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麻の織りなす魅惑的で快適な世界

夏の定番素材として誰しもパッと頭に浮かぶ麻。クラシックの世界に於いても同様で、シャツやスラックス、ひいてはスリーピースまで、あらゆるアイテムで使われています。

今回はそんな麻の魅力を発見し、心ゆくまで堪能するためのリネンガイドを綴ります。


麻の生産地


かつて歴史の教科書で学んだチグリス・ユーフラテスの川辺にも自生していたことから世界最古の繊維と呼ばれる麻は、一大生産地として欧州に根を下ろし、そのブランド性を確立して見事な歴史を紡いできました。(糸だけに。)

具体的にはアイルランドのアイリッシュリネンや、ベルギー近傍のフランダースリネンなどが非常に有名です。
ちなみに今となってはアイルランドではリネン農場や紡績工場が残っていないものの、アイリッシュリネンギルド(組合)が正式にアイリッシュリネンを承認し世界へ発信する役割を担っているようです。

https://irishlinen.co.uk 


夏の定番スペクテイターとも好相性


麻の特徴

麻は一見格好良いけど上級者用の服というイメージを持たれる方が少なくありません。冬のツイード夏の麻。憧れはあるけど何となく難しそう。
そんな方は以下の4点をぜひおさえて下さい!麻がぐぐっと身近で扱いやすくなること必至です。

⚫︎吸湿・速乾性
夏の王様たる所以は、汗をすぐに吸ってすぐに乾くという着用時の圧倒的な快適さが大きな魅力です。

⚫︎シワ
とにかく簡単にシワになるのも麻の特徴。麻のビジネスシーンへの進出を妨げている大きな理由のひとつ。
スーツで使う場合には300g/m以上の生地を選ぶことで、シワの入り方が優雅になり、小汚くならないため必ず意識すべきポイントです。

⚫︎堅牢さ
素材の強度が高く簡単には壊れません。このハリによって表現できるシルエットのゆとりは麻ならではと言うべきでしょう。
大変仕立て映えのする個人的に最も好きな素材のひとつです。

ちなみに、柔らかな物や軽い生地を選ぶとこのように直線的なシルエットを作れず、せっかくのゆとり部分がぐちゃっとして台無しになってしまいます。

⚫︎ペクチン
麻特有の成分・ペクチンの作用により汚れづらいというメリットと背中合わせですが、繊維内部まで染料が浸透しづらいという特徴があります。

染料が表面のみに乗っているような状態なので、摩擦により生地表面が毛羽立つと染色の甘い繊維内部が露出し白っちゃけたような見た目に。

しかし、日本紳士服界の大家であった故・白井俊夫さんの逸話は面白いです。
曰く、麻のスーツというのは3年くらい着込まないと本当の良さが出ない。3年目の味わいを出すために最初の2年間は無駄に着続けて、生地表面が毛羽立ってホッケホケになったものを楽しむのだと。

小話によりやや脱線しましたが、ここからは実際の洋服として落とし込む際にこれらの特徴がどのように活かされるのかを見ていきましょう。


夏シャツの最適解

シャツの素材として使われる時、その吸湿・速乾性は大いに効能を発揮します。ピーカンに晴れた夏の日中であればほんの1〜2時間でパリっと乾き、着用中の汗濡れもいつの間にか湿気が消えて無くなります。

これがコットンのシャツでは全くこのようにはいかず、いつまでもベタッと濡れていて、冷たくなって寒い思いをした経験が誰しもあるでしょう。


また、夏らしさが爆発するようなビビットな色がしっくりとハマるのも麻シャツの利点です。
本来であれば彩度の強すぎる色は洋服全体のバランスを考慮すると忌避すべきもの。プリントのごとく発色の強い洋服はやや稚拙に見えることがあり、大人のワードローブでは活躍の機会が限定的です。

しかしながら麻シャツは一味違います。前述の通り染料が浸透しづらく素材表面が白っちゃけるからこそ、元気な色でも少しだけ白が混ざったようなマイルドな色味になるのです。
盛夏の燦々とした陽の光に対して負けじと照らし返すようでいて、その実、人前では礼節を保つよくできたシャツが仕立て上がります。

強く見える色もマイルドに収まるのが麻の特徴


物憂げながら魅力的な顔つき


また、麻の魅力のひとつは素材の表情。ところどころに繊維のフシが出て、杢っぽいアンニュイな顔つきをしています。いくつかの色が混じり合ったような外見によりオシャレ感とカジュアル感がそれぞれ顔を覗かせます。

繊維のフシによって現れる白い縦の線


もちろん麻100%の生地は堅牢な男らしさが詰まっていますが、この繊維のフシをスパイスとして使う、ウール、シルク、コットンなどとの混紡素材も作られています。混紡素材は耐久性の観点から主にジャケットに使われることの多いものです。

また麻の防臭性の低さ、シワになりやすいなどの特徴に対し、防臭性と耐シワ性を兼ね備えるウールは最高のコンビネーション。機能面の弱点を補い合う見事なジャケットが仕立て上がります。

ウールとリネンの混紡素材


ここまでご覧頂けたなら、あなたは既に麻の深遠な世界の入り口にいます。上記の点をおさえれば恐るるに足らず。一緒に魅惑の世界へと踏み出しましょう!



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