Глаза, небо и любовь/目、空、そして愛
ロシア語圏の人と知り合い親しい関係性になっていく過程で、こんな不思議な体験をすることがある。それは、たった今出会ったばかりの人から『心をよまれる』体験だ。
例えばあるご家庭にお邪魔して、その家の奥さんが用意してくれた料理を食べた時。ロシアの味覚に慣れておらず、違和感を感じながら『ありがとう、美味しいです』と言ったものなら、すぐに『あら残念、気に入らなかったのね』と言われてしまう。咄嗟に『そんなことないです!美味しいです!』と言いたいのだが、もっとわざとらしく聞こえてしまうのかと悩み、言葉を返せない・・・。
例えば道を歩いていて、突然見知らぬ男たちに絡まれた時。執拗に話しかけられるも、相手が何を言っているのか分からない。『なんて言えばいいか分からない、やばい、逃げなきゃ』と思ったとき、『お前ら彼女怖がってんじゃん。絡むのやめろよ』と新たに現れた彼らの仲間の一言で解放される・・・。
楽しい場でも、恐怖の場でも、彼らは一言も話さずに心をよむ。言葉を交わさずに、しかも外国人の心をよむ。いったいなぜそんなことができるのだろうと考えてきた末、ロシア語圏の人々は目を見ているのだと分かった。まさに『目は口ほどにものを言う』であるが、私の人生では初めてそれを体験したのがロシアでのことだった。
今回は、ロシア語において『目』や『目線』そして『心』がいかに近い存在なのかを、音楽の歌詞を通してご紹介したい。
LOBODA «Твои глаза»
LOBODAはウクライナ出身の歌手。ロシアのショービジネスで代表的な歌手であった。現在はロシアを離れている。『LOBODAらしさ』をとことん追求した音楽、パフォーマンス、またそれにストイックに取り組む姿などに人々は魅了されている。
Ани Лорак «С первого взгляда»
Ани Лоракもウクライナ出身の歌手。Шоу «ДИВА»は当時、ヨーロッパで最も予算の大きいコンサートだった。彼女はこのコンサートのために多額のローンを取ったと言われている。音、照明、衣装、パフォーマンス、映像、全てがすごいのでお薦めする。『天井から下がっている布に映像が映ってるけど、布の向こう側の観客が見えるって、この技術すごくない?』とロシア人に聞くと、『すべて日本の技術だよ』と答えられた。私はまだまだ日本を知らないようだ。
Люся Чеботина «Солнце Монако»
この曲は2021年から今も続く大ヒット曲である。Люся ЧеботинаはInstagramからショービジネスの世界へ登りつめた新しい世代の歌手。この曲をめぐっては一つの面白い話がある。2020年と2021年はロシアとイタリアの人々の音楽交流の年だった。これについては記事の終わりに書くことにする。
Егор Крид «Голубые глаза»
Егор Кридは、かつてBlack Starという歌手のための芸能事務所に所属し記録的な人気を誇った。その後Black Starを離れ、たしかこの曲は退所後まもなくに発表されたものだったと思う。歌手であり、ラッパーでもある。現在も変わらずショービジネスの世界で存在感をもち音楽活動を続けている。
最後に紹介するのは、ショービジネスとは少し一線を置いて活躍を続けるАлексей Чумаковの音楽だ。
«Небо в твоих глазах»
«Девочка-море»
女性の立場でこれらの曲を聴くと、これほど深い真実の愛に包んでくれる運命の人と出会えたらな・・・と胸が温かくなると思う。Алексей Чумаковはまさにその本物の愛を見つけたことを公言しており、『Небо в твоих глазах』では妻への愛、第一子を迎える幸せが歌われている。このような美しい愛と愛の力を信じる姿を見せられるとき、この世界にはまだきれいな輝きが残っていると、私はなにかの安心感を得る。
さて、いかがだっただろうか。
これがロシア語の隠喩表現だ。本当の心の気持ち、特に愛というテーマはよく、『目』『目線』『空』という言葉を通して表現される。目、空はともに『澄んでいる』。つまり本当の気持ちには『嘘がない』こういった連想があるのだと思う。
少し違う観点から言い換えるなら、相手の目を見るロシア語圏の人々は『本音と建前』をよく理解することができる。日本とロシアの精神性はこういう点では似ているのかもしれない。
『Солнце Монако』について
アメリカの『Late-night talk show』のロシア版である『Вечерный ургант』にて、年末の音楽番組として『Ciao 2020』『Ciao 2021』が放送され、YouTubeでも公開されていた。この番組が素晴らしいのは、歌も出演者名も、会話のやりとりも全てがイタリア語で、逆にロシア語字幕がついていること。
『Солнце Монако』はイタリア語で『Sole a Milano』と生まれ変わり、イタリア人の心を掴んだ。しばらくするとイタリア人歌手による曲のカバーが現れ、その動画にはロシア人がいいね!のコメントを書いた。コロナの自宅隔離を『Ciao』からの曲を聞いて過ごすイタリア人もいたようだ。こういう温かい時代があった。現在『Вечерный ургант』の公式アカウントは消えている。
Люся Чеботина(Lucia Ciabatta) - “Sole a Milano”. CIAO, 2021!/YouTubeチャンネル『 Лучшие телешоу』より
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