R・I・S・K⑩
司は、好美が自分の中学校と同じ制服を着ているのを見て、一瞬驚いた。
「お前、女だったとはな…。まぁいい、飛んで火に入るとは、お前らの事だっ…!」
司は、フフンッと鼻先で笑うと、手振りで仲間達に合図をし、3人を取り囲ませた。
が…、その時、
「ちょっと待ったーっ!」
洋次は、突然大声を出すと、両脇を掴んでいた仲間達の腕を振り払った。
「この女は、俺が先に目ぇ付けてたんだっ! 悪いけど、今ここで、この女とタイマン勝負させてもらうっ!」
洋次は、何を思ったのか、好美を指さしながら言った。
「はあ〜っ? 洋次、お前なぁっ、何考えてるっ…?」
司は、いい加減キレそうになり、額からピクッと血管が浮き出ていた。
「無駄な労力使うより、その方が効率いいだろっ? そのかわり、俺がこの女に勝ったら、竜次を助けてくれっ!」
洋次はそう言うと、仲間達の方を見た。
「いいかっ? お前ら、絶対邪魔すんじゃねーぞっ!」
仲間達は、後退して2人から離れた。
その際、司の周りが手薄になった。
好美はそれを見て、何か察知した。
「お前、女だからって、手加減しねぇからなっ!」
洋次は、好美をキッ!と睨んだ後、振り向いて背中合わせになった。
「…いいかっ? 1、2の、3で…」
洋次が小声でそう言うと、好美は黙ってうなずき、忍と文人に目で合図すると、2人とも不敵な笑みを浮かべた。
「…1、2ぃ〜の、3っ…!」
そう言ったと同時に、好美と洋次は、2人で司を『羽交い絞め』した。
「このヤロ〜ッ!」
司は、手に力が入らず、持っていた金属バットを落としてしまった。
「さぁっ、さっさと竜次の居場所を教えなっ!」
「あいつか…? 今頃、あの世逝きかもな…」
司は、ニヤリと笑ってそう言った。
すると…、
それを聞き、文人は、司の落とした金属バットを拾い、グイッ!と司の喉元に突きつけた。
「おっ、おいっ…!」
「…さっさと、教えてくれないかな…? でないと、このバットが、お前の喉を潰す事になるんだけど…?」
文人は、怒りを抑えた表情で、ジワジワと力を加えながら、司の喉にバットを食い込ませていった。
「わっ…、わかったっ、教えるっ…! 教えるからっ…!」
司は、文人に恐怖を感じ、悲鳴に似た声でそう言った。それを聞いて文人は、バットを喉から離すと、勢いよく地面に叩きつけた。
好美達は、竜次が中学校の近くにある古い倉庫に閉じ込められている事を聞き、洋次も連れてすぐにその倉庫へ駆けつけた。
古い倉庫の奥にある部屋の中で、竜次は気を失ったまま、縄と鎖で柱につながれていた。
好美達は、縄と鎖を急いで解いた。
「竜次君っ…!」
文人が何度も竜次の頬を叩くと、竜次は目を覚ました。
「…文人…」
竜次は、司に何度も金属バットで殴打され、肋骨にヒビが入っているらしく、かなり痛そうにわき腹を抑えていた。文人と忍が両方から竜次を支えて外に出ようとした時、司とその仲間達が待機していた。
「…フーちゃん、竜次を安全な場所に連れて、早くここから逃げなさいっ…!」
「でもっ…!」
「ここは、オレ達に任せて、早くっ…!」
「シーちゃんっ…!」
「眼鏡チビ、竜次を、俺のせいで巻き込んで、すまなかった…。お前らだけでも、無事に逃げてくれっ…!」
「…洋次君っ…!」
好美と忍、そして洋次は、文人と竜次に逃げるよう促した。
だが…、
竜次は、文人の手を払いのけた。
「…竜次くっ…」
「このまま、あいつらにやられっぱなしで、逃げられるかよっ…」
司の卑怯さと、一晩監禁されたせいか、竜次の怒りが倍増していた。
「…わかった。ムリすんじゃないよ…」
この時既に、好美達は数百人近くに取り囲まれてしまっていた。
「お前ら、やれっ…」
司のひと言で、連中は一斉に好美達に襲いかかってきた…。