Re・Birth⑦
その手鏡は、好美が厳重にタオルを巻き、バンソーコーで留めてあった。
「もうそろそろ、覚悟を決めて見てみようと思うんだけど…」
そう言いながら、好美は手鏡のタオルを外そうとした。だが、いざ外すとなると手が震えてしまい、なかなか外せなかった。
手鏡を忍に手渡したが、忍もためらってしまい、なかなか外す勇気が出なかった…。
「…ホラ、貸してみっ…!」
二人の様子を見て、洋次は見かねて手鏡を取り上げると、一気にタオルを外した。
「…一生、鏡見ないワケにもいかねーだろっ。ホラ…」
洋次はそう言うと、好美に手鏡を手渡した。
好美は、一旦目を閉じると深呼吸し、ゆっくり目を開くと、覚悟を決めて鏡の中に映る自分の顔を見た…。
ーーあっ…!ーー
次の瞬間、好美は目を見開いて驚いた。
鏡の中に映っていたのは、いつも夢の中に出てきた、あの男と同じ顔だった…。
ーー…あの夢は、こういう事だったんだ…ーー
好美は、しばらく鏡の中の自分を見つめていた…。
更に数日後…、
好美は病室で『姓名判断』の本を読んでいた。
と、いうのも、美麗が戸籍の変更手続きを出しに市役所に行った際、
「新たに名前を決めてから、戸籍変更の手続きをして下さい」
と職員に言われたらしく、早急に新しい名前を考えなければならなくなったからである。
傍らには、メモ用紙とボールペンがあり、ベッドの上には、何度も名前を考えては書いて、納得出来ずに握り潰した紙が散乱していた…。
「…ったくようっ…、決まんねぇ〜っ!」
好美が、イライラして思わず本をドアに向かって放り投げたその時、ちょうど忍と洋次が病室に入ってきて、洋次の顔面に本が直撃した。
「いってぇ〜っ!」
「あっ…、洋次…。悪いっ…」
洋次の顔面を見ると、本のカタチになって赤く腫れていた。好美は、それを見て苦笑いして立ち上がると、洋次の顔に手をかざした。
「四角くなってやんの〜♪」
好美は笑いを堪えながら言った。
「…ひっでぇな〜っ…」
そう言いながら好美を見た瞬間、洋次は驚いた。好美の目線が、洋次と同じくらいの位置だったからである。
「アネゴ…、背、また伸びた…?」
「うん…。昨日、病院で身長測ったら、185センチだって…」
「マジで〜っ!」
「洋次、お前なぁ…、もうそろそろ、そのアネゴって呼び方するなよ…」
「…あっ…、そっか…」
好美は苦笑いして、本を拾い、ベッドに戻った。
洋次は、持っていた鏡を取り出して、顔が赤く腫れているのを見て、唖然とした。
「…その様子じゃ、新しい名前、まだ決まってないみたいだね…」
忍は、ベッドの上に散乱している紙クズを見て、クスッと笑った。
「なかなかいい名前が思いつかなくてさ…」
好美が欠伸混じりにそう言うので、忍は椅子に腰掛けると、パラパラと本をめくった。