『誰がために鏡は灯る』
始
「鏡のモヤが取れない、、」
妹が、そう言ったので、私はとっさに鏡を見た。
よく見ると、たしかに鏡に白いのか灰色なのか分からないが、モヤがかかっている。なんだか、胸がホッとした。
「まぁ、時間がたったら、消えるか、、」
妹はそう言って、髪を編むのを途中で諦めた。
私は、鏡に映る自分が、大嫌いだった。顔も気持ち悪いし、笑顔も気持ち悪いし、そもそも、なんだか映ってる全てが、気持ち悪かった。
だから、私は、化粧をしない。もう20歳にもなるし、周りの大学生の友だちはみんな化粧をしてるのに、私は、化粧を、できない、、。
友だちからは、
「絶対、化粧したら可愛くなれるよー!」
とか言われるが、それがどんなに、私の心をカチ割ってきてるのか、わかんないんだろう。
見たくないものを見えなくする、その曇った鏡は、まるで、私の化身のようだった。常にこの世界は、灰色であってほしかった。なぜなら、それが晴れてしまったら、今まで受け入れられなかった全てが、自分に降り注ぐことになるからだ。想像しただけでも恐ろしい。
この世界はクソだって、信じたいし、そうでないと、今まで苦しみを受け入れて生きてきた人生が、まるで否定されるようで、全て壊されるようで、怖くて仕方ないからだ。
そういえば、昨日、
「僕は、あなたの映し鏡みたいだ、、」
と言う友だちがいた。何を言ってるんだろうと思って、キョトンとしていたら、彼はゆっくり悩みを話し始めた。
「僕ね、本当に、いいと思ったものに、いいって言いたいし、素敵だと思ったら素敵だと言いたいし、好きだと思ったら好きって伝えたいんだ、、。でもね、ほとんどの人が、僕が何か言うと、裏に何かあるんじゃないか、とか、本当は思ってないでしょと、言ってくるんだ、。でもね、僕は、僕なんかどうでもよくって、ただ、目の前のものが、どうなのかだけを、真剣に見ているだけなんだ、、。汚れているのは、僕の心なんだろうか、、、。」
と。
私はちょっと腹が立ったので、尋ねた。
「だから、なんだってこと?何が言いたいの?」
彼は、私に言った。
「笑顔も、怒った顔も、フツーの顔も、いつも、可愛くて素敵だ、、僕はずっとそう思ってるよ」
って。
なんでだろう。
胸がホッとするどころか、灰色のモヤの先に、何か小さな灯りがともったような、気持ちになった、、、。
終