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うさ山ネトゲ小説「夏が来れば彼女は」

これは、かつてあったPSUという伝説の大崩壊ネトゲのβテストで知り合って仲良くなったお友だち、ゾンビ色の肌の三つ編みアンドロイドのエミリーちゃんをモチーフに、個人的な思い出として2010年頃書かれたものです。
彼女(彼?)は私がネトゲや仮想世界で出会った人の中でも3本の指に入る面白キャラで、カルトなゲームと世界中の下らない映画を偏愛する物好きでした。(当時ヤフオクで「ミラクル・カンフー阿修羅」の海賊版DVDを買って喜んでいたことから察して下さい)サブカル方面に博識なエミリーちゃんといくつかのネットゲームの世界をともに旅しましたが、いつのまにか疎遠になってしまい会うこともなくなって今に至ります。
文中に唐突に出てくる『プレスリーvsミイラ男』はその最後の頃「もう見た?まだ?」と二人で盛り上がっていたどうしようもないクソ映画のタイトル。エミリーちゃん、これを見たらまたぜひ連絡をくれ!


戦線が瓦解して、どれくらいの時間が経ったのでしょうか。
悪夢のようなひと夜が過ぎ、起き上がるとまわりは敵と味方が折り重なる死体の山。生存者は誰もいませんでした。
わたしはこうして生きている。しかもまだHPはかろうじて安全圏のまま。
結果的に傭兵稼業の稼ぎの殆どを注ぎ込んだこの防具のおかげでした。女の身でありながらタンクという盾としての生き方を選んだわたしにとって防御力の高い防具は必須だったから。でもこの防具が守れたのは結局はわたしだけだったのでした。わたしは仲間達を守れなかったのです。
「なにが…タンクか!」
わたしは傷だらけの王立騎士団制式盾を地面に叩きつけました。

血塗れの片手剣を杖に、やっとのことで起き上がったわたしの目に映ったのはパーティを組んでいた仲間たちの変わり果てた無残な姿。その事実を支えきれずにわたしは再度崩れ落ちました。茫然自失というのはまさにこういうことを言うのでしょう。つい数時間ほど前までは陽気に軽口すら叩きあっていた仲間たちの全滅。これまでも危うい目には何度もあってきたし、仲間の死だって何度も乗り越えてはきた。でも神よ! これはあまりの仕打ちではないか。
わたしはパーティの盾という運命を呪いました。
「……わたしのせいだ」
わたしの嗚咽とつぶやきは誰にも聞かれることなくこの北の荒れた大地に吸い込まれる筈でした。

「うさ山、あんたのせいじゃないよ」
ほとんど消え入りそうな苦しそうな声。パーティのメイジだったエルフの娘でした。生きていた! 
束の間の喜びは視線に捕らえた彼女の姿と供に深い絶望に変わりました。
彼女は苦しそうに咳き込むと泡立つ血を吐きました。恐ろしいほど大量に! 彼女の白いローブは鮮血に染まり、彼女の華奢な体を…何本もの矢が貫いていたのです。わたしは駆け寄ると彼女を抱き起こしました。たったそれだけで彼女の体からは取り返しのつかないくらいの血が流れ出てしまう…。

もうわりと長いこと彼女と共に生き抜いてきたのです。
彼女の詠唱をわたしが衛り、彼女の魔方陣がわたしを護る。
メイジとして優秀だったという以上に彼女には何度も救われてきました。
人間とエルフという種族の違いはあったものの、彼女の屈託の無さや明るさ、歳の近さも手伝い、私達は親友といっても差し支えないくらいの仲だったのです。

若きエルフの娘は体中から血を流しながら静かに言いました。
「だれも悪くなんかないんだよ。悪いのはこの世界だ。
まだ年若い何も知らないわたしたちが殺したり殺されたりするこの世界が悪いんだよ」
「しゃべらないほうがいい」
わたしは彼女を掻き抱いて涙を流しました。
「これを……」
彼女は握り締めていた血塗れのウォンドをわたしに差し出すと、
「ああ・・・。結局『プレスリーvsミイラ男』見れなかったな」
と微笑んで、そのまま眠るように息を引き取りました。


彼女の故郷だった小さな村の遺族に、遺品のウォンドを届けることができたのはそれから半年後のことでした。彼女がエルフの小さな部族の族長の娘だったと知ったのは彼女が亡くなった後のこと。彼女に似て端正な顔立ちの族長はわたしに深々と頭を下げると言いました。
「このウォンドはあなたが持っていてやってはくれませんか?」

村を出立する日、族長は最初の峠までわざわざ見送りにきました。
「うさ山殿はこれからどうなさるおつもりか?」
わたしは少し考えました。でも本当はとっくに決めていたのです。
「もう戦場にもどるのはやめようと思います」
族長は深くうなずきました。
「そしてわたしも……。わたしも『プレスリーvsミイラ男』のDVDを探してみようと思っているんです」
族長は一瞬驚いた顔を見せると寂しそうに微笑んで言いました。
「貴方も全くもって酔狂だ……。それは想像以上の苦難に満ちた険しい道になるとしか思えない」
「元より覚悟の上です。それにわたしは元とは言え、騎士の道を選んだ者ですから」

今日もわたしは荻窪のTUTAYAをさまよいます。
そしていつか墓前で彼女に『プレスリーvsミイラ男』の筋書きを語って聞かせるつもりです。
でもこれがなかなかないんだ。レンタルにはね。
そもそも誰も見ないでしょこんなクソ映画……。
え? DVD買えばいいじゃんですって? 
自分で買うのはちょっとねえ……。
<完>

エミリーちゃん死んじゃってるじゃねえか! という話ではあるんですが、メメントモリということで……。

ちなみにこれはFF11みたいな世界をイメージして書いたのですが、エミリーちゃんとヴァナ・ディールに行くことはありませんでした。疎遠になってしまったのは、ちょうど彼女が転職だか就職というタイミングだったからと記憶しています。私と違って本物のゲーム好きだったので今もどこかのネトゲで元気にやっているとは思うのですけどもね。

ではまたどこかで。おやすみなさい。

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 いったい何の話をしてるのかさっぱりわからない当時の仲良しスクショ

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