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Re・Birth⑧

「…上の姓名が植村だから、それに合わせて違和感のない名前がいいよね、やっぱり…♪ どうせだから、うんと男らしい名前にしようか♪ ねぇ、好美ちゃ…」
そう言いかけて忍が振り向くと、好美は寝息を立てて、ぐっすり眠ってしまっていた。
「こっ…、好美ちゃんっ…」
忍は一瞬ムッとしたが、手術の後、好美は日毎背が伸びるなどの急激な変化で、体が疲れやすくなっているのである。疲れきった好美の寝顔を見て、忍は溜息をついた。
「…やれやれ…」
「まぁ、仕方ないよな…」
洋次は苦笑いしてそう言った。

しばらく忍も本を見ていたが、なかなかいい名前が思いつかなかった。気分転換に、洋次が持ってきた漫画雑誌を読み出した。
その際、サッカーを題材にした漫画のページを読み、主人公のライバルの名前を見た時、忍は、何か閃いた。
ーーこの名前、いいかもっ…♪ーー
忍が、その漫画を見てニヤッと笑みを浮かべたので、洋次は何気に雑誌を横目で見た。そして、忍が見ていたページに出ている主人公のライバルを見て、一抹の不安を覚えた…。
「…おい、忍っ…。まさか…?」
洋次が半信半疑で訊くと、忍は、嬉しそうな表情をしてうなずいた。
「お前な〜っ! いくら何でも、冗談はやめとけってっ…!」
「好美ちゃ〜ん♪」
「おいっ!」
洋次が止めるのも聞かず、忍は、好美の体を揺すると無理矢理起こした。洋次は、サーッと顔を蒼ざめた…。
「…何っ…?」
好美が目をこすりながら起き上がると、忍は、その漫画雑誌を好美に見せた。
「うん…? ああ、何、どうした…?」
好美は、まだ頭がボーッとしていて、忍が何を言わんとしているのか気が付かなかった。忍は、雑誌を開いて、主人公のライバルを指差すと、好美に見せた。
「…えっ…? コイツの名前って…、…ええっ…?」
好美は、ようやく事態を飲み込んだ。
「いいと思わない♪」
忍はいつになく、嬉しそうに目をキラキラ輝かせていた。
「…マジで〜っ…?!」
「…忍、冗談も程々にっ…」
洋次がそう言いかけると、忍はとっさに洋次の顔面を持っていた雑誌で叩いた。
好美はしばらく考え込んだが、『ものは試し』とばかりに、メモ用紙に姓名とその名前を書いてみた。すると、今まで考えた中で、一番違和感のない名前だった…。
「…他にいい名前、思いつかないしなぁ…」
「じゃあ、これで決まりだね♪」
「えっ…! いや、待て、忍の冗談を真に受けっ…」
洋次がまたそう言いかけた時、忍は、肘鉄を一発くらわせ、洋次を黙らせた。
結局、新しい名前は『植村 小次郎』(うえむら こじろう)に決まってしまった…。


3学期の間、小次郎は、祖父母の住む町には戻らず、札幌に住む家族のマンションから、しばらくの間通院する事になった。
手術後の経過は順調で、『性染色体異常』と『性腺の分化』は完全に治まり、小次郎は、心身共に『男』になっていった…。

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