滅菌は安全に完了しません。つまり、容器が閉じて圧力が上昇する前に、空気を除去することが必要となります。
この、チャンバーから空気を抜くことを空気除去と呼び、脱気とも言います。
非常にシンプルなオートクレーブでは、水がグラグラと沸騰するまでチャンバーのバルブを開放することで空気除去を行います。オートクレーブが熱せられる間、空気の大半は蒸気により空気除去バルブより押し出されていきます。
水が沸騰するときには蒸気のみが噴出され、チャンバー内のほとんどが蒸気で満たされます。そこで、バルブを閉じ圧力を上昇させます。高性能なオートクレーブでは、蒸気がチャンバー内に導入される前に真空ポンプで空気除去を行います。(12章参照)
蒸気トラップ:自動空気除去装置
高性能なオートクレーブには、自動空気除去装置「蒸気トラップ」が装備されています。これは、アルコール混合物などが満たされたベローズ(蛇腹)(図11.9)によって駆動するタイプのバルブです(最新のモデルではベローズはなく、より耐久性の高いエレメントやカプセルが代わりに取り付けられています。図11.10、12.12参照)。
ベローズ内部の液体は、水よりもわずかに沸点が低いものを選びます。一定の圧力下での水の沸点(大気圧では100℃)よりもベローズ周りの温度が低い間は、ベローズが縮んでおりバルブが開いているため、空気と蒸気はバルブ内を自由に通ることができます。
バルブを通る蒸気の温度が沸点直前になるとベローズは膨張し、バルブを自動的に閉める仕組みです。
これにより、飽和蒸気をチャンバーに閉じ込めます。このような蒸気トラップが装備されたオートクレーブでは、水が沸騰したあとに手動でバルブを閉じる必要性がありません。つまり、空気除去は自動的に行われます。
しかし、蒸気トラップがあるからといってすべての空気をチャンバーから除去することはできず、考えなければいけない問題は他にもあります。
蒸気トラップには、凝縮水を自動的に排出する働きもあります。蒸気トラップは、飽和蒸気が到達したとき閉じるようになっています。しかし、蒸気よりも温度の低い凝縮水がトラップに達すると、ベローズは温度が下がるため収縮し、トラップが開き、凝縮水を排出します。凝縮水がすべて排出されると、蒸気がトラップに到達してベローズが膨張するためトラップは閉じ、蒸気の逃げ道を塞ぎます。
このようにして、蒸気トラップは自動の凝縮水排出器具としても機能するわけです。これは蒸気トラップが滅菌器で果たす2つ目の重要な役割です。
凝縮水を排出するために、蒸気トラップは滅菌器内または配管システムの最下部に取り付けられています。図12.14、12.22、12.26、14.15も参照してください。蒸気トラップの役割をまとめると以下のとおりです。
• 空気を除去する
• 凝縮水を排出する
• 飽和蒸気を逃がさない
11.7 空気の層(空気の層形成)
空気は同一温度下では飽和蒸気の約2倍の質量があります。空気と蒸気がチャンバー内に導入されると、蒸気は油が水の上に浮くように空気の上に浮いた状態になります。つまり、空気と蒸気は混ざりません。この蒸気と空気の層の形成が「層形成」と称されます。
蒸気をチャンバー内にまんべんなく浸透させるには、下層の空気を除去しなければなりません。空気を除去しないと、容器や管腔(ホロー)器材 などの滅菌の際に問題が生じることがあります。
容器の開口部を上向きに置くと、容器の底に空気がたまり、蒸気が浸透しないおそれがあります。
そのため、滅菌器に積み付けする際には、ボウルや容器は開口部を下向きにして逆さまに置く必要があります。そうすれば、空気が下に抜け、蒸気が入りやすくなるからです。
また、空気の抜けが良くなるよう、物をぎゅうぎゅうに積み付けしないようにすることが必要です。空気が下降するこの現象を「下方置換」と呼び、この置換は蒸気と空気の質量の差を利用するため、「重力置換」とも称されます。
通常は、空気、次いで蒸気がチャンバーの最下部にある小さな排出口から流れ出ます。
重力置換式による空気の除去はかなりゆっくりであるため、空気が下降して蒸気とともに排出されるまでには時間がかかります。加えて、例えチャンバー内の蒸気が滅菌温度に達していても、容器内や包材の中心にあるものはまだ滅菌温度に至っていないおそれがあります。なぜなら、空気が中に残っているためです。
空気除去は、包装物同士の隙間に余裕を持たせて積み付けをしたり、包装物の大きさを制限したりすることで改善できます。未包装の被滅菌物や液体ボトルの滅菌に関しては、重力置換式の滅菌工程が一般的です。
重力置換式は、かつて中央滅菌材料部で使われていた、旧式の単純なオートクレーブでの空気除去法です。しかしながら、この方式では現在の中央滅菌材料部で使われるような包装物から空気を効率的に除去することは決してできません。
ISOやCEN規格では、ポーラス器材や管腔器材の滅菌には、重力置換式よりも効率的な空気除去の方法が必須とされています。詳細は12章を参照してください。
11.8 重力置換式滅菌の基本工程
重力置換で空気除去をする滅菌工程は、以下の段階を踏みます。
a. 水の加熱と空気除去
水が沸点である100℃まで加熱されます。加熱中、空気はチャンバーから排出されます。より効率的な空気除去をするために、100℃に達した後も沸騰はしばらくの間継続され、チャンバー内の空気は蒸気とともに排出されます。
b. 圧力上昇:滅菌温度まで昇温します。バルブを閉じて滅菌器を密閉すると、圧力と温度は必要な水準にまで上昇します。
c. 滅菌時間(滅菌保持時間):この時間中、温度と時間は滅菌に必要な水準で維持されます。
d. バルブを開いて蒸気を逃がし、圧力を大気圧まで下げます。蒸気が逃げると圧力は下がります。
e. 被滅菌物を冷まします。
11.9 配管図の概論
滅菌器を図示する時、配管、バルブ、ポンプ、容器やその他の部品などを正確に描き込もうとすると図は複雑になりすぎてかえってその作動原理もわかりづらくなります。
オートクレーブをはじめ、機械類の構造を理解する際には、プロセス産業では部品ごとに標準化された記号を用いるのが一般的で、バルブ、ポンプ、計器類などそれぞれに記号が存在します。記号の意味を理解すれば、機械の仕組みをよりたやすく理解でき、図も単純になります。
こうした、配管や部品などを記号で示した図を、「配管図」といいます。
次節では、さまざまなオートクレーブの原理や構造をこの配管図を使って説明していきます。プロセス工学と同様に、電子工学の世界でも電気・電子部品を図示するためにこのような記号が用いられています。具体的には電気回路図です。オートクレーブの図示には、一般的に配管図と電気回路図両方が用いられます。
11.10 オートクレーブの基本型(圧力鍋)
オートクレーブの基本型には、最低でも以下の部品があります。
• 耐圧容器(蓋、閉鎖機構、ガスケット付)
• 圧力制御バルブ
• 空気除去バルブ
• 安全バルブ
熱源は、電気、ガス、石油、石炭から薪まで、さまざまなものが使えます。
旧式の小型滅菌器は、小規模クリニックや診療所でいまでも使われていることがあります。主な部品は上述のとおりです。
基本的なオートクレーブがどのようなものか見てみましょう。最も単純なオートクレーブは圧力鍋です。
圧力鍋では、圧力バルブと空気除去バルブが一体となっています。沸騰前は通気パイプが開いており、沸騰すると、通気パイプの上に錘が載り、所定の圧力でのみ蒸気を逃がす仕組みになっています。
圧力鍋にはものを入れるためのバスケットが付いています。また、穴の開いた金属盤「トライベット」がついており、これは水より上にものを置くための中敷きです。トライベットは片面のみ脚がついていて、その面を下側にすると、上に乗せた物が水に付いて濡れることがありません。
凝縮水を取り除く
蒸気が被滅菌物に触れると、凝縮し水になります。この凝縮水はそのまま被滅菌物を伝って底に流れ落ち、再び沸騰して蒸気となります。
圧力鍋の滅菌工程
非管腔器材や、非ポーラス器材を圧力鍋で滅菌できますが、国際規格に準拠した滅菌器の工程管理における技術的要求を満たしてはいません(国際規格については14章を参照)
しかし、滅菌工程の基本を理解するために、どのように圧力鍋を滅菌に応用するのかを説明したいと思いますので、まずは、自分で試してみることからはじめましょう。その際に、以下の点に留意してください。
この水は加熱され、滅菌蒸気となります。水がないと鍋の中の物は焦げ付き、鍋自体がダメになってしまいます。
圧力鍋を滅菌器として使う際のルール
1.適量の水を入れます。
2.被滅菌物をトライベット上のバスケットに入れます。
3.蓋を閉めます。錘は通気パイプから離れた状態です。
4.ヒーターをONにします。水の温度が上がり、水が沸騰し空気がチャンバーから抜けはじめます。
5.蒸気が通気パイプから抜ける状態を5分間保った後、錘で閉じると温度と圧力は上昇します。
6.蒸気がバルブから音を立てて抜けるようになったら、所定の圧力に達した状態です。この時から滅菌時間を計測し始めます。滅菌時間中は、鍋からかすかに音が出ている状態になるよう、熱量を調整します。
7.滅菌時間が経過したら、ヒーターを止めて鍋を冷まします。
8.確認のために、錘を引き上げます。まだ蒸気が出るようであれば、さらに冷まします。火傷には充分注意してください。
9.錘を引き上げても蒸気が出なくなったら、蓋を開け、中身を取り出すことができます。
11.11 基本的な卓上式(ポータブル)オートクレーブ
圧力鍋に入りきらない大きなものを滅菌する際には、「卓上式オートクレーブ」を使います。より使いやすくするため、また滅菌工程を確認するために追加のパーツが装備されています。
これらのオートクレーブは、通常はどのような熱源で加熱してもかまいません。電気式のヒーターが内蔵されているものもあります。
ばらばらの包装物、シリンジのラック、針 、小さめの滅菌バスケット、カストなどを滅菌することができます。蒸気が包装を通り抜けて被滅菌物に直接到達することが肝心です。
滅菌前にチャンバー内の空気が概ね除去されているかを確認する実験
• 卓上式滅菌器で通常の滅菌工程を行います。
• 空気排出バルブをゆるめ、チャンバー内の圧を抜きます 。
• チャンバー内の圧力が大気圧まで下がったら、空気排出バルブを再び締め、オートクレーブの温度が下がるまで放置します。
• 圧力計で、チャンバーが真空状態になっているのがわかります。まだ蓋を開けることはできません。
• エアレーションバルブを開くと、圧力が大気圧まで下がり、蓋を開けることができるようになります。
解説
チャンバー内の圧力が上昇しはじめる前に水は沸騰しており、チャンバー内の空気の大半は空気除去バルブ、その後圧力調整バルブを通じて排出されます。水面上にあるのはほとんどが飽和蒸気です。ここで空気排出バルブを閉めたまま容器の温度を下げると、水面上にある飽和蒸気は凝縮します。蒸気が凝縮水になると体積が大幅に減少するため、チャンバー内には真空が生じます。チャンバー内に残っていたのが空気だったとすれば、真空にはならなかったはずです。
真空工程による乾燥の促進
チャンバーの温度低下により生じた真空により、被滅菌物の乾燥が大幅に促進されます。真空引きにより被滅菌物上の湿気は蒸散し(詳細は12.4参照)、蒸散した蒸気は温度が低い滅菌器の内壁に当たり凝縮します。真空度や真空時間によって、被滅菌物の乾燥は大幅に改善します。このとき、被滅菌物が滅菌器の内壁に接触していないことが肝心です。
また、真空状態を解くために、滅菌器には追加の空気導入バルブが必要で、このバルブはフィルターを通った無菌空気が一方通行で入るような構造になっています。フィルターはHEPAフィルターが理想的です。
11.12 容量が大きいベーシックなオートクレーブ
病院で多量の被滅菌物を処理するには、圧力鍋や卓上滅菌器では小さすぎるので、容器をより大きくしなければなりません。このように設計されたオートクレーブは圧力容器(チャンバー)を1つだけ備えており、単層(ノンジャケット式)オートクレーブと呼ばれます(ジャケット式オートクレーブについては12.7を参照)。
この方式のオートクレーブの基本メカニズムは圧力鍋とほとんど同じで、圧力鍋と同様の重要な部品があるのがわかります。形が微妙に異なり、容量が大きくなっていても、基本的には以下のように同じ構造をしています:
• 蓋・ガスケット付きの圧力容器(チャンバー)
• 圧力調整バルブ
• 安全バルブ
• 空気除去バルブ
正確な工程管理と、操作性向上のため、以下のパーツが追加されることがあります。
11.13 上方からチャンバーに蒸気が入るオートクレーブ
重力置換を効率的に行うため、蒸気はチャンバー上方から導入されるのが理想的です。このために、圧力容器内にはスリーブ(袖のような仕組み)が設置されています。蒸気発生部分は、スリーブの上部にある孔を介して滅菌チャンバーに常に繋がっているよう設計されています(図11.19参照)。
まず蒸気が上昇し、スリーブの孔を通じて滅菌チャンバーに入り込みます。空気は蒸気より重いためチャンバー下方に移動し、蒸気の圧力で押し出され、チャンバー最下部の空気除去パイプから外に排出されます。滅菌物内外の空気は、この空気の重力置換法により、より簡単に除去することができます。
11.14 蒸気コンデンサの活用
オートクレーブ滅菌には、良質な水から発生した良質な蒸気の安定供給が求められます。幸いにして、オートクレーブ自体から排出された使用済みの蒸気は、蒸気コンデンサを通すことで良質で充分な水として使用できます。
タンク内で蒸気は冷水により冷却され、蒸気は再び水に戻ります(凝縮)。この水はリサイクル(再利用)できます。このようにして、高品質の水の消費を大幅に抑えることが可能になります。
このシステムは、水質が悪かったり、または水資源が限られていたりする地域などで特に有益です。
しかし、沈殿物の堆積を防ぐために、最低でも一週間に一度は、水を補充することが薦められます。排出蒸気の再利用は卓上のオートクレーブでもよく行われます。13章では、蒸気コンデンサがついたオートクレーブについて学びます。
11.15 天候や高度の影響
錘式やスプリング式の圧力調整パーツで滅菌器が運転されている場合、チャンバー内で達成される圧力は、チャンバー内の圧力と、チャンバー外の圧力=大気圧との「圧力差」に依存します。大気圧が低い場合、チャンバー内の圧力は低くなり、大気圧が高いと、滅菌チャンバー内部の圧力は高くなります。
しかし、大気圧は、標高と天候によって決まるので、滅菌サイクルの条件は天気と高度にも左右されます。この方法で運転されるオートクレーブは、大気圧が高いとき、つまり天候が良いときほど滅菌性能が高くなります。このような滅菌器はお天気オートクレーブとして知られています。
しかし、オートクレーブの性能は設置される場所の気候や高度に左右されるべきではありません。そこで、優れた設計によるオートクレーブは、チャンバー圧力を絶対圧力で制御しています。このため、天候が滅菌工程に影響を与えることはありません。このようなオートクレーブの工程は高度による影響も受けず、滅菌温度による工程管理も可能です。
重力置換式による空気除去工程を採用した滅菌器の評価
本章で紹介したすべてのオートクレーブは、本来、最も単純な滅菌工程を想定して設計されており、チャンバーからの空気除去に重力置換法を用いています。重力置換法だけでは、ポーラス(多孔性)器材から空気を除去することはできませんが、滅菌工程前に何回も「蒸気パルス」を行うことで空気除去は大幅に改善されます(12章参照)。
単純な構造、低価格、メンテナンスの容易さなど、ベーシックな滅菌器には利点が多くありますが、同時に多くの難点も抱えています。
• 包装器材や管腔器材から重力置換法で空気をすべて除去することはできません。このような器材から空気を適切に除去するには、反復脱気が不可欠となります(12章を参照)。重力置換法のみで蒸気パルスがない工程は、非包装器材、軽く包装された器材、非管腔器材、液体ボトルの滅菌にのみ使用できます。
• すべての滅菌物が蒸気に触れるには相当の時間がかかります。つまり、次章で説明するように近代的なプレバキューム式オートクレーブにくらべてかなり長い滅菌時間を要します。
• 積みつけが、空気除去に大きな影響を与えます。チャンバー内全体に充分な蒸気と空気の通り道ができるよう、慎重な積載法が求められます。
• 加温と滅菌の間、蒸気は温度の低い滅菌物に触れて凝縮し、滅菌物は濡れます。ベーシックな滅菌器の場合、何の対策もしなければ滅菌物は工程終了後に濡れたままになってしまい、再汚染の可能性が格段に高まります。ベーシックな滅菌器の乾燥を改善する方法は、11.11に掲載しました。
被滅菌物の乾燥については、12章を参照してください。
以上の問題点があるので、下記のように定められています。
===
出典:医療現場の洗浄と滅菌
内容に関するお問い合わせは、株式会社名優まで。