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Re・Birth④

好美が目を覚ますと、辺り一面、真っ白だった…。
ーーここ、どこ…?ーー
好美は、静かに起き上がった。そこは、病院の診察台の上で、周りを白いカーテンで覆われていた。
診察室の方へ耳を傾けると、好美の母・美麗(みれい)の声と、医師らしい男性の声が聞こえてきた。
「…どういう事なんですかっ!」
美麗は、ひどく動揺していて、声を荒げていた。
「お母さん、落ち着いて下さい…」
好美は、医師の話が聞こえづらいので、少しだけカーテンを開け、耳を澄ませた。
「…これは、滅多にない事なのですが…、恐らく、性染色体の先天性異常ではないかと思われます。娘さんがまだお腹の中にいる時、性染色体が分化し、何らかの異常を起こしたままだったと思われます…。今まで、何の自覚症状も現れなかったので、学校で行なわれているような健康診断では発見されなかったのでしょうけれど、今、娘さんの体に、急激な変化が現れています。すぐに手術をすれば治まるのですが…」
医師は、言いづらそうにレントゲン写真を見つめながら、美麗に説明を続けた。
「…今回のケースの場合、性腺が精巣に分化し始めています。それに伴って、体も男性化が始まっていますので…、手術の結果次第では、娘さんは女性ではなくなるかもしれないのです…」
ーーえっ…?ーー
好美は、それを聞いて、一瞬自分の耳を疑い、驚きのあまり、思わずカーテンを開けてしまった。
「…どういう事なんですかっ…!」
「こっ…、好美っ…、あなた、今の話をっ…」
好美は、今にも泣き出しそうな表情をして、医師の方を見た。医師は、好美にもどういう状態なのかを告知した…。
話によると、好美は、稀に見る『先天性仮性半陰陽』で、その影響で、体が次第に『男性化』しているというのである。好美の声が低くなってきたり、背が伸びてきたり、14歳になっても胸が大きくならなかったり、生理がないのはその為であった…。
手術をすれば『性腺の分化』は治まるのだが…、
好美の場合、手術の結果によっては、そのまま『男』になってしまう可能性があるのだという…。
「…とにかく、一刻でも早く、娘さんの手術が必要です。このまま放っておくと、命にも関わります…」
美麗と好美は、しばらく愕然としていたが、医師に促され、一刻を争うので、美麗はすぐに入院の手続きをした。
「パジャマとか必要なものは、後で持ってくるから…」
美麗は、半ばパニックに陥りそうになるのを必死で堪え、好美を病室のベッドに寝かせると、慌てた様子でマンションに帰っていった…。

好美は、その日の夜、病院から出された食事も喉を通らず、病室のベッドで一人、声を上げて泣いた…。

翌朝、好美の様子を見る為、忍は病院に来た。そして、病院のロビーで美麗から事情を聞いてしまい、複雑な思いをしながら病室へ向かって歩いた。
ーーもし、このまま好美ちゃんが男になってしまったら…?ーー
病室の前に着くと、忍は一旦、深呼吸して気持ちを落ち着かせてから病室に入った。好美は、前の晩から泣き疲れて、目の周りが赤く腫れたまま、ぐっすりと眠っていた。
ーー好美ちゃん、泣き疲れたんだね…ーー
好美の頬を見ると、涙を流した跡が残っていた…。
忍は、コートを脱いで椅子の上に置くと、病室にあった花瓶を持ち、水を入れに洗面所へ行った。
蛇口をひねって水を出した時、忍の目から涙が流れた…。
ーーどうして、こんな事っ…!ーー
花瓶に水を入れている間、忍は、声を押し殺して泣いた…。

しばらくして落ち着くと、忍は、顔を洗って涙を洗い流し、花瓶に持ってきた花を活けて、病室に戻ってきた。
「…んっ…?」
好美は、花の香りと忍の気配で目を覚ました。
「あぁ…、忍…。来てたんだ…」
「…あの、好美ちゃんっ…」
忍の目の腫れ具合と表情を見て、好美は、忍が事情を知ってしまった事に気付いた。
「聞いたんだ、アタシの体の事…」
「…うん…」
忍はうつむいたまま、黙ってしまった。
「…アタシ、手術の結果によっては、男になっちゃうかもしれないんだよね…。全く、こんなふざけた病気があるなんてさぁ、笑っちゃうよね、ホント…。何で、アタシが、こんなっ…」
そう言いかけた好美の目から、涙が流れた。
「好美ちゃんっ…」
「ごめん、忍…。まだ気持ちの整理が出来てなくて…」
好美はそう言うと、慌てて毛布を被ってうずくまり、声を押し殺して泣いた…。
それを見て、忍も、思わず病室を飛び出すと、廊下で涙を流した…。

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