
Uber、Lyft、Instacartの広告事業成長と収益・利益への影響
過去3年間の広告事業の成長率
Uber・Lyft・Instacart各社とも近年、プラットフォーム上の広告事業を新たな収益源として急成長させています。
Uber: 2021年に本格的に広告事業を開始し、2021年Q4時点で年率2億2500万ドル超の規模に達しました ( Uber Technologies, Inc. - Uber Announces Results for Fourth Quarter and Full Year 2021 )。その後、2022年末には広告収入の年換算ランレートが5億ドルを突破 ( Uber Technologies, Inc. - Uber Announces Results for Fourth Quarter and Full Year 2022 )し、1年間で倍以上に拡大。さらに2023年末には約9億ドルのランレートに到達しており (Q4 2023 Prepared Remarks)、過去3年で急成長を遂げています。もっとも、Uber全体の年間売上(2022年は約320億ドル)に占める広告の比率は数%程度とまだ小さいものの (Instacart IPO breakdown: On the grocery market, ads, memberships, profitability and valuation | Wing Venture Capital)、成長率は非常に高い状況です。
Lyft: Lyftが広告事業(Lyft Media)を立ち上げたのは2022年からで、まだ歴史が浅いです。規模は小さいものの成長率は顕著で、2024年1~3月期の広告収入は前年同期比で250%増と大幅拡大しました (Lyft forecasts 15% annual growth in gross bookings through 2027, shares jump | Reuters)。ただし2024年通年でも約5000万ドルの売上規模にとどまる見通しで (Lyft forecasts 15% annual growth in gross bookings through 2027, shares jump | Reuters)、2023年の総収入44億ドルに対する割合は1%強と限定的です。
Instacart: Instacartはプラットフォーム上でのリテール広告事業を2019年頃から展開しており、同業他社より一足先に収益化を進めています。2021年の広告収入は約5億7200万ドル、2022年には7億4000万ドルと29%増加し (Instacart IPO breakdown: On the grocery market, ads, memberships, profitability and valuation | Wing Venture Capital)、2020年からの3年間で倍以上に拡大しました。2022年には広告が総収入の29%を占めるまでになっており (Instacart IPO breakdown: On the grocery market, ads, memberships, profitability and valuation | Wing Venture Capital)、5,700以上のブランドがInstacart上で広告を出稿しています。このようにInstacartはコア事業と並ぶ収益柱として広告が定着しています。
利益への影響
広告事業は各社とも利益率が高く、企業全体の収益構造・収益性に寄与し始めています。
Uber: 広告は既存アプリ上で展開できるため追加コストが小さく高マージンです。Uber経営陣も「広告事業は利益を伴いながらスケールしている」と述べており (Q4 2023 Prepared Remarks)、実際にUber Eatsのデリバリー部門の利益改善に広告収入増加が寄与しています ( Uber Technologies, Inc. - Uber Announces Results for Second Quarter 2023 )。広告が本格化したことで2022年Q4の調整後EBITDAマージンは前年0.3%から2.2%に上昇し、2023年もさらに改善しています ( Uber Technologies, Inc. - Uber Announces Results for Fourth Quarter and Full Year 2022 )(※広告以外の要因も含む)。
Lyft: Lyftの場合、現時点で広告事業の絶対額が小さいため利益への直接貢献は限定的ですが、将来的な収益多様化による利益押し上げを見込んでいます。Lyftは2027年までに広告による総取扱高を8倍の4億ドル規模に拡大し (Lyft forecasts 15% annual growth in gross bookings through 2027, shares jump | Reuters)、調整後利益率を約4%まで高める計画です (Lyft Targets Major Growth In Gross Bookings And Ad Revenue - Finimize)。これはライドシェア事業単独では低収益な構造を、広告の高マージン収入で補完しようとする戦略です。
Instacart: Instacartでは広告事業が会社の利益の大部分を占めている点が特筆されます。広告収入は「極めて高い利益率」を生み (Instacart IPO breakdown: On the grocery market, ads, memberships, profitability and valuation | Wing Venture Capital)、2022年における営業利益6200万ドル(4%マージン)のほぼ全てが広告事業からの利益とみられます (Instacart IPO breakdown: On the grocery market, ads, memberships, profitability and valuation | Wing Venture Capital)。実際、「コアの宅配事業が収支トントンで、広告事業の利益がそのまま会社全体の利益になる」との分析もあります (Instacart IPO breakdown: On the grocery market, ads, memberships, profitability and valuation | Wing Venture Capital)。このように広告の高収益性がInstacart全体の黒字化を支えています。
競合比較(市場シェア・競争環境)
オンデマンドサービス各社の広告ビジネスを取り巻く競争環境を見ると、小売・配車プラットフォーム各社がこぞって広告収入の取り込みを狙っている状況です。
DoorDash: フードデリバリー最大手のDoorDashも広告事業に注力しており、レストランやCPGメーカー向けのセルフサービス広告プラットフォームを拡充しています。DoorDashは広告収入を正式に開示していませんが、2021年7月~2022年6月の1年間で広告やプロモーションを通じて加盟店にもたらした売上が30億ドルに達したと報告しています (Uber, DoorDash announce ad business expansions )。これは広告経由の注文規模を示す数字ですが、DoorDashの2022年総取扱高(GOV)約$53B規模から推測すると、DoorDashの広告収入も数億ドル規模に成長している可能性があります。ただし総収入に占める割合はInstacartほど高くはなく、今後の伸びしろが大きい領域です (Instacart IPO breakdown: On the grocery market, ads, memberships, profitability and valuation | Wing Venture Capital)。
Amazon: 広義の競合として、EC大手Amazonの広告事業は圧倒的な規模です。Amazonの広告売上は2022年に約377億ドル、2023年には470億ドル近くに達し、前年比20%以上の成長を続けています (Amazon's ad revenue up 24% to $47B; AI emerges as a key player)。これはUberやInstacartとは桁違いの規模で、広告市場における存在感が非常に大きいです。UberやInstacartといったオンデマンド企業の広告事業は、この小売メディア大手(AmazonやWalmart等)と広告主の予算を奪い合う競争にも直面しています (Uber, DoorDash announce ad business expansions )。もっとも、オンデマンド各社は自社サービス内で独自の広告枠を提供できる点で差別化しており、特にUberは月間アクティブ利用者1.22億人という規模(Lyftは2,000万人) (Uber, DoorDash announce ad business expansions )を活かして広告ネットワークの競争力を高めています。
広告収入比率の違い: Instacartは総収入に占める広告比率が約30%と突出して高く (Instacart IPO breakdown: On the grocery market, ads, memberships, profitability and valuation | Wing Venture Capital)、広告ビジネスへの依存度では競合をリードしています。UberやDoorDashの広告比率は一桁台(数%)とみられ (Instacart IPO breakdown: On the grocery market, ads, memberships, profitability and valuation | Wing Venture Capital)、両社とも今後この比率を引き上げていく戦略です。一方、Lyftの広告事業規模はまだ小さいものの、Uberに次ぐ北米ライドシェア2位の地位を活かして成長を図っており、特に旅行・ホスピタリティ業界の広告主がLyftのプラットフォームを利用し始めています (Lyft forecasts 15% annual growth in gross bookings through 2027, shares jump | Reuters)。総じて、プラットフォーム内の豊富なファーストパーティデータを武器に、各社が広告主のマーケティング予算を巡って競合している状況です。
広告フォーマットとターゲティング手法
各社とも、自社サービスの特性を活かした広告フォーマットを開発し、独自のデータを用いて高度なターゲティングを行っています。
Uber: Uberはモビリティ(配車)とデリバリーの両面で広告商品を展開しています。乗車中のアプリ画面に表示される「Journey Ads」や、地図・ルート表示画面でのバナー広告、Uber Eatsアプリ内での検索連動型広告(スポンサー掲載)が代表的です。またUber Eatsでは出前・小売向けに「Sponsored Items」と呼ばれる商品プロモーション枠を提供し、飲食店やCPGブランドが自社商品を目立たせることができます ( Uber Technologies, Inc. - Uber Announces Results for Second Quarter 2023 )。加えて、車内タブレット広告や車両上部のデジタルサイネージ(提携するAdomni社経由の車載スクリーン)によるアウトドア広告も展開しています (Lyft forecasts 15% annual growth in gross bookings through 2027, shares jump | Reuters)。ターゲティング手法としては、ユーザーの所在地・行き先データや利用履歴に基づく文脈ターゲティングが特徴です。例えば「ユーザーがWalmartに向かっている時にP&Gの商品広告を表示する」といった目的地ベースの広告配信も可能です (Uber, DoorDash announce ad business expansions )。Uberはまた、2023年には動画広告の提供も開始し、UberおよびUber Eatsアプリ、アルコール通販のDrizly、提携する車内タブレット上で動画広告を配信しています ( Uber Technologies, Inc. - Uber Announces Results for Second Quarter 2023 )。これらの広告はUberの持つ多面的なデータ(移動・飲食履歴等)を活用しており、広告主にとって精度の高いターゲティングが魅力となっています。
Lyft: Lyftもアプリ内広告、車内タブレット、車載デジタルサイネージといったフォーマットを導入しており (Lyft forecasts 15% annual growth in gross bookings through 2027, shares jump | Reuters)、Uberに近い形でのマネタイズを進めています。Lyftアプリ内では乗車待ち時間や経路マップ上にブランド広告を表示でき、車両のデジタルスクリーンでは都市走行中に広告映像を流すことが可能です。ターゲティングは主に地域・時間帯・イベントなどに応じたものや、ユーザーの過去の乗車パターンに基づくセグメント配信が考えられます。特に小売店や飲食店、旅行・観光施設など「目的地」と親和性の高い広告主がLyftのデータを活用し始めており (Lyft forecasts 15% annual growth in gross bookings through 2027, shares jump | Reuters)、例えば空港への移動が多い利用者に旅行関連サービスの広告を出す、といった使い方がされています。Lyftはまだ広告ネットワーク規模ではUberに劣りますが、自社プラットフォーム内に閉じた形で精度の高い広告ターゲティングができる点を売りに、広告主を開拓しています。
Instacart: Instacartは小売プラットフォームとしての商品検索連動広告が中心です。ユーザーがInstacart上で検索・閲覧する商品リストに対し、ブランドメーカーが「Featured Product」広告(スポンサー商品)を入札・掲載できます (Instacart Advertising: Unleashing Your Brand's Potential Across the Customer Journey) (Instacart Advertising: Unleashing Your Brand's Potential Across the Customer Journey)。これらスポンサー商品は通常の検索結果に類似した形式で表示されますが、「sponsored」とタグ付けされており、目立つ棚位置を買うオンライン版の「棚代(フィーチャー料)」とも言えます (Instacart Advertising: Unleashing Your Brand's Potential Across the Customer Journey)。また、特定カテゴリーのトップに表示するバナー広告やクーポン、購入後のレコメンデーション枠など、購買ジャーニーの各段階に沿った広告メニューを提供しています。Instacartの強みは、膨大な購買データに基づく精緻なターゲティングです。ユーザーの過去の購入履歴や現在閲覧している商品カテゴリーに応じて関連性の高い広告をリアルタイムに表示でき、「買い物の意思決定点」で広告メッセージを届けることが可能です (Instacart Advertising: Unleashing Your Brand's Potential Across the Customer Journey)。例えば、特定ブランドのシリアルをよく購入するユーザーには競合他社の新商品をクーポン付きで訴求するといった戦略が取られます。Instacartはこのようなデータ駆動型のPPC広告モデルを採用することで、高いクリック率と転換率を実現し、広告主であるCPGメーカーにとって重要なデジタル販促チャネルとなっています (Instacart IPO breakdown: On the grocery market, ads, memberships, profitability and valuation | Wing Venture Capital)。
今後の成長予測
Uber、Lyft、Instacartはいずれも、広告事業を今後の重要な成長エンジンと位置付けています。 業界全体でも小売・オンデマンド分野のデジタル広告は拡大が続く見通しで、各社は以下のようなトレンドや計画を示しています。
業界トレンド: 小売・オンデマンド領域の「リテールメディア」市場は急成長中で、2022年に約410億ドルだった米国リテールメディア広告費は引き続き二桁成長が予想されています (Uber, DoorDash announce ad business expansions )。サードパーティCookieの廃止などで広告主がファーストパーティデータを持つプラットフォームに注目する流れも追い風です。ライドシェアや宅配企業が広告ビジネスに参入する動きは今後も加速し、自社データを活用したターゲティング広告への需要は高まると考えられます (Lyft Targets Major Growth In Gross Bookings And Ad Revenue - Finimize)。また、広告フォーマット面では動画広告やオフプラットフォーム連携(Instacartデータを使ったYouTube広告配信 (Instacart bets on YouTube to turbocharge its $871M ad business)など)、プログラマティック広告の導入(Uberは2024年以降、オープンな広告取引の拡大を示唆 (Uber’s Ad playbook for 2025: scaling, innovating and staying the course - Digiday))といった新展開が見込まれます。
Uberの予測: Uberは広告事業について「2024年に年商10億ドル規模」となる目標を前倒しで達成しました (Uber’s Ad playbook for 2025: scaling, innovating and staying the course - Digiday)。2024年夏時点で10億ドルのランレートに達しており、今後も国際展開の拡大や新フォーマット投入でさらなる成長を図る計画です (Uber’s Ad playbook for 2025: scaling, innovating and staying the course - Digiday)。実際、Uberは2023年だけで150以上の新広告機能や実験的取り組みを行い、動画広告やポストチェックアウト画面での表示など広告在庫を大幅に増やしています (Q4 2023 Prepared Remarks)。今後は広告のランキングや入札アルゴリズムの高度化、ターゲティング精度向上、計測・効果検証ツールの強化にも注力するとしており (Q4 2023 Prepared Remarks)、広告主のさらなる獲得と収益性向上が見込まれます。
Lyftの予測: Lyftは2024年の広告売上見込み5000万ドルから、2027年に4億ドル(8倍)規模への拡大を公式に目標としています (Lyft forecasts 15% annual growth in gross bookings through 2027, shares jump | Reuters)。これにより年間15%の総取扱高成長と利益率向上を達成する計画で、広告事業の成長がLyftの将来戦略の中核です (Lyft Targets Major Growth In Gross Bookings And Ad Revenue - Finimize)。広告主側の需要も「より精度の高い計測可能なソリューション」を求める声が強く (Lyft forecasts 15% annual growth in gross bookings through 2027, shares jump | Reuters)、Lyftはそのニーズに応えることで広告収入を伸ばそうとしています。今後は提携により車内タブレットの普及拡大や新たな広告パートナー獲得も進めるとみられ、広告事業の規模拡大次第では収益構造に大きなインパクトを与えるでしょう。
Instacartの予測: Instacartは2023年には広告収入が8億ドル規模に達し (Instacart IPO breakdown: On the grocery market, ads, memberships, profitability and valuation | Wing Venture Capital)、順調に成長を続けています。オンライン食品宅配市場自体の成長鈍化が指摘される中で、同社は広告ビジネス拡大による収益成長維持を図る戦略です。今後も新たな広告商品開発や販路拡大が予想され、例えばInstacartは小売データを外部活用する提携(例: Instacartの購買データを使った広告をYouTube上で配信 (Instacart bets on YouTube to turbocharge its $871M ad business))にも乗り出しています。これは、プラットフォーム外でも自社データをマネタイズし広告主の予算取り込みを狙う動きであり、成功すれば広告事業の成長にさらに弾みがつくでしょう。加えて、メーカー側の広告予算が従来の店頭プロモーションからデジタルにシフトするトレンドも追い風で、Instacartは「CPGブランドにとって最大級かつ成長率トップクラスのeコマースチャネル」との評価を得ています (Instacart IPO breakdown: On the grocery market, ads, memberships, profitability and valuation | Wing Venture Capital)。したがって、同社広告事業は今後も高成長を維持し、10億ドル規模を超えて収益と利益の牽引役であり続けると見込まれます。
以上のように、Uber、Lyft、Instacartはいずれも広告事業を通じて収益基盤を強化しつつあり、特にInstacartとUberはその高成長・高利益率に支えられて業績を伸ばしています。競合他社との競争はあるものの、各社が持つユーザーデータとプラットフォーム内エコシステムを活用できる広告ビジネスは今後も拡大が予想され、収益全体に占める広告の比重および利益への寄与は今後さらに大きくなるでしょう。