Re・Birth②
夏休みに入ると好美は、札幌の家族の住むマンションに来て、荷物を置くと、すぐに友人に会いに行った。
JR札幌駅に着くと、南口で待つ友人の姿が見えた。
好美が声を掛けようとした時、友人は、数人の若い男達に囲まれてしまった…。
「ねぇ、カノジョ〜♪ めんこいじゃん♪」
「ひょっとして、友達と待ち合わせしてんの〜? だったら、その娘と一緒に、俺らと遊ばない〜?」
「…でもっ…」
友人は、困った表情でうつむいた。友人の、栗色の長い髪が、キラキラと陽の光を浴びて、夏の風になびいていた。
ーー…やれやれ、またナンパされてるのか…ーー
好美はその様子を見てクスッと笑うと、友人の方へ歩いた。そして、わざと低い声を出して、
「ごめん、忍♪ 待った?」
と呼びながら好美は駆け寄ると、友人の肩をグイッと抱き寄せた。
「なんだよ〜、男とデートの待ち合わせかよ〜っ!」
男達は、好美を見て男だと勘違いをして(背丈も自分達より高く、顔も好美の方が『イケメン』なので)、「チッ!」と悔しそうに舌打ちすると、行ってしまった。
「…好美ちゃん、今の声、わざとでしょ…」
「…忍こそ、さっさと男だって事、言えばいいのに…」
「そんな事言ったら、あいつら、当分の間、ショックで立ち直れないでしょ…」
二人は顔を見合わせると、ドッ…!と笑い出した。
友人の藤沢忍(ふじさわ しのぶ)は、目が大きく、睫毛も長く、栗色の長い髪をしていて、好美より背が低く、声も可愛らしいので、どう見ても『華奢な美少女』にしか見えないが…、
これでも、正真正銘の『男の子』である。
その見た目のせいで、街を歩いていると、先程のようにしょっちゅう若い男達にナンパされてしまうのである…。
「あ〜ぁ、いっそ逆だったらよかったのに…」
好美は、溜息混じりでそう呟いた。
「まぁまぁ…。でもさぁ、あの時もしオレが男だって言ったら、どうなってたんだろうね…」
忍は好美をなだめながら、クスクスッと思い出し笑いをしていた。
二人が楽しそうに街を歩いていると、周りの人達が皆、振り返っては、『羨望の眼差し』で見ていくのである…。
しばらく歩いていると、見覚えのある茶髪の男が反対側から歩いてきた。
その男は、忍の通っている中学の友人の沼津洋次(ぬまづ ようじ)だった。
「ゲッ! ヤバイッ!」
忍は、洋次を見て、とっさに好美の後ろに隠れた。
洋次は、好美に気が付くと、こちらへ歩いてきた。
「あれっ? アネゴじゃん♪」
洋次は、好美の後ろに隠れている忍に気付いた。
「忍〜っ、お前、何隠れてんだよ〜っ!」
洋次がそう言って忍に抱きつこうとすると、忍は条件反射で洋次の腹部を思いっきり蹴飛ばした。洋次はその勢いで、倒れ込んでしまった(忍も、好美と一緒によく不良グループと喧嘩したりするので、見た目に反して強いのである)。
「何だよ〜っ! 蹴る事ぁないだろ〜っ!」
「うるせー、お前が抱きつこうとするからだろっ!」
洋次は、忍と初めて会った時『一目惚れ』してしまい、忍が男だと分かった今でも、アプローチしてくるのである(要するに、『美形』なら、男も女も関係ないのである)。
ーー…こいつら、また始まったよ…ーー
好美は、洋次と忍が街中であまりにもギャーギャーと騒ぐので(周囲からも、ジロジロと見られて恥ずかしいのもあって)、ピシャッとひと言、
「…洋次、あんまり忍にしつこくすると、忍に嫌われるよっ…」
と言い放った。
「えっ…?」
洋次は好美の言葉を聞いて、一瞬固まってしまった。
その隙に、忍は洋次に気付かれないよう、好美の腕を引いて、走った…。
「あっ…! 何だよ〜っ、アネゴまで〜っ!」
洋次はハッ!と我に返り、必死で追いかけたが、二人の足の方が速く、途中で見失ってしまった…。
好美と忍は、洋次を振り切った後、狸小路にあるハンバーガーショップに入って休憩していた。
「…全くもうっ、洋次ってば本っ当、しつこいんだからっ…!」
忍は膨れっ面をしながら、ハンバーガーにかぶりついていた。
「アイツも悪いヤツじゃないんだけどねぇ…」
好美は、洋次が固まった表情を思い出して笑っていた。
「もうっ、好美ちゃんってばっ! 笑い事じゃないんだから〜っ! 学校行ったら洋次ってば、いっつもあんなんだよ〜っ! 全く、いい加減にしてほしいよ〜っ!」
そう言って、忍は最後の一口を一気に食べ終わると、ドリンクを一気に飲み干した。
「アイツってば、忍が男だって分かってても、忍の事好きなんでしょ♪」
「やめてよ〜っ…」
忍は、学校でも毎日洋次にしつこく迫られているらしく、ウンザリしていた。
ーー…オレが好きなのは…ーー
忍は、好美にそう言いそうになりかけたが、声にならなかった…。
ーーホント、鈍感なんだからっ…ーー
好美は、忍がそう思っているのを気付かず、窓際の席からボンヤリと外を眺めていた…。
夏休みの間、好美は忍としょっちゅう会っては、お互いの家に寝泊まりしたり、洋次や他の仲間達と一緒に遊びに行ったりして過ごしていた…。
その間、好美は身体に何か『違和感』を覚えていたが、忍に余計な心配をかけまいと黙っていた…。
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