検査してみたら精子がなかったので多分あれを切る話『鼻明かし編』
「もう豊中さんうるさいから全身麻酔しますね」
無茶苦茶な理由で俺の意見もスケジュールも無視し、勝手にあれよこれよと決められた。
どうやら俺に人権はないらしい。
人権がない実験動物らしくこれまたあれよこれよとベッドに寝かされガス吸引用のマスク、そしてヘッドホンを取り付けられる。
ーーーー本作は『検査してみたら精子がなかったので多分あれを切る話』玉隠し編・種流し編・ハメ殺し編から続く解答編です。先に出題編三作の購読を強く推奨します。ーーーーーー
「これ怖がる人も多いんでね、このヘッドホン、これねここからリラックスBGM流れるんで安心してくださいね」
別に麻酔は怖くはなかったが確かに怖がる人もいるんだろう。
いらぬ配慮だが断ってもどうせ無駄なので、されるがまま楽し気なイントロに耳を傾け力を抜く。
『Ladies and gentlemen, boys and girls Tokyo Disneyland proudly presents
our most spectacular pageant of night time dreams and fantasy in millions of sparkling lights and brilliant musical sounds Tokyo Disneyland's electrical parade Dreamlights』
よりにもよってエレクトリカルパレードかよ。なにがリラックスだ、子供用と間違えたのか。
「は~い痛かったら手ぇ上げてくださいねぇ~」
朦朧とする意識の中、にやけ面の医者が目に入る。こいつ絶対わざとだ。
怒りと不安に包まれながら視界の端が徐々に暗くなり俺は意識を手放した。
・全身麻酔
カチャリカチャリと金属の音がする。何かの機械が動く音、足音、真っ暗闇の中耳だけが聞こえている。全身の感覚はなく指一本動かせそうにない。
きっと麻酔が浅かったんだ、だがそれを誰かに伝える手段はない。
「予想より大きいな・・・潰しながら出そう、ペンチとってくれ」
「はい」
ゴッ!鈍い音が脳を揺らす。潰したのか俺のキンタマをたった今。全身麻酔をしていて本当に良かった、つくづくそう思う。多分麻酔なしでやっていたらショック死していた。あの医者最初麻酔なしでやろうとしてたけど。
「USO値が800になったら肛門のプラグを引き抜いてくれ」
「2本ともですか?」
「ああ2本ともだ」
これまで聞いたことがないほど真面目な声で医者は助手に指示を出す。
あんなのだけどこいつはどうやら真面目に手術をしてくれているらしい。
「先生お電話です」
「ああ」
……出るんだ電話、手術中に。
「はい……うん…うん…はぁ……」
それから10分はたっただろうか、医者はさっきからずっと頷いている。
できれば俺の手術に集中してほしい。
俺が間違っていなければ普通は手術中に電話なんかしない。だがそれでも出るということは余程の緊急事態なのだろう。
どうせ止めることもできないし見知らぬ誰かを助けたと思って我慢することにした。
「……も~~!!せやからしらんやんそんなん!お母さんは黙ってて!!」
実家のお母さんと話すな。他人のキンタマ弄りながら。
「先生、お父様からお電話です」
「も~なんなん?ふたりしてぇ!喧嘩は二人でしてぇなぁ!」
おまえが家でやってくれ家で頼むから。
・怒られた
これまた10数分後両親との言い争いを終えた医者は手術を再開してくれた。すっかり覇気を失い無言で作業に励んでくれている。
「……はぁ~」ゴッ
「ちょっと先生!?なにやってるんですか!!」
助手さんに怒られた。そんな急にやる気を失ったぐらいでそんなに怒らんでも。
「先生今潰したキンタマ2個目ですよ!?」
ホントになにしてくれてんだおまえ。
「う……!あっ…えと」
目は見えないが露骨に焦っているのがわかる。それよりも俺はたった今世にも奇妙なキンタマ3つ男からキンタマ1つ男になったのか、振れ幅激しくない?
「どどどどうしよう!?病院かなぁ?病院行った方がいいかなぁ!?」
「ここは病院です!!」
あんたが病院行って診てもらえ、脳を、何か見つかるから。
「きっ昨日切除した岡田さん(仮名)のキンタマがあっただろう!あれを持ってこい!代わりに突っ込むぞ!」
「何考えてるんですか先生!?他人のキンタマを入れるなんて!」
「大丈夫だ!ばれっこない!!」
「ばれますって!」
「寝てるんだからわかりっこないさ!!」
丸聞こえだ全部。
「じゃあなんだ!?君はあれか!君は毎晩自分のキンタマを球袋から取り出して、ふぃ~今日もいいキンタマだな~って磨いてから戻すってのかい?!磨いてる最中にあれ?このキンタマ俺のじゃないぞ!どっひゃぁ~知らない人のキンタマだこれぇ~ってなるっていうのかい?」
「やりません!そもそも私キンタマついてません!」
図らずもセクハラの現行犯に立ち会ってしまった。いやでもこの場合俺もセクハラ加害者なのかな、キンタマもあれも丸出しだしなぁ。
「心配ない私なら出来る!さあキンタマを持ってくるんだ!!」
「出来る出来ないの問題じゃないんです!!そもそもそんなことやっちゃだめなんですよ!」
いいぞもっと言え。
「とかなんとか言いながら持ってきてくれる君のこと私は好きだぞ!」
「ちょ…♡やめてください急に好きだなんてそんな」
家でやれ家で。
ここはあれか、アットホームと公私混同の違いがわかってないのか全員。
なにが悲しくて30過ぎてキンタマおっぴろげながら小学生のラブコメみたいな話を聞かされにゃならんのだ。
小便ぶっかけてやろうかおまえら全員、今の俺にだってそれぐらいの抵抗はできるぞ。
俺は下半身に意識を集中した、今の俺の怒りならば麻酔の効力など消し飛ばせる。集中…精神統一…明鏡止水………余計な思考は消え、雑音も聞こえなくなった。これが心頭滅却の極致……そのまま俺はまた意識を失った。
・手術を終えて
「豊中さん、豊中さん、聞こえますか?」
いつの間にか眠っていたらしい。ベッドの上で目を覚ます。お目覚め一発目からあの小憎たらしい医者の顔が飛び込んできた。
「豊中さん、ここがどこかわかりますか?」
「う…ゆっ由北大学病院」
「豊中さん、私が誰かわかりますか?」
「あ…さ…笹倉先生」
まだ麻酔が効いているのか口が少ししびれている。だが意識ははっきりしていた。手術中に何をされたのかもバッチリ覚えているぞ。
「この写真を見てください。これが何に見えますか?」
「………ごめんなさい、わかりません」
「大丈夫です私にもわかりませんから」
殴りてぇこいつ。
「ふむふむ…まだ少し痺れや浮遊感が残っているでしょうが概ね大丈夫そうですね」
勝手に納得した医者は持っていたバインダーに何かを書き込んだ後、おもむろに胸ポケットから取り出したこれをテーブルに置いた。
「はいこれ、手術後結構欲しがる人いるんですよ~」
「綺麗でしょ?豊中さんのキンタマ」
「え?ちょっと待ってください。僕のキンタマは潰されたんじゃないんですか?」
「は?何を言っているんですか?手術の説明はしたはずですが」
確かに綺麗なキンタマがテーブルの上に乗っかている。
潰されたんじゃなかったのか。
「…ははっじゃああれ全部夢か」
「ほう、何か悪い夢でも見ましたか?」
「ええとても悪い夢を見ていました」
「そうですか。まあこのご時世色々やかましいですから夢オチの方がいいですよね」
「…ん?」
「ところでアメリカだと抜けた歯って上の歯は枕の下に敷いて下の歯は屋根の上に投げるらしいんだけどキンタマってどうするんですかね?」
そんなこと知るか。
~玉殺し編に続く~