物忘れのプレゼント
「これはあなたのプレゼントよ」
そう、言われて見たピンクの大きな袋は言った覚えのないものが入ってた。
「知らない、これは誰かのでしょ?」
「あなたに似合うと思って買ってみたのよ」
「似合わなかったらどうするつもり?」
「いいから着なさいよ。私が買ってあげたんだから」
いつもこうだ。このやりとりが母娘の虐待の口火になる。大声をあげ目くじらを立てた母親の顔は自分のあげたプレゼントをただ押し付けて相手が喜んでいる情景を一方的に娘に向けている。
ピンクのプレゼントは瞬く間に母親の手に捕まれ娘の顔に向けて投げつけられた。
俺は、このやりとりをただ見るしか出来ない。激しく異常なほど執拗に嫌味を口にし始めた母親はプレゼントを受け取らない娘の至らなさについてヒステリックに唾を飛ばしはじめた。
じっと、前髪の隙間から親の顔を三白眼のようにきっと見つめ下を向くフリをする。となりには、投げつけられたプレゼントは捨てられたように床に投げ出されたままだ。
この一方的でだれも益にもならない時間が1時間続く。俺は短いため息に腕組みをし始め事の成り行きを見守るしかできなかった。
スマホが鳴る。母親は声色を変え電話向こうの相手と会話をし始めた。その場から離れてリビングへと消えていく。
誰も言わなくなった部屋に強く握りしめる両手とあふれそうな涙目をこらえるため
強く歯を食いしばっていた。
ただ、娘は聞いただけ。何も嫌味を言ったわけではない純真たるゆえの言葉なのだ。
悪態に見えたのだろうか?
母親は「すぐに受け取ったら感謝を述べるべきだ!ありがとうございます。の一言もいえないのか!」
俺はその侮蔑した言葉を思い出した。
この家族の関係は氷山のように固く隙間に深く切り込んだクレバスに似ている。
数年間、押し付けのプレゼントは誰も開けることなくそのまま置き去りにされやがて母親の手に渡りプレゼントは結果、自分のために買ったものとされていた。
娘であるその子は親の愛情も期待すら諦め、一人で自分のプレゼントを手にいれるために親との関係を切り捨てた。
いったい、家族の愛情とはなんなのか
関係を引き裂くためにリボンを結んだわけではないのに、この日常に投げ入れらたがためにプレゼントは数年間誰にも受け取ってもらわなかった。