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ご近所SNS最大手Nextdoorの黒字化状況の分析

1. 直近の財務状況

最新の業績ハイライト:Nextdoorは依然として赤字ではあるものの、収益成長とコスト改善により損失幅が縮小しています。特に2024年に入り業績は改善傾向にあります。

こうした状況から、Nextdoorの売上成長率は直近で二桁台に回復しつつあり、コスト削減の効果もあって営業損失が着実に圧縮されています。特に2024年後半には黒字化が視野に入る水準まで改善している点が財務状況の重要なポイントです。

2. 黒字化の要因

Nextdoorが黒字化(収支トントンないし黒字転換)に向けて取り組んでいる要因を、収益面とコスト面、ユーザー動向の観点から整理します。

収益モデルによる増収策

  • 広告収入が主力:Nextdoorの収益源は主にプラットフォーム上で展開される広告です。2016年以降、ベンチャー資金に頼らず地元企業などが出稿する広告収入で収益を上げるモデルに転換しました (How does Nextdoor make money? Neighbors)。具体的にはフィード上のスポンサード投稿や「ローカルのお得情報(Local Deals)」といった形で企業や店舗から広告料を得ています (Nextdoor Business Model - How Does Nextdoor Make Money?)。

  • 高精度なターゲティング:Nextdoorは居住地域に根差したユーザーコミュニティを活用し、地理的に絞り込んだターゲティング広告を提供できる点が特徴です (What is Nextdoor's business model? - Vizologi)。実名・住所確認済みのユーザー基盤によりエンゲージメントが高く地元に密着したオーディエンスを広告主に提供できるため、広告効果が高く単価向上にも寄与しています (What is Nextdoor's business model? - Vizologi)。実際、Nextdoorは自社広告プラットフォームを強化して広告主の使い勝手や効果を高めた結果、広告収入の伸びに貢献したとしています (Nextdoor Reports Third Quarter 2024 Results | KIND Stock News)。

  • セルフサービス広告の拡大:大手だけでなく中小の地元ビジネスも取り込むため、セルフサービス型の広告ツールを充実させています。その成果として2024年Q2には収益の49%がセルフサービス広告経由となり、前年(39%)から大きく比率が上昇しました ()。これにより営業担当を介さず広告を出稿できる仕組みが普及し、長尾の広告主層からの収益拡大とコスト効率向上に繋がっています。

コスト削減策による効率化

  • 人員削減と経費見直し:Nextdoorは2023年後半から大規模なコスト削減策を実施しました。2023年末に全従業員の25%(約200名)をレイオフし、人件費ベースで年間6,000万ドル規模の経費削減を図る計画です (Nextdoor plans 25% staff reduction, as CFO resigns | CFO Dive)。このリストラにより、2023年Q4に1,100万ドル、2024年Q2に2,600万ドルの一時費用(主に解雇補償金)が発生しましたが ()、2024年以降の固定費圧縮で損益改善を見込んでいます。

  • 黒字化へのロードマップ:サラ・フライヤーCEO(当時)は「今回の人員削減で2025年末までに四半期ベースでキャッシュフロー黒字化を達成できる見通し」と述べており、長期的な収支改善への布石としています (Nextdoor plans 25% staff reduction, as CFO resigns | CFO Dive)。実際、リストラ後は費用構造がスリム化され、2024年Q2には前年同期比で調整後EBITDAマージンが23ポイントも改善するなど収支の効率が向上しました ()。また、従業員一人あたりの売上高が前年より50%以上伸びるなど (Nextdoor Investor Presentation - August 2024 - FINAL)、少数精鋭化による生産性向上も見られます。

  • 技術投資による効率向上:コスト削減と並行して、広告技術やコンテンツ配信アルゴリズムへの投資で効率的な成長を目指しています。例えば、Nextdoor Adsプラットフォームの改善により広告のパフォーマンスを向上させ、人力に頼らない最適化を進めています (Nextdoor Reports Third Quarter 2024 Results | KIND Stock News)。また、通知システムや不適切投稿のモデレーションに機械学習を活用することで、運営コストの削減とユーザー体験向上を両立させています(社内資料)。

ユーザー数の推移とエンゲージメント向上

  • ユーザー基盤の成長:Nextdoorのユーザー数は緩やかながら増加しています。2023年末時点で累計認証ユーザー数(Verified Neighbors)は8,800万を超え、前年から記録的な増加を遂げました (Nextdoor Reports Fourth Quarter and Full Year 2023 Results | Nextdoor)。また週間アクティブユーザー(WAU)は4,180万(2023年Q4)で前年同期比+5%、2024年Q3には4,590万とさらに+13%の成長を見せています (Nextdoor Reports Fourth Quarter and Full Year 2023 Results | Nextdoor) (Nextdoor Reports Third Quarter 2024 Results | KIND Stock News)。このようにユーザー規模の拡大が広告インプレッション増加による収益拡大を下支えしています。

  • オーガニック成長の重視:ユーザー獲得においては、既存ユーザーからの招待や口コミなどオーガニック手法が中心です。Nextdoorは「新規ユーザー流入のほぼ全てがオーガニック」と述べており (Nextdoor Investor Presentation - August 2024 - FINAL)、大規模な有料マーケティングに頼らずにユーザー数を伸ばしてきました。近所同士の繋がりという性質上、利用者による自然な招待拡散が成長ドライバーとなっており、これは顧客獲得コストを低く抑えることにも貢献しています (Nextdoor Investor Presentation - August 2024 - FINAL) (Nextdoor Investor Presentation - August 2024 - FINAL)。

  • エンゲージメント向上施策:既存ユーザーの定着と活性化も黒字化の鍵です。Nextdoorはローカルコンテンツの充実通知機能の改善によってユーザーエンゲージメントを高める施策を取っています。例えば、投稿フィードのアルゴリズムを改良し「ユーザーにとって関連性の高い地元情報」が目に留まりやすくした結果、1セッションあたりの閲覧コンテンツ量(セッション深度)が大幅に増加し過去最高を記録しています ()。またプッシュ通知の質を改善して重要な近隣情報をタイムリーに届けることで、休眠ユーザーの再活性化にも成功しつつあります ()。これらの取り組みがユーザー当たり利用時間や頻度を向上させ、広告在庫拡大と利用者満足度向上による継続率アップに寄与しています。

以上より、Nextdoorの黒字化に向けた要因としては、収益面では広告モデルの強化(特に地元企業向けのターゲティング広告とセルフサービス拡大)、コスト面では人員削減を中心とした徹底した効率化、そしてユーザー面ではオーガニック成長戦略とプロダクト改善によるエンゲージメント向上が挙げられます。これらが相まって収支バランスが着実に改善している状況です。

3. 成長戦略

Nextdoorは持続的な成長と将来的な黒字化を実現するために、既存市場での深耕と新規市場への拡大の双方で戦略を展開しています。また提携や買収も戦略的に活用しています。

既存市場での成長戦略

  • 新機能の導入:現行のサービス内でユーザーの利用価値を高める新機能を継続的に投入しています。例えばハロウィン時期には近所でお菓子を配る家を地図上で共有する「Treat Map(お菓子マップ)」機能を提供し季節イベントでの活発な利用を促しました。また天気予報会社と提携して地域別の気象警報を配信する機能を導入するなど、日常生活に役立つ情報を提供してユーザーの定着率向上を図っています。さらに、近隣おすすめの店やサービスを共有できる「ローカル推奨」、不用品の売買・無料譲渡ができる「For Sale & Free」カテゴリの整備など、地域密着型のユースケース拡大にも注力しています。

  • コミュニティの活性化:既存エリアでの成長には、既にサービス開始済みの地域で参加世帯数を増やし利用頻度を上げることが重視されています。Nextdoorは自治体や公共機関との連携を強化し、治安情報や災害時連絡など公共性の高い情報を流す場としての存在感を高めています。また、趣味・関心ごとに集まれる「グループ機能」や、リアルの近所付き合いを促す「Neighbor Month(ご近所月間)」キャンペーン (Nextdoor Partnership News Archives | Nextdoor)などを通じて、ユーザー同士が積極的に交流し地域コミュニティが盛り上がる施策を実施しています。こうしたエンゲージメント強化策により、既存市場でのユーザーあたり利用時間増加や口コミによる新規参加促進が期待できます。

新規市場への参入

  • 国際展開:Nextdoorは米国発のサービスですが、2016年以降グローバル展開を加速してきました。現在は11か国(米国、英国、ドイツ、フランス、オランダ、イタリア、スペイン、オーストラリア、デンマーク、スウェーデン、カナダ)でサービスを提供しています (Nextdoor - Wikipedia) (Nextdoor - Wikipedia)。2019年には北欧(スウェーデン、デンマーク)へ進出し、これ以前から展開していた欧米主要国に加えて対応国を拡大しました (Nextdoor secures $123 million to continue rapid growth and international expansion - About Nextdoor)。各国で「隣人同士の助け合い」という普遍的ニーズを捉え、地域コミュニティプラットフォームとしてユーザー基盤を築いています。世界全体で33万5千以上の近隣コミュニティ(neighborhoods)を網羅しており(2024年中頃時点) (Nextdoor Investor Presentation - August 2024 - FINAL)、さらなる国・地域への進出も計画中です (Document - SEC.gov)。今後は未開拓のアジア・中南米市場などへの参入余地もあり、国際展開によるユーザー増加が成長ドライバーとなります。

  • 新たなターゲット層:サービス浸透が進んだ国でも、地域や属性によっては未開拓のユーザー層が残っています。Nextdoorは特に都市部の若年層や賃貸居住者など、伝統的にご近所ネットワークが弱い層の取り込みに注力しています。招待機能のオンライン化やUIの改善(若者にも馴染みやすいデザインへの変更等)を進め、幅広い世代が利用するプラットフォームへの進化を目指しています。またこれまで比較的参加率の低かった大都市の集合住宅コミュニティにも働きかけ、管理組合との連携やビル単位のサブコミュニティ機能などで都市部での利用拡大を図っています。

提携やM&Aによる成長戦略

  • 戦略的パートナーシップ:大手企業や団体との提携により、ユーザー体験向上と認知拡大を進めています。例えばMicrosoftとのAPI提携では、同社のサービス上にNextdoorのハイパーローカルなコンテンツを配信し、Nextdoorプラットフォーム外でも近隣情報に触れられるようにしました (Nextdoor Partnership News Archives | Nextdoor)。これによりNextdoorの情報流通量を増やし新規ユーザー獲得につなげています。またOracle Advertisingとの協業では広告データの連携を行い、広告主に対する計測・ターゲティング精度向上を図っています。さらに通信大手のVerizonとはコミュニティイベント(Neighbor Month)や調査レポートで協働し (Nextdoor Partnership News Archives | Nextdoor)、ブランド力向上と利用促進を狙ったマーケティング施策を展開しています。このように多方面との提携を通じてサービス価値の強化とユーザー拡大を推進しています。

  • M&Aによる市場参入:必要に応じて買収も活用しています。代表的なのは2017年の英国版Nextdoorとも言える「Streetlife」の買収です。Nextdoorはイギリスのご近所SNSであったStreetlife社の資産を数百万ポンド規模で取得し、自社サービスと統合することで英国市場へのスムーズな進出を実現しました (Nextdoor is poised to acquire the assets of Streetlife, the UK-based ...)。この買収により約150万人の既存ユーザーをNextdoorに取り込むことに成功し、欧州展開の足がかりとしています。その後も各国で現地の類似サービス動向を注視しており、必要なら競合サービスの買収や統合によってユーザー基盤を一気に拡大する戦略を取れる体制です。また、2021年にはSPAC(特別買収目的会社)との合併上場によって約6億ドルの資金調達を行い (Nextdoor, the neighborhood network, to become a publicly-traded ...)、これを原資にプロダクト開発やグロース施策を加速させました。資本市場から得た潤沢な資金を成長投資と戦略的M&Aの実行力に繋げている点もNextdoorの成長戦略の一環と言えます。

以上のように、Nextdoorはサービス内での新機能投入とユーザー活性化地理的・層的なサービス提供範囲の拡大、そして外部パートナーとの協働や資本戦略を組み合わせることで、中長期的な成長と黒字化実現を目指しています。

4. 競合との比較

Nextdoorのビジネスを取り巻く競合環境について、主要な競合サービスとの財務状況の比較収益モデルや成長戦略の違い、そしてNextdoor固有の競争優位性の観点から分析します。

主要競合との財務状況の比較

Nextdoorに類似した「地域SNS」としては、Meta社のFacebookグループ(Facebook内のご近所コミュニティ機能)や、Amazon傘下のRing社のNeighborsアプリ(近隣の防犯情報共有サービス)などがあります。ただし、これら競合の多くは大規模プラットフォームの一機能であったり、事業規模が小さく非上場であったりするため、独立した財務情報の比較が難しい状況です。そこで、代表例として親会社であるMeta(Facebook)とNextdoorの規模感を対比します。

  • ユーザー規模:Nextdoorの週間アクティブユーザー数が約4,590万人(2024年時点)であるのに対し (Nextdoor Reports Third Quarter 2024 Results | KIND Stock News)、Facebookは月間アクティブユーザー数が約30億人に達します(2023年時点で30.7億人) (Facebook Users Statistics (2025) — Worldwide Data - DemandSage)。桁違いのユーザー基盤を持つFacebookに比べ、Nextdoorのユーザー数規模は1~2桁以上小さいのが現状です。ただしNextdoorのユーザーは居住地域ごとに細分化されており、335,000以上の近隣コミュニティを形成している点に特徴があります (Nextdoor Investor Presentation - August 2024 - FINAL)。

  • 収益規模:Nextdoorの年間売上は2億ドル規模(2023年で約2.18億ドル) (Nextdoor Reports Fourth Quarter and Full Year 2023 Results | Nextdoor)に留まります。一方、Facebookを運営するMeta社の売上高は桁違いで、2023年には1,349億ドル、2022年でも1,166億ドルに上りました (Meta Platforms (Facebook) (META) - Revenue)。したがって収益規模はMetaの100分の1以下といえます。また収益源も、Nextdoorが地域広告に特化しているのに対し、Metaはグローバルな広告事業全般を収益柱としており多角度からマネタイズしています。

  • 収支状況:収益規模の差はそのまま収支にも表れており、Nextdoorが恒常的な赤字から抜け出せていないのに対し、Metaは巨額の利益を計上しています。2023年のNextdoor純損失が約1.48億ドルだったのに対し (Nextdoor Reports Fourth Quarter and Full Year 2023 Results | Nextdoor)、同年のMetaの純利益は約390億ドル(2022年でも232億ドルの純利益)にのぼります (Meta Platforms Inc. Annual Income Statement - WSJ)。つまり競合のFacebook(Meta)は莫大な黒字を生み出しており、Nextdoorとは収益構造の成熟度が大きく異なります。ただし、Nextdoorは潤沢な手元資金により当面の運転資金には問題なく、Metaもまた近年はリストラやコスト削減を行うなど収益改善に努めている点では共通しています。

以下にNextdoorとFacebook(Meta)の主要指標を比較した表を示します:

指標 Nextdoor Facebook (Meta) ユーザー規模 約4,590万WAU(2024年Q3) ([Nextdoor Reports Third Quarter 2024 Results KIND Stock News](https://www.stocktitan.net/news/KIND/nextdoor-reports-third-quarter-2024-zqatlrpe4evi.html#:~:text=Nextdoor%20,through%20its%20Nextdoor%20Ads%20Platform))※累計登録ユーザー数:約8,800万 ([Nextdoor Reports Fourth Quarter and Full Year 2023 Results サービス地域 11か国(北米・欧州豪州) (Nextdoor - Wikipedia)33万以上の近隣コミュニティ (Nextdoor Investor Presentation - August 2024 - FINAL) 全世界(ほぼ全ての国) 2023年売上高 2.183億ドル ([Nextdoor Reports Fourth Quarter and Full Year 2023 Results Nextdoor](https://about.nextdoor.com/financial-news/nextdoor-reports-fourth-quarter-and-full-year-2023-results/#:~:text=,million%20as%20of%20December%C2%A031%2C%202023)) 2023年純利益 -1.478億ドル(赤字) ([Nextdoor Reports Fourth Quarter and Full Year 2023 Results Nextdoor](https://about.nextdoor.com/financial-news/nextdoor-reports-fourth-quarter-and-full-year-2023-results/#:~:text=,million%20as%20of%20December%C2%A031%2C%202023)) 収益モデル 地域密着型のオンライン広告(利用者課金なし) (How does Nextdoor make money? Neighbors) グローバルなオンライン広告+その他事業(SNS利用は基本無料) 成長率(収益) +3%(2023年) ([Nextdoor Reports Fourth Quarter and Full Year 2023 Results Nextdoor](https://about.nextdoor.com/financial-news/nextdoor-reports-fourth-quarter-and-full-year-2023-results/#:~:text=,million%20as%20of%20December%C2%A031%2C%202023))※2024年Q3は+17% ([Nextdoor Reports Third Quarter 2024 Results 従業員数 約594人(2023年) (Nextdoor - Wikipedia) 約86,482人(2023年末)※参考

※Facebookのユーザー数・財務数値はMeta全社のもの。Nextdoorは非GAAP指標のAdjusted EBITDAベースでは黒字化に近づいています (Nextdoor Reports Third Quarter 2024 Results | KIND Stock News)が、GAAPベースでは赤字が続いています。

収益モデル・成長戦略の違い

Nextdoorと主要競争相手の収益モデルや成長戦略には以下のような違いがあります。

  • 収益モデルの違い:Nextdoorは上述の通り地域広告収入に特化したモデルです。利用者からの課金はなく、地元企業・公共機関等からの広告費が主な収入源です (How does Nextdoor make money? Neighbors)。一方、Facebookは世界中のあらゆる広告主から幅広く広告収入を得る体制で、広告ターゲティングも個人の興味関心や行動履歴データに基づきグローバル規模で展開しています。またFacebookはマーケットプレイスや決済、メタバース事業など多角的なマネタイズも模索しており、収益源の裾野が広い点が異なります。Nextdoorにはサブスクリプションサービス等は現在なく、収益モデルのシンプルさゆえにまずは広告事業を黒字化軌道に乗せることが急務となっています。

  • 成長アプローチの違い:Facebookは既にグローバルで膨大なユーザー基盤を持つため、近年は利用時間の維持や新興競合(TikTokなど)への対抗が課題となっています。一方Nextdoorは、まだ未参入の地域やユーザー層が残されており、市場開拓余地が大きい成長途上フェーズです。そのためNextdoorは新規国への展開や未参加世帯へのリーチ拡大など、ユーザー数そのものの増加による成長にフォーカスしています。Facebookもかつてはローカル機能「Neighborhoods(ご近所コミュニティ)」を試験提供するなどNextdoorの領域に参入を試みましたが、この機能は2022年にクローズされました (Meta Announces the Retirement of its 'Neighborhoods' Local ...)。これはFacebook本体の中にローカル専用機能を設けてもユーザー習慣を大きく変えるには至らなかったためと考えられます。結果として、Facebookは既存のグループ機能や地域広告ターゲティングにローカル需要を取り込む戦略にとどめ、Nextdoorのように専業で地域コミュニティ構築を進める路線はとっていません。

  • プロダクト戦略の違い:Nextdoorは「実名・住所確認」「近隣住民限定」という設計により、安全・安心で地域に根差したクローズドな空間を提供しています。そのため、近所ならではの助け合いや口コミ情報が集まりやすく、ユーザーのエンゲージメントも地域に限定されつつ深いのが特徴です (What is Nextdoor's business model? - Vizologi)。対してFacebookグループは誰でも参加・作成でき、多種多様な話題を扱うオープンな場です。地域の話題も扱えますが、必ずしも住所確認はなく匿名性もあるため、Nextdoorほどの地域情報の信頼性や親密度は担保されにくい傾向があります。この違いから、広告主目線ではNextdoorの方が「実在する地域コミュニティへのリーチ」というユニークな価値を提供できています。一方Facebookは規模の大きさと精緻な個人データによる広告配信が強みです。つまりNextdoorは垂直特化型(ローカルコミュニティ特化)、Facebookは汎用プラットフォーム型といった棲み分けになっています。

Nextdoorの競争優位性の分析

以上を踏まえ、Nextdoorが競合他社に対して持つ競争上の強みおよび課題を整理します。

  • 競争優位性:Nextdoor最大の強みは、そのハイパーローカルなユーザーコミュニティそのものです。他の大手SNSが真似しようとしても、実名・住所ベースで近隣住民だけを集めたネットワークとそこで培われる信頼関係は、一朝一夕には構築できません。実際、FacebookがNeighborhoodsを取り組んだものの撤退したことからも、Nextdoorのコミュニティづくりの先行者優位がうかがえます (Meta Announces the Retirement of its 'Neighborhoods' Local ...)。また各地域で公的機関や地元企業とも連携し「インフラ的存在」になりつつある点も参入障壁となっています。さらに、Nextdoorはユーザーのロイヤリティが高くエンゲージメントが深いため (What is Nextdoor's business model? - Vizologi)、同じ広告でも高い反応率が得られる傾向があります。この質の高いローカル広告在庫は競合にはない差別化ポイントです。加えて、競合の多くがグローバル巨人であるのに対し、Nextdoorはサービス領域が限定されているぶん機能改善や方針転換のスピードが速いことも強みです。ユーザーの声を反映した細やかなアップデート(例:過度な犯罪投稿への対策や、親切な投稿を促進する「Kindness Reminder」機能等)により、コミュニティ品質を維持向上できています。

  • 課題と対応:もっとも、Nextdoorは規模の小ささゆえの課題も抱えます。ユーザー数が限られるため広告主にとってリーチできる潜在顧客が少なく、Facebookなどに比べ広告予算配分で不利になる可能性があります。この点を克服するには、さらにユーザー基盤を拡大するとともに、広告商品の効果測定やROIを明確に示して広告主の継続投資を促す必要があります。実際にNextdoorはOracleとの提携で広告計測を高度化するなど、広告主向けの価値提案を強めています。また、地元密着ゆえに利用頻度が季節や地域イベントに左右されやすい面もあります(例えばホリデーシーズン前後で利用が増減するなど)。これに対し、天気情報や防犯情報など日常的なユースケースを増やすことで年間を通じた利用を定着させようとしています。

  • 競合状況:ローカルSNS領域では、各国でNextdoor類似のサービスが細々と存在するものの、その多くは規模が小さく資金力でも劣ります。例えばドイツの「Nebenan.de」は約1.6百万ユーザー・8千コミュニティ程度で (Burda takes over Berlin-based Good Hood, the company behind ...)、Nextdoor(全世界で数千万ユーザー・数十万コミュニティ)とは大きな開きがあります。結果として有力な直接競合は限定的であり、むしろFacebookや地域掲示板(例:Craigslistやローカルフォーラム)など代替手段との間接競合が中心です。Nextdoorは先行者としてマーケットリーダーのポジションにあり、このポジションを維持できればネットワーク効果により他サービスとの差は今後も広がると予想されます。

総じて、Nextdoorはニッチではあるが独自性の高い市場を開拓し、その分野での優位性を築いています。巨人Facebookですら撤退した領域を深耕している点は評価できますが、黒字化にはさらなるユーザー規模拡大と収益化効率の向上が不可欠です。幸い、コスト削減など内部改革で損失は縮小傾向にあり (Nextdoor Reports Third Quarter 2024 Results | KIND Stock News)、サービス面でも地道な改良を続けています。競合他社との差別化要因を伸ばしつつ、規模の経済を追求していくことがNextdoor黒字化への道筋と言えるでしょう。


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