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【ベルマーレ】馬入サッカー場 過去の冠水事例一覧と冠水の目安まとめ



はじめに

 湘南ベルマーレが練習拠点とする馬入ふれあい公園サッカー場天然芝グラウンド(以下「馬入」)は、相模川の堤防よりも河川側(高水敷)にある。市街地を守るため、相模川の増水時には冠水するように設計されており、実際に冠水し使用不能となることが度々あった。今後も冠水の心配がない場所へ移転するまでは同様の状況が続くと見込まれる。
 本noteでは、馬入の過去の冠水事例、水位と冠水の目安や使用不能日数の関係、冠水をもたらす台風の特徴などをまとめた。(2025/1/2 初版公開)

まとめ

 先に本記事で述べる馬入冠水についてのまとめを書いておく。

  •  馬入冠水は2024年までの18年間で18事例あった。

  •  水位観測点「馬入橋」水位が2.0mを超えると必ず冠水が発生、1.5~2.0mでは50%の確率で冠水が発生していた。

  •  馬入橋の最高水位が高いほど復旧には時間を要し、最高水位が2.2mを超えると1週間以上する事例があり、2.5mを超えると2週間以上要していた。

  •  18事例中17事例で台風が日本に接近・上陸していた。

  •  「北東に進み愛知県~千葉県に上陸する中心気圧990hPa以下の台風」の場合、馬入が冠水する可能性が高かった。

過去の冠水事例まとめ

 過去の冠水事例の一覧を以下に示す。2006年10月に練習場を馬入へ移転して以降18年間で18事例あった(2025年1月現在)。冠水が発生した年は18年中13年であり、2011年、2013年、2015年は複数回冠水した。18事例中17事例で台風が日本に接近・上陸していた。そのため、冠水発生時期は台風の接近が多い10月に6事例、9月に5事例と多かった。なお、最高水位は国土交通省の水位観測点「馬入橋」のものである。

馬入の冠水事例

水位と冠水の目安

 馬入橋の最高水位と冠水の有無の関係は下表のとおり。

最高水位と冠水の有無の関係

 馬入橋の最高水位が2.0mを超えた場合、全ての事例で冠水していた。
 1.5m~2.0mでは、冠水率は50%であった。1.51mで冠水した事例や、1.81mで冠水しなかった事例があった。冠水する水位を明確に特定できないのは、馬入橋の観測地点が(「馬入橋」とは言っても)馬入から1.5kmほど下流の平塚漁港付近にあることが主因の1つであると考えられる。
 1.5m以下未満では、冠水した事例は一度もない。

最高水位と使用不能日数の関係

 馬入が冠水すると一時的に使用不能となるが、湘南造園(株)のスタッフを中心とした懸命の復旧作業により、迅速に使用が再開できる状況となる。しかし、過去にはヘドロが溜まるなどして使用不能が長期にわたってしまう事例もあった。
 馬入橋の最高水位と使用不能日数をプロットしたものが下図である。

馬入橋最高水位と使用不能日数の関係

 最高水位が高いほど使用不能日数が長くなる傾向にあり、最高水位2.0m未満では0~1日に収まっているものの、2.2mを超えると復旧まで1週間以上かかる事例が出てくる。2.5mを超えると2週間以上要している。

冠水をもたらす台風

 過去の冠水事例では、18事例中17事例で日本に台風が接近・上陸していた。2006~2024年の台風の経路を下図に示す。黒を除くカラフルな線のそれぞれが馬入冠水をもたらした台風、黒線は馬入冠水をもたらさなかった台風である。なお、台風の経路等のデータは気象庁HPより取得したベストトラックデータを用いた。

馬入冠水をもたらした台風の経路

 馬入冠水をもたらした台風は、過半数の10事例を南西から北東へ進んで愛知県~千葉県に上陸する台風が占めた。この経路のうち、特に馬入よりも西側(愛知~神奈川)を台風が通過する場合、接近時に相模川の流域である神奈川県・山梨県は南東~南の風が入り、山にぶつかって流域全体に大雨をもたらし、それが長時間続きやすくなるためと考えられる。馬入よりも東側(神奈川~千葉)を通過する場合は上記の風向きとは異なる場合が多いが、中心に近いため降水量が多くなりやすく、冠水しやすいのであろう。
 しかし、台風がこの経路を通ると必ず馬入が冠水するわけではない。下図は、北緯35.3度(馬入の緯度)における台風の中心位置の経度(東西方向の位置)と、その直前の中心気圧を示したものである。中心気圧が990hPaより高い(中心気圧が低いほど台風が強いと言えるので、比較的弱い台風。正確には、台風の強さは中心気圧ではなく風の強さで決まる。)台風の場合は冠水していない。
 したがって、馬入冠水をもたらす可能性が高い台風は「北東へ進み愛知県~千葉県を通過する台風で、990hPaより中心気圧が低い場合」と言える。

35.3N通過時の台風の中心位置および中心気圧と馬入冠水の有無

 そのほかに、千葉県の東海上を北東へ進む台風、本州沿岸を東に進んだ台風があったほか、台風は関東から離れて通過したものの前線による降雨があった場合や、大型で勢力が強く広い範囲で大雨となった場合などであったが、これらの経路では馬入冠水をもたらさない台風が多い。

その他の関連事項①潮汐との関係

 馬入は河口から約2.5kmの位置にあり、付近の水位は潮汐(海水面の上下動)の影響を受けている。一般に、河口付近の川の水位は、水位=潮汐による変動+出水(大雨により増えた川の水)による水位上昇 となるため、出水による水位上昇のピークと満潮・干潮のタイミングによって、ピーク水位は大きく変わる。下図がそれを模式図に示したものである。潮汐や出水はその時によって異なるためあくまで単純化した例であるが、出水による水位上昇ピークが満潮と重なった場合の最高水位は2.0m超となる一方、干潮と重なった場合は1.5m程度と、同じ出水であってもタイミングが数時間異なるだけで最高水位が0.5m以上変わってしまう。馬入の冠水も、数時間ずれていればこの潮汐の効果によって冠水の有無が変わったであろうという例がしばしばある。

出水による水位上昇ピークと満潮・干潮タイミング(模式図)

その他の関連事項②平塚に大雨→馬入が危ない?

 平塚で急な大雨となった場合に、馬入を心配する声が上がることが度々ある。しかし、下図の黄枠で示される相模川流域図のとおり、平塚市のうち相模川に流れるのは1割程度のエリアに過ぎず、残りの9割程度のエリアは金目川水系に流れる。そのため、平塚での大雨が直接馬入の冠水に繋がるとは言えない。

相模川流域図(国土交通省HPより)

 相模川の流域は県央北部エリアと山梨県東部に広がっており、これらの流域で広く大雨が長く続いた場合、降った雨が相模川に流下して相模川の水位が上昇し、馬入の冠水を発生させる。これまで述べた通り、馬入が冠水するのはほとんどが台風によるものであり、これらの台風は相模川の流域に広く長く大雨をもたらしたものである。当然ながらこの場合は平塚も大雨になっていることが多いため、間接的には、「平塚で大雨→馬入が危ない」とも言える。
 一方で、夏の「大気の状態が不安定」になることによる急な豪雨は局所的であることが多く、流域全体の総降水量としてはそこまで多くはならず、馬入の冠水もこれによって発生したことはない。インターネットなどで雨雲の分布を見たときに強い雨の領域がまばらに分布している場合は、大雨となっていても馬入が冠水する心配はまずない。

自宅で馬入監視セット

 台風の経路や勢力から馬入冠水の危険度はある程度分かるが、最高水位による冠水の有無の不確実性や潮汐とのタイミングなどにより、実際に冠水したかどうかは現場を見ないと分からないところである。
 増水時に川の様子を見に行くことは危険であるため、自宅で確認するための参考リンクを掲載しておく(下線部をクリックするとリンク先へ飛ぶ)。当然ながら、馬入の様子よりも肝心なのは自宅の状況であり、自治体の避難情報や防災気象情報、ハザードマップをもとに、適切な行動を取ることが重要である。
馬入橋 ライブカメラ(平塚市 ひらつか防災気象ウェブ)
 馬入から約300m下流のカメラ映像。至近距離にあるため、グラウンドの冠水状況とほぼイコールの状況が分かる。
馬入橋 水位(国土交通省 川の防災情報)
 水位データ。前述のとおり1.5mを超えると冠水可能性あり。河川横断図があるがこれは参考。
指定河川洪水予報 (気象庁HP)
 気象庁と国土交通省の共同で発表される、相模川の水位の予報。4段階あり、最も危険度が低いものが氾濫注意情報であるが、氾濫注意情報が出た場合でも既に馬入は冠水していることが多い。そもそもこの情報が発表されていたら、グラウンドを心配する前に相模川の氾濫に警戒すべきである。
流域雨量指数の予測値(気象庁HP)
 気象庁による、洪水危険度の高まりを指標化したもの。6時間先までの予測値を見ることができる。ダムや潮位の影響が考慮されていないことに注意。2024年8月の冠水事例では、相模川が45程度になった頃に冠水したと思われる(それ以前の冠水事例では調査していない)。

まとめ(再掲)

 以上、馬入冠水の過去事例や目安、冠水をもたらす台風の特徴を述べた。まとめは以下のとおり。

  • 馬入冠水は2024年までの18年間で18事例あった。

  • 水位観測点「馬入橋」水位が2.0mを超えると必ず冠水が発生、1.5~2.0mでは50%の確率で冠水が発生していた。

  • 馬入橋の最高水位が高いほど復旧には時間を要し、最高水位が2.2mを超えると1週間以上かかる事例があり、2.5mを超えると2週間以上要していた。

  • 18事例中17事例で台風が日本に接近・上陸していた。

  • 「北東に進み愛知県~千葉県に上陸する中心気圧990hPa以下の台風」の場合、馬入が冠水する可能性が高かった。

更新履歴

本noteは馬入冠水事例の蓄積により更新していく予定である。更新履歴は以下のとおり。
・2025/1/2 初版公開

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