マジックの本を称賛するだけの文章(Quartet)
注意:この文章ではただ私が私の感じるままに、マジックの良書を褒めるだけの文章です。
タイトル: 『Quartet』
著者: 青山 健一
出版年: 2019年
ジャンル: カード
『Quartet』は2019年に発売された書籍で、日本の青山健一氏の作品をまとめた作品集です。
青山健一氏は日本のマジシャンで、パケットトリックの名手です。とてもスマートなマジックを丁寧に見せてくれる方で、非常にバランスの良いマジシャンでもあります。
青山さんの得意とするパケットトリックとはカードマジックの一分野で、一組のデックを使うのではなく、数枚のカードだけを使うことで多くの現象を起こしていくものです。歴史としては意外と浅く、20世紀から大きく発展しました。パケットトリックに焦点を当てた書籍としてはPhil Goldstein氏(Max Maven氏)の 『Focus』(1990年)があります。
本書はパケットトリックが5作品と彼が大切にしている考え方が収録されています。『Quartet』の大きな特徴はパケットトリックという特定の分野に限定しながらも多様な現象を示すことで、パケットトリックの可能性を存分に示しているという点です。さらに、本書に掲載されている作品は『Quartet』の名前の通り、「4」という数字にこだわっています。そういった意味でも、彼の強いこだわりとこの分野が持つ深さ・広がりを感じる書籍となっています。
本書も魅力的な作品が多いため特定の作品を取り上げるというのは心苦しいのですが、この文章では特に「Cash Card」「Handy Print」についてコメントしたいと思います。
「Cash Card」は本書の中でも異色な作品で、500円玉の書かれたカードで行われるマジックです。カードに書かれた500円がカード間を移動するというもので、最終的にはカードという枠にも含まれない現象が起こります。
この作品は彼の自由な発想を体現したような作品で、人によっては額縁を外されるような感覚を感じることがあるかもしれません。パケットトリックは、少ない枚数のカードを使うという状況が一般的で、少ないカードという特殊な状況がマニアとしても興味深いものなのですが、一方でそこからの派生という意味では少しだけ制限が存在しています。つまり良くも悪くも少ないカードで表現される世界ということになります。これは視野を狭め、思考に額縁をはめることにも繋がりかねません。しかし、本作品ではそういった額縁を外した考え方を実現しており、パケットトリックという世界の中で稀なマジックを実現しています。自分の中に閉塞感を感じているような人には是非ともお勧めしたい作品となっています。
また、「Handy Print」はパケットトリックらしいマジックです。4枚の何も書かれていないカードが1枚ずつ異なるカードに変わり、最後にはもう一度4枚の何も書かれていないカードに変わるというものです。
「パケットトリックらしい」という表現したのは、限られた枚数のカードで多くの現象が起こるという点がとてもパケットトリックのポテンシャルを活かすものだからです。また、多くの現象を起こす中でも、単調にならないような工夫が散りばめられているという意味でも彼の知性を感じることができるようになっています。
パケットトリックを触ってみたい、興味があるという方にはお勧めできるもので、前述の現象の多さに加え、パケットトリックの楽しさとアクセスのしやすさの両面を兼ね備えていますので、是非とも読んでいただきたい作品となっています。
最後に、本書には彼の大切にしている考え方も含まれています。これは前述のパケットトリックの持つ制限にもかかわるもので、この制限を彼が非常にポジティブに捉えていることを窺い知ることができます。実際、使える道具を制限することが表現の多様性につながるという事例は枚挙にいとまがありません。まさにフランスの詩人、ポール・ヴァレリーの「芸術が固有に備える制限によって、その想像が鈍ってしまうのではなく刺激される時、人は詩人になる」という言葉の通り、彼はパケットトリックが持つ制限によって、大きな創造性を発露していたのだと思います。
まとめると、『Quartet』は日本の青山健一氏のパケットトリックに対する情熱と愛が表現された書籍となっています。これからも大いに活躍されますので、次の作品も楽しみだと感じていますし、本稿を読んでくださった方にも同様に注目していただきたいと思っています。
以上が『Quartet』について勝手に本を称賛した文章でした。この文章は決して書評ではありません。ただ褒めるだけの文章です。力不足ながらも、この本が持つ魅力の一片を伝えられれば幸いです。