「6足の谷」の謎 -STEPN運営の意図を読み解く-
このnoteでは、STEPNの色々な話題について「ちょっと深読みなんじゃないの?」と思うくらい考察を重ね、運営の意図に迫っていきたいと思います。
〈今回の要点〉
STEPNでは、靴の所持数とエナジー量との関係がいびつ(「6足の谷」)
→「6足の谷」は、運営がSocialFiを実現するための仕掛け!
→運営はやはりSTEPNの持続可能性をよく考えている
「6足の谷」
皆さんご存じの通り、STEPNは靴のNFTを使ってゲーム内通貨を稼ぐBCG(ブロック・チェーン・ゲーム)です。プレイヤーは所持している靴の数に応じた量のエナジーを手に入れることができ、エナジーを消費しながら歩くことでゲーム内通貨であるGSTを獲得できます。
STEPNにおいて、靴の所持数とエナジー量の関係は次のようになっています(STEPN公式ホワイトペーパーより)。
つまり、
という関係です。例えば靴を2足持っていたとしても、3足に到達するまではエナジー量は2のままで増加しません。同じく、靴を4~8足持っている状態でもエナジー量は4のままで、9足に到達してはじめて9エナジーを手に入れることができます。
さて、ここで1つ気になることがあります。靴を1→3足にするのは割と簡単なのに対し、3→9足にする負担が大きすぎると思いませんか?
たとえば、RPGをプレイしている時を思い浮かべてください。レベル上げのために経験値を集めますが、ふつうLv.1→2に上げるのは簡単で、Lv.2→3、Lv.3→4……と進んでいくほど、次のレベルになるために必要な経験値は多くなっていくでしょう。
しかし、STEPNではそうなっていません。エナジー量が上がることを仮に「レベルアップ」だとすると、次のレベルに行くために必要な靴の個数は次の通りになっています。
Lv.1→2は靴+2足でいけるので簡単です。しかし、Lv.2→3でいきなり+6足もしないと次のレベルに行けません。Lv.1→2の3倍もの靴が必要なんですね。ついでに、なぜかLv.3→4に必要な靴数も6足なので、Lv.2→3、Lv.3→4は同じ難易度ということになります。上のレベルに行くほどレベル上げが難しくなる……という仕組みになっていないことが分かります。
ここで、この現象を「6足の谷」と名付けることにします。
陽キャ君は靴を3足以上増やさない
ここで、「6足の谷」からある1つの戦略を導くことができます。それは、
というものです。先にも紹介した通り、靴が4~8足の間はエナジー量が増えず、せっかく持っている靴が何の仕事もしません。であれば、家族や恋人、その他の信頼できる人たちに靴をTransferし、初期投資なしでSTEPNをやらせてあげる方がいいと考える人もいることでしょう。そもそも、靴をたくさん所持してエナジー量を上げたとしても、1足当たりのエナジー量は1足のみ所持している時が一番高いです。たとえば、1人で30足所持した際に得られるエナジーは20なのに対して、30人が1足ずつ所持した際のエナジーは合計で2×30=60となるので、実に3倍の能率ということになります。
実際、「靴を増やさず家族に貸す」というのはSNSを見ると割と流行っているようです。もっと現実的に考えるなら、知り合いに靴を貸して自分は利子を貰うことで利益を得ている人もいるかもしれません。靴を大量に持っている人は、むしろそのように利子を得た方が利益が大きいことさえあるでしょう。もしあなたが非常にたくさんの友達を持っているなら、靴を3足から増やすのはやめた方が良いかも知れませんね。
見えてくる運営の狙い
話はここで終わりません。STEPNの運営が非常に綿密にこのゲームを作り上げていることを考えると、「6足の谷」が偶然に生まれたものとは思えません。そう、ここには運営による何らかの意図が含まれているのではないでしょうか。
ここまでの話で、
ということが分かりました。つまり運営は、1人にたくさんの靴を持っていてほしくない、逆に言えばたくさんの人に1足ずつ靴を持っていてほしいのです。
ここで、1→3足にする、つまりLv.1→2にする満足感は失われていないのが絶妙です。もしLv.1→2にするハードルが高かったら、プレイヤーはレベル上げの快感を得られずつまらない思いをするでしょう。だからこそ、3→9足、つまりLv.2→3のハードルを高く設定しているのです。運営は、レベル上げの気持ちよさは残しつつも密かに
「でもレベル上げするより他の人に靴を貸してほしいな……」
と思っているのです。
それでは、みんなが1足ずつ靴を持つことで運営にはどのようなメリットがあるのでしょうか? 実は、けっこう明確なメリットがあるのです。
①ゲーム内に社会的繋がりを作れる
当然ですが、1人1足ずつ靴が分配されれば新規プレイヤーが増えます。ただ、ここで考えてほしいのは「どういう新規参入者が増えるか」ということです。
靴をたくさん持っている人が誰かに貸すとして、見ず知らずの人に貸すようなことはしませんよね。なぜなら、靴自体が大きな価値を持った資産であり、現実世界でよく知った人でないとリスクが高いからです。ということは、「すでにプレイしている人の知り合い」が新規プレイヤーとして参入することになります。
STEPNは、そもそも「仮想通貨」という形のないものに立脚していながら、「歩く」というたいへん具体的な行為と結びついたコンテンツです。ここにはSTEPN運営の問題意識が現れている、と僕は考えています。つまり、仮想通貨を文字通り"仮想の"ものとしていては、具体的な人間で構成されている社会(Social)と接続することができない、ということです。
そこへきて、「6足の谷」によって新規参入することになるプレイヤーというのは、すでに他のプレイヤーと社会的なつながりを持っています。家族と一緒に近所を走ったり、ラーメンをおごる代わりにGMTを支払ってもらったりするかもしれません。実際、家族と一緒にプレイすることは公式に推奨されている(公式アンバサダーのTwitterより)ようなので、社会的つながりのあるプレイヤーは重視されているといえます。
②web3デビューの受け口となりやすい
靴をたくさん持っている人が誰かに靴を貸す際、貸される側は仮想通貨やNFTについてよく知らない人であることが多いでしょう。そもそも、仮想通貨をよく運用している人なんていうのは人口比でだいぶ少ないと思います。その点STEPNは、やることといえば歩くだけなので、そもそもweb3とか仮想通貨とかNFTといった難しい知識がなくても始めることができます。そうした人たちに門戸を開く意味でも、「6足の谷」はプラスに働く可能性があります。
③「投資家」の割合を減らすことができる
こうした仕組みは、お金を増やすツールとしてしかSTEPNを見ていない、いわゆる「投資家」の比率を下げることに役立ちます。既存プレイヤーの知り合いやweb3初心者といった人々がたくさん参入すれば、投資家の割合は相対的に減ることになるからです。
投資家の存在は、BCGにとって資金調達の面で重要である一方、持続可能性の点では脅威となりえます。なぜなら、たくさんの資産をゲーム内で抱え込んだ投資家たちは、ゲーム自体に愛情を持っているわけではありません。そのゲームを見限るやいなや大規模な利確を行い、ゲーム内の経済を混乱させることも厭わないでしょう。
STEPNのカギ「持続可能性」
さて、以上に挙げた3つのメリットは、すべてSTEPNというコンテンツの持続可能性に直結します。まず、友達や家族といった身近な人々と楽しめるゲームになれば、STEPNは単なる投資ではなく、ゲーム性そのものに価値のあるゲームになります。そして、web3について未知の人たちを幅広く取り込むことで、プレイ人口を増やすとともに、仮想通貨というどこか怪しげな目で見られているコンテンツを広く社会になじませることができます。最終的に、ゲーム内経済を一部の投資家たちに依存することなく安定させ、GSTやGMTのボラティリティを最小限に抑えることができるかもしれません。
そもそも、STEPN運営は「STEPNを持続可能なものにする」ということを度々口にしてきました。トークノミクスに関する直近の声明文でも、このように述べています。
僕はいままで、運営のこうした口ぶりが単なるポーズに過ぎないのか、本気でそう思っているのかについて不安を感じていました。しかし、今回考察したように、STEPNにおけるかなり根本的な構造にさえこの理念が組み込まれているとしたら、僕らは運営を信じてもいいのかもしれませんね。
そして、ゲーム内に現実の社会を組み込み、持続可能な経済を構築するということは、直接SocialFiに関わってくることだと考えています。「社会(Social)」という現実世界に存在するものを、仮想のデータの集積にすぎないweb上で強固に形作るためには、知り合いと靴を分け合いながらSTEPNを楽しむ沢山のプレイヤーたちが必要不可欠でしょう。結局、現実世界がwebの世界に先立つ以上、現実世界の社会というものがBCGにおいても重要になってくる、とSTEPN運営は考えているのではないでしょうか。
以上、今回の記事では「6足の谷」を題材に深読みを重ね、STEPN運営の意図にまで掘り下げていきました。
いかがだったでしょうか?
この考察を信じるか信じないかは、あなた次第です。
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