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「美しい世界の線路」誕生秘話

お陰様で無事発売となった、技術評論社の図鑑「美しい世界の線路 ヨーロッパ編」。この企画が最初に立ち上がったのは、実は今から遡ること10年前、2011年のことでした。

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当時、別の本の出版(共同で執筆したもの)が終わったあとで、編集担当者たちと飲み会をしていたのですけど、その席上でたまたま線路の話になり、今度私が撮影した線路の写真を見せるという約束になったのです。

後日、私は何枚かの写真をメールで編集担当者に渡しました。その担当者は「線路の写真が面白い。どうにかこれを1冊の本にまとめられませんかね。写真をお預かりしてもよろしいですか?」と私に尋ねました。もちろん、私は断る理由がなかったので、どうぞとお返事をしておきました。

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その後、色々な出版社へ相談を持ち掛けて頂いたようなのですが、線路、しかもヨーロッパのとなると、さすがに良い返事は得られなかったようで、まあそんなものかなと思っておりました。

それから何年も時が過ぎた2020年、線路のことなど忘れかけた頃、コロナが猛威を振るって世の中は大騒ぎになりました。多くの国で外出禁止となり、それまでの生活から一転してしまいました。私は、本格的にフリーランスとなる前に勤めていた旅行会社を解雇されました。ご存じの通りの状況ですから、旅行なんて行っている場合じゃない、というより渡航自粛(実質禁止に近い)ですから海外旅行なんてできるはずもなく、私の元勤め先も100人以上いた従業員の大半は解雇され、オフィスが閉鎖されました。人生の中で、勤めている会社を解雇されるというのは、なかなか得られない体験だったと思っています。長い間生きていれば、色々なことがあるものです。

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2020年5月を過ぎた頃、他の部署は次々と閉鎖され、同僚たちは解雇されていきました。当時、私はまだ首の皮一枚繋がっていましたが、時間の問題だろうと覚悟していました。この状況下、特に何の資格や特殊技能があるわけでもない、しかもすでに40半ばを過ぎた自分が、新たな就職先を見つけるということも難しく、解雇されたら就職先を見つけるのは厳しいだろうなと覚悟していました。そして7月、8月末日を持って解雇されることが決まりました。

おそらく、これが人生の転機だな…と覚悟を決め、腹をくくって本格的にフリーランスの道を選ぼうと考え、とりあえず件の編集者へ一通のメールを書きました。「以前、お話をしていた線路の件ですが、実は本業(副業?)で解雇されることになりました。少し時間があったので、思い切って以前の線路の写真を整理し始めました。」と記し、返事を待ちました。そしたら本当にわずか数時間後、すぐに返信が届き、しかも大変驚いた様子でした。「先日、別の仕事でとある出版社と打ち合わせをした際、線路とは面白いと相手が興味を示してくれたので、今まさにちょうどご連絡をしようと思っていました。テレパシーかと思いました!」という内容でした。出版社は、子供向け図鑑を発行している技術評論社で、子供向けに線路で図鑑を作れないか、という話です。

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子供向けの図鑑、しかも線路、おまけにヨーロッパ限定…??最初、本気なのか?と思いました。何一つ取っても、図鑑になる要素がないんじゃないかとも思いました。ただ技術評論社の図鑑は、他の老舗図鑑と異なり、珍しいものをクローズアップして突き詰めるという内容が多く、参考で拝見した「雲」という図鑑も、本当に雲だけで完結しており、それ以外に「フルーツ」「こけ」なんていう図鑑もありました。すべてが興味深いものでした。

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これなら、本当にヨーロッパの線路だけで1冊できるかもしれない…そう思えてきました。もっとも、まだ営業会議や上層部の承認といった、数々の難関を突破しなければならない、という課題も残っていました。まず編集部で企画を立ち上げ、それを営業会議で発表し、営業側が販売に問題がないだろうとなったら上層部へエスカレートされ、それを突破すればそこで初めて出版への道が開かれる、ということになるわけです。そう、まだ越えなければならない山がいくつも残っていたのです。

その後、何度かやり取りをしたのち、営業会議を無事に通過して、上層部からの審判を待つ、という段階まで辿り着きました。

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2020年8月21日、会議の結果承認が下り、「美しい世界の線路ヨーロッパ編」の製作が決定したのでした。実に9年目にして、ようやく「線路の本」の実現へ向けて動き出したのでした。

しかし、ここからが本当のスタートで、まず不足する写真を集めることから始めなければなりません。「世界の線路」「ヨーロッパ編」と謳っている以上、可能な限りヨーロッパ中の多くの国の写真を使いたいところです。ところが自分の首が飛ぶほどのコロナ、まだワクチンもない状況で、とても出かけられる様子ではありませんでした。苦渋の決断ではありましたが、なるべく今手持ちの写真でやりくりをしようという決断に至りました。本で使用された写真で、一番チェコが多かったのはそれが理由で、北欧やスペインなどが無視をされていたのも同じ理由です。取材へ行ける場所が限られているから、用意できる写真も限度がある。まさに苦渋の決断でした。

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さらに作業を進めていく中で、全種類の分岐器の写真が集まるかも心配でした。とりあえずどうにかなったのですが、3線軌条とかの珍しい線路を撮影しに行く暇がなく、手持ちの写真でお茶を濁したことは大いに悔やまれました。

線路についてはさておき、コラムで紹介しきれなかった国の鉄道も紹介しようという話になりましたが、これまた訪問していない国が結構ありました。基本的に、EU圏内やEUに深く関わりのある国については可能な限り取り扱おうという姿勢でしたが、意外と行ったことがない国が多く、途方に暮れていました。2020年冬、コロナが最も猛威を振い、多くの国でロックダウンなど厳しい渡航制限が掛けられていた時期です。どう考えても、渡航して撮影することは不可能でした。

複数の線路が並ぶ (14)

そこで、とりあえず私の友人たちへ声を掛けました。中東欧地域や北欧、バルカン半島などは、どうにか助けを借りて写真を入手することができました。ところが、バルト三国だけはどうしても入手ができませんでした。

私はある賭けに出ました。ツイッターで冗談半分に「バルト三国の写真がない!!」と訴えたら、何人かのフォロワーさんが声を掛けてくるのではないか、ということです。そのツイートに反応してくださった方々に速攻でDMをして、写真を貸して頂けないか連絡をさせて頂きました。その皆様に快く協力して頂いたお陰で、どうにか必要とされた国の写真を集めることができました。このご協力なしに、本の完成はあり得ませんでした。

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こうして2021年7月、技術評論社刊「ずかん 美しい世界の線路 ヨーロッパ編」は無事に出版され、店頭に並ぶこととなりました。「著書を出すんだ」と言い続けて10数年、ついに自著を出版することができましたが、これはほんのスタートに過ぎません。

本をお買い上げ頂いた皆様、本の内容は如何だったでしょうか?子供向けの図鑑と称しながら、かなりマニアックだったとの評を頂いておりますが、子供って意外と難しい内容でもさらっと読んでしまうもので、難しい字が読めなくても何度も読んでいるうちに大きくなって理解していく、というものだと思っております。私も4歳の時に買ってもらった鉄道ジャーナルの内容は、今でもよく覚えております(ブリュッセルのプレメトロのことが載っていました)。この本を読んだ子供たちが、線路のことやヨーロッパのことに関心を持てくれたら、著者としてこれほど嬉しいことはありません。

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さて、次はどんなテーマで本を出していこうか。私に休みなどない、というほど、これからも記事や本をたくさん書いていければありがたいです。

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