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検査してみたら精子がなかったので多分あれを切る話 『玉隠し編』

・はじめに

これは子作りに励むある男の不妊治療に纏わる話である。
俺の名は豊中智樹。
これはある男の自分との戦いの物語である。

・ある日の夜

すっかり日課となった夜の営みを終え床に就こうとしたころ、いつになく真剣な声色で妻が語り掛けてきた。

「ねえとよ君。とよ君のキンタマでかくなってない?」

いきなりなんだ人が寝ようって時に。
あまりに唐突な発言に思考が停止する俺のことなど露知らず、妻は照明のリモコンを手にする。
自慢じゃないが我が家の寝室にはちょっといいプロジェクターが備え付けられている。奮発して買ったポップインアラジンと言う照明一体型のちょっといいプロジェクターだ。自慢じゃないけど。
妻はリモコンを操作してアラジンを起動した。

「ちょっとこれを見てもらえるかしら」

我が家の寝室の壁に俺の睾丸の写真が映し出される、どんな状況だ。
こんなことのために使われるならアラジンを買うんじゃなかった。

「いい?とよ君、この右が先月の睾丸つまりキンタマね。そして左が3日前のキンタマの写真よ」
「ねえなんでそんなの撮ってるの?」

俺の声はどうやら妻に届いていないらしく、仕方がないので写真に目をやる。確かに言われてみたらほんの少し大きくなっているようにも見える。
納得いかないといった俺の表情を横目に妻は次のスライドを映した。

「いい?とよ君、これはあなたのキンタマに墨を付けてとった魚拓・・・いいえキン拓ね。同じように右が先月左が3日前よ」
「ねえなんでそんなの採ってるの?」

妻はスライドを送りご丁寧に半透過したキン拓を重ねた図を見せてくれた。
実際の数値はわからないが両サイド2センチほど大きくなっているようだ。

「ちょっとまって、とよ君!?」
「どうしたの?」
「キン拓って・・・キムタクに似てるわよね?どうしようジャニーズさんサイドが怒ってこないかしら」
「そんなことは絶対にないから安心して、万が一怒られてもジャニーさんキンタマ好きだったから許してくれるよ」

何かに気づき慌てる彼女を咄嗟になだめたが、これは果たして正しいフォローだったのだろうか。いや、まあ正直こんな状況だし何言っても間違いなんだろうけど。

「そう・・・でもそれだけじゃないのよ、とよ君」

アラジンの電源を落とすと彼女はこちらに向き直し俺の目をじっと見てきた。

・もうひとつの異常

「とよ君・・・あなたの精液・・・硬くなっているわ」
「はあ」
「そうよ絶対以前に比べて固くなっているわ。今はそう硬度60mg/Lってところね」
「はあ」
「これは大体ボルヴィックと同じ硬さよ」
「ボルヴィック 俺の精液 ボルヴィック」

豊中智樹30歳、自分の精液をミネラルウォーターで例えられたのは人生で初めてだった。我が妻ながら恐ろしい人だ。

「前はもっと軟こくて六甲の天然水ぐらいだったのよ」
「はは、じゃあ俺の精液でお米を炊いたらきっとおいしいんだろうな」
「はあ?何言ってるの?とよ君あなたわたしのこと馬鹿にしてるの?私真面目に言ってるのよ?」

怒られてしまった。

「ねえとよ君、今はとよ君に性液がコントレックス並みに硬くなるかどうかの瀬戸際なのよ?それをバカにして。あなた常識で考えてそんな激エロザーメンライス食べたい人間がこの世にいると思う?ふざけないで!私…私…」

泣き出してしまった。

「とよ君いい?私はね?心の底から心配しているの。あなたのキンタマがおかしくなってしまったんじゃないかって。とよ君の精子工場がどうにかしてしまったんじゃないかって。」

今度は間違えないぞ、正しいフォローをしてみせる。

「大丈夫さマイハニー俺の豊中精子工場は静止しないぜ」

どうだ・・・

「なに今の。豊中精子工場ってなに?富岡製糸場と掛けたの?それの何が面白いの?あなた自分のキンタマが歴史的に貴重な工場と同格だとでも思っているの?呆れた。あなたIQをどこかに捨ててきたんじゃなくって?知ってる?サボテンでもIQは6あるのよ。今のあなたはサボテン以下よ。サボテンだって綺麗な花をつけるものね。あなたのキンタマは何をつけるの?まったくだらしがない」

濁流のような彼女の罵倒をいつものように聞き流しながら脳内で問題点をまとめる。
要は彼女が言いたいのは2つ。

・キンタマが日に日に巨大化している
・精液が硬質化していっている


以上のことからキンタマに異常が起こっているのではないかということだ。
自分としては特に異常は感じないが、データを示されて指摘された以上無視はできない。
どこかで時間を見つけて病院に行くことにしよう。

次回『種流し編』に続く

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