
Uberが黒字化を達成した要因とLyftとの比較
Uberの業績推移と黒字化の達成
Uberは長年にわたり巨額の赤字を計上してきましたが、2023年に入って業績が飛躍的に改善し、初めて通年で黒字(GAAPベースの純利益)を達成しました (Uber Actually Turned a Profit For the First Time Since Going Public Five Years Ago)。具体的には、2023年通年の純利益は18.9億ドルとなり、2022年の91.4億ドルの赤字から大きく好転しました (Uber Posts Better-Than-Expected Earnings)。売上高も2023年に372.8億ドルに達し前年比17%増加しており (Uber Posts Better-Than-Expected Earnings) (Uber Actually Turned a Profit For the First Time Since Going Public Five Years Ago)、利用回数の増加と収益性向上の両面で成長しています。
Uberは四半期ベースでも黒字転換を果たしています。2023年第2四半期には、初の営業利益を計上し(前年同期は赤字)、市場予想を上回る収益を記録しました (The U.S. Rideshare Industry: Uber vs. Lyft - Bloomberg Second Measure)。また2023年第4四半期には営業利益6.52億ドルを計上し、前年同期から約7.94億ドルの改善となりました (Uber Announces Results for Fourth Quarter and Full Year 2023)。経営陣も「2023年はUberにとって転換点となった年」と述べており、収益性の持続的な改善に自信を示しています (Uber Actually Turned a Profit For the First Time Since Going Public Five Years Ago) (Uber Posts Better-Than-Expected Earnings)。
黒字化を達成できた背景には、積極的なコスト管理と事業効率の向上が大きく寄与しています。後述するように、パンデミック期以降に人員削減や非中核事業の整理を進めたことで経費構造が改善し、売上の伸びを利益に繋げることが可能になりました。加えて、需要回復による利用者数・利用回数の増大と、価格戦略の見直しによる単価向上も収益押し上げに貢献しています。
Uberの収益源(ライドシェア・デリバリー・Freight)の動向
Uberの収益は主にライドシェア(Mobility)とデリバリー(Uber Eatsを中心とするDelivery)の2本柱で構成され、さらに物流のUber Freight事業があります。2023年の売上構成は、ライドシェアが約196億ドル、デリバリーが約121億ドルを占め、合計収益の約85%を両事業で占めました (Uber Revenue and Usage Statistics (2025) - Business of Apps)(残りがFreightなどその他事業)。
ライドシェア部門はコロナ禍からの需要回復により大きく成長しました。2023年のライドシェア収入は前年比34%増と大幅に拡大しており (Uber Actually Turned a Profit For the First Time Since Going Public Five Years Ago)、利用者の外出増加や旅行需要の戻りが寄与しました。また、2024年には世界全体の乗車回数がさらに増加し、2024年第2四半期にはモビリティ部門の予約総額が前年同期比23%増の206億ドルに達しています (Uber vs Lyft: Which Ride-Share Giant Has the Brighter Future?)。これは日次平均約2,800万件の乗車が行われている計算で、プラットフォーム規模が過去最大級になったことを示しています (Uber Actually Turned a Profit For the First Time Since Going Public Five Years Ago)。
デリバリー部門(Uber Eats等)もパンデミック期に急成長した後、規模を維持しつつ緩やかに成長しています。2023年のUber Eatsを含むデリバリー収入は約121億ドルで前年比11%増となりました (Uber Revenue and Usage Statistics (2025) - Business of Apps)。飲食宅配の需要は一時ほどの急増ではないものの、食料品やアルコール配達など新分野への拡大 (The U.S. Rideshare Industry: Uber vs. Lyft - Bloomberg Second Measure)や、Uber One(会員制プログラム)による顧客囲い込み (The U.S. Rideshare Industry: Uber vs. Lyft - Bloomberg Second Measure)により安定成長を続けています。Uberは米国で食料品や荷物の配送サービス、イベント予約(Uber Explore)などサービス範囲を拡大しており、単なるライドシェアに留まらない総合プラットフォーム化が進んでいます (The U.S. Rideshare Industry: Uber vs. Lyft - Bloomberg Second Measure)。
Uber Freight(物流)は景気や市況の影響を受けやすく、2023年は貨物需要の低迷で減収となりました。例えば2023年第4四半期のFreight売上は前年同期比17%減の13億ドルとなっており (Uber Announces Results for Fourth Quarter and Full Year 2023)、貨物単価の下落と取引量減少が響きました。ただしUber全体ではライドシェアとデリバリーの成長がFreight部門の落ち込みを補い、総売上高は堅調に拡大しています (Uber Posts Better-Than-Expected Earnings)。事業の多角化によって、一部部門の不調を他部門の成長で相殺できる体制が、Uberの安定性に寄与しました。
Uberのコスト削減施策と収益性への影響
Uberが黒字化できた大きな要因の一つに、コスト構造の改善があります。特に人員削減を含む大規模なコスト削減策が奏功しました。2020年のパンデミック初期には全世界で数千人規模のレイオフを実施し、その後も必要に応じて追加削減を行っています。実際、2023年の従業員数は前年比7%減となっており、人件費や間接費用の圧縮に努めたことが明らかです (Uber Posts Better-Than-Expected Earnings)。経営陣は引き続き「人員規律」を維持し、今後も売上成長に対して人件費の伸びを抑えることでオペレーションのレバレッジ効果を高めていく方針を示しています (Uber Posts Better-Than-Expected Earnings)。
また、非中核事業の整理・統合もコスト削減に寄与しました。たとえばUberは、自社開発していた自動運転部門を他社に売却し(2020年にATGをAurora社へ売却)、巨額の研究開発コスト負担を軽減しました。さらに買収した事業の統廃合も進めており、2022年に買収した酒類デリバリーサービスのDrizlyを2023年に事実上サービス終了(Uber Eatsへの統合)する決定をしています (Uber Actually Turned a Profit For the First Time Since Going Public Five Years Ago)。このように、「人員と部門を切り落とすことでようやく利益への道が見えてきた」との指摘もある通り、従来は成長優先で抱え込んでいたコストを削ぎ落としたことが黒字化への転換点となりました (Uber Actually Turned a Profit For the First Time Since Going Public Five Years Ago)。
Uberはまた、営業費用全般にわたる見直しを行いマーケティングやプロモーションの効率化も図っています。かつては市場シェア拡大のために乗客やドライバーへの補助金や割引を多用していましたが、近年は「持続可能な成長」を重視し、不採算な補助を抑制しています。こうしたコスト意識の徹底により、2023年第4四半期の調整後EBITDAマージンは3.4%と前年の2.2%から改善し (Uber Posts Better-Than-Expected Earnings)、営業利益も着実に積み上がりました。
結果として、Uberの営業損益は大幅に改善しています。2023年通年では営業利益(Income from operations)でも黒字を計上し、営業キャッシュフローも改善しました (The U.S. Rideshare Industry: Uber vs. Lyft - Bloomberg Second Measure)。フリーキャッシュフロー面でも、2023年上期には17億ドルの正味プラスとなり今後さらに増加する見込みとの分析もあります (Uber: Profitable at Long Last - by App Economy Insights)。つまり、事業拡大による規模の経済と、コスト削減による構造改革の相乗効果が、Uberを黒字化に導いたのです。
Uberの価格戦略と利用者・ドライバーの動向
近年のUberは価格戦略とプラットフォーム効果の両面で利用者・ドライバーの動向を捉え、収益性向上に繋げています。まず価格面では、パンデミック後に需要が戻る中で運賃が全体的に上昇傾向にあります。2021~2022年のインフレ期を経てライドシェア運賃は高まり、2024年3月時点で1人当たり月間利用額はUberで107ドルと、2022年3月比で17%増となりました (The U.S. Rideshare Industry: Uber vs. Lyft - Bloomberg Second Measure)。利用者は以前より1回あたり高い料金を支払っている傾向があり、これはUberの収益(手数料収入)押し上げに寄与しています。
一方でドライバー数の増加にも注目です。需要回復と経済状況により、副業ドライバーを含めた運転手の供給が拡大しました。Uberの発表によれば、2023年には月間アクティブのドライバー・配達パートナーが680万人に達し、彼らに支払われた報酬総額は年間で620億ドルと前年から24%増加しました ([PDF] Uber Technologies, Inc. Q4 2023 Prepared Remarks February 7, 2024)。ドライバー報酬の増加は、プラットフォーム上で成立する取引総額(グロスブッキング)の拡大を反映しています。ドライバー層が厚くなったことで利用リクエストへの対応率が上がり、サービスの信頼性向上→利用者増加という好循環が生まれています。
ネットワーク効果もUberの強みです。世界各国で利用者とドライバーの双方を抱える規模により、ピーク需要時の配車マッチングや広域でのサービス提供が可能です。利用者数は2024年には月間プラットフォーム利用者数(MAPC)が1.56億人に達し (Uber vs Lyft: Which Ride-Share Giant Has the Brighter Future?)、これはLyftなど競合を大きく引き離しています。さらにUber Oneといったサブスクリプションでリピーターを増やし、1人当たり利用頻度を上げる戦略 (The U.S. Rideshare Industry: Uber vs. Lyft - Bloomberg Second Measure)も奏功しています。その結果、1日あたりの平均利用回数は2,600万超と記録的な水準となり (Uber Actually Turned a Profit For the First Time Since Going Public Five Years Ago)、プラットフォーム全体の回転率が上がりました。
まとめると、適正な価格設定で収益を確保しつつ、ドライバー基盤拡大によるサービス水準向上で需要を取り込み、巨大プラットフォームのネットワーク効果を最大化したことが、Uberの成長と黒字化を支える重要な要因です。
Lyftの業績と黒字化への取り組み
Uberに対して、競合のLyftは米国市場に特化したライドシェア事業者です。Lyftも収益性改善に向けた努力を続けており、2023年には大幅な赤字縮小を達成しました。2023年通年のLyftの純損失は3.40億ドルで、2022年の16億ドルの損失から大きく改善しています (Document)。特に2023年第4四半期の純損失はわずか2,630万ドルまで圧縮され、前年同期(5.88億ドルの損失)から劇的に好転しました (Document)。調整後EBITDAも同四半期には6,660万ドルの黒字となり、前年の大幅赤字から黒字転換しています (Document)。このようにLyftは黒字化目前まで業績を改善させており、経営陣も「確固たる基盤が構築できた」と述べ、2024年には初の正味プラスのフリーキャッシュフローを目指すとしています (Document)。
Lyftが収益改善のために講じた主な施策として、徹底したコスト削減が挙げられます。2023年4月に就任した新CEOのデイビッド・リッシャー氏は、就任直後に全従業員の約26%に当たる1,100人規模のレイオフを断行しました (Weekly Round-Up: Lyft's CEO Defends Layoffs + More) (Weekly Round-Up: Lyft's CEO Defends Layoffs + More)。この大胆な人員削減策により人件費・固定費の圧縮を図り、事業の損益分岐点を下げています。リッシャーCEOは「Uberと同水準の運賃水準に価格を引き下げるためのコスト削減」と説明しており (Weekly Round-Up: Lyft's CEO Defends Layoffs + More)、社内コストを削ることで利用者への料金を下げ、ドライバーへの報酬を手厚くする競争戦略を採りました。実際、Lyftは2022年末にも13%の人員削減を行っており (Lyft's new CEO begins tenure with layoffs, reported cutting 1,200 jobs)、度重なるリストラで組織をスリム化しています。その成果もあり、2023年の調整後EBITDAは2.22億ドルの黒字(2022年は4.17億ドルの赤字)に転じました (Document)。
一方でLyftの事業規模はUberに比べて小さく、成長率にも差異が見られます。2023年のLyftの売上高は44億ドル(前年比8%増)と、Uberの約1/8の規模に留まります (Document)。ライドシェア需要の回復傾向はあるものの、利用回数は未だパンデミック前の水準に達していないとの分析もあります (The U.S. Rideshare Industry: Uber vs. Lyft - Bloomberg Second Measure)。実際、Lyftの2023年通年の乗車回数は約7.09億回で前年比18%増と伸びていますが (Document)、2019年(約8億回)には届いていません。一方、アクティブ乗客数は2023年第4四半期に2,240万人となり前年より10%増加しました (Document)。このように需要は回復基調にあるものの成長ペースは緩やかで、Uberと比べると市場の伸びを十分には享受できていない状況です。
Lyftの戦略上の特徴は事業領域を本業のライドシェアに絞り込んでいる点です。かつては自社で自動運転開発部門を持ち将来投資をしていましたが、2021年にトヨタ傘下の企業に売却済みであり、現在はMotional社などパートナーとの提携で自動運転タクシーの試験運用に留めています。またUber Eatsのようなフードデリバリー事業も展開せず、過去に一部試みたものの本格参入はしていません (The U.S. Rideshare Industry: Uber vs. Lyft - Bloomberg Second Measure) (The U.S. Rideshare Industry: Uber vs. Lyft - Bloomberg Second Measure)。そのため、パンデミック期に配車需要が激減した際、代替収入源を欠いたことが業績悪化の一因でした。一方で事業集中のメリットとして、現在はライドシェア事業に経営資源を集中しやすく、サービス改善(例:空港での事前予約導入 (The U.S. Rideshare Industry: Uber vs. Lyft - Bloomberg Second Measure)や女性専用乗車オプションの拡大など)に注力しています。Lyftは「顧客重視」で差別化しユーザー体験の向上とロイヤルティ強化を図ることで、収益性の高い成長に転換しようとしています (Document)。
UberとLyftの収益性・成長率の比較
収益性の面では、Uberが一歩先を行っています。前述の通りUberは2023年に純利益18.9億ドルを計上し黒字転換しましたが (Uber Posts Better-Than-Expected Earnings)、Lyftは同年に3.40億ドルの赤字で未だ最終損益はマイナスです (Document)。営業利益ベースでもUberは2023年通年・各四半期でプラスを維持したのに対し、Lyftは通年ではマイナス(営業赤字)でした。ただしLyftも2024年第2四半期に初めてGAAPベースの黒字(純利益500万ドル)を達成するなど (Uber vs Lyft: Which Ride-Share Giant Has the Brighter Future?)、四半期単位では損益がトントンまで改善してきています。調整後EBITDAマージンで見ると、Uberは2023年第4四半期に売上の約3%超をEBITDA利益として計上したのに対し (Uber Posts Better-Than-Expected Earnings)、Lyftも同四半期に総取扱高(Gross Bookings)の1.8%をEBITDA利益として残しています (Document)。割合だけ見ると大差ないようにも見えますが、Uberは大幅な投資を行いながらの黒字であり、絶対額やフリーキャッシュフロー創出で勝っています。2023年の年間フリーキャッシュフローはUberがプラス転換した一方、Lyftはまだ投資を差し引くとマイナスと推定され、株主還元(自社株買い等)の検討もUberでは始まっています (Uber Posts Better-Than-Expected Earnings)。
成長率の比較では、Uberは巨大な収益規模を保ちながら二桁成長を遂げており、Lyftは規模が小さいものの成長ペースは近年抑制されています。2023年の売上成長率はUberが+17%、Lyftは+8%に留まりました (Uber Posts Better-Than-Expected Earnings) (Document)。利用面でも、Uberのグロスブッキング(取扱高)は前年比+19%と伸び (Uber Posts Better-Than-Expected Earnings)、配車回数も前年比+24%増と好調でした (Uber Announces Results for Fourth Quarter and Full Year 2023)。一方Lyftの取扱高成長は+14%(2023年) (Document)、乗車回数は+18%増にとどまります (Document)。特に米国市場では、Uberの2024年3月時点の売上は前年同月比+10%成長、Lyftは+3%成長と明暗が分かれています (The U.S. Rideshare Industry: Uber vs. Lyft - Bloomberg Second Measure)。この差は、Uberが新サービスや多地域展開で新たな需要を取り込んでいるのに対し、Lyftは主戦場の北米ライドシェア以外に大きな成長ドライバーがないためです。またUberはプラットフォーム全体の月間ユーザー数・利用頻度が増加傾向にあり、顧客一人当たりの支出もUberの方が高い(2024年3月でUber月額$107、Lyft$95)状況です (The U.S. Rideshare Industry: Uber vs. Lyft - Bloomberg Second Measure) (The U.S. Rideshare Industry: Uber vs. Lyft - Bloomberg Second Measure)。今後の成長余地という点でも、Uberはフードデリバリーや国際市場の拡大による追い風がありますが、Lyftは米国市場でUberからシェアを奪い返す戦略が必要で、成長経路が限定的と言えます。
UberとLyftの市場シェアの比較
市場シェアに関して、Uberは米国ライドシェア市場で圧倒的なリーダーシップを維持しています。2024年3月現在、米国におけるライドシェア消費支出の約76%がUber、Lyftは24%というデータがあり (Lyft Statistics 2024 By Revenue, Active Riders, Drivers And Country)、Uberが約3倍以上の規模でLyftを上回っています。以前はシェア比率がおよそ7:3程度とされた時期もありましたが、2020年以降Lyftは毎年1ポイントずつシェアを失っているとの分析もあり(Uberとタクシーが微増) (Lyft's Uphill Battle on Navigating Weakening Network Effects and ...)、近年はUber:Lyftが約8:2に近い構図となっています。実際、Lyftの取扱高は未だコロナ前水準に戻っていない (The U.S. Rideshare Industry: Uber vs. Lyft - Bloomberg Second Measure)のに対し、Uberは2022年には既にコロナ前を回復しその後も上乗せしています (The U.S. Rideshare Industry: Uber vs. Lyft - Bloomberg Second Measure)。この差は、利用者が「より確実に車を捕まえられるサービス」に流れた結果とも言えます。規模が大きいUberはドライバー数・車両供給力で勝り、ピーク時の待ち時間短縮やサービス範囲の広さでユーザーに支持されやすいためです。
また地理的展開の差もシェアの違いに直結しています。Uberは全世界の約70以上の国・地域でサービスを提供し、多様な市場から収益を得ています。一方Lyftの事業展開は主に米国と一部カナダのみで、国際展開はありません。そのため、グローバルで見たシェアはUberが圧倒的であり、Lyftは米国内のニッチな位置づけとなります。例えば旅行者が海外でも使える利便性や、一つのアプリで海外出張・旅行時にも移動できる点はUberの大きな強みで、結果としてユーザー数や知名度でUberが大幅に先行しています。
シェア拡大に向けてLyftも対策を講じていますが、Uberに比べると限定的です。Lyftは料金引下げやサービス改善で既存市場内での巻き返しを狙いますが、Uberも同様に価格競争力を維持しており簡単ではありません。「Uberと同程度の料金水準に揃える」ために人員削減まで行ったLyftですが (Weekly Round-Up: Lyft's CEO Defends Layoffs + More)、料金が同水準であれば供給力のあるUberに軍配が上がりやすい状況です。現在のところ、米国ライドシェア市場はUberが寡占的地位を占め、Lyftは20%台のシェアで苦戦しているのが実情です (Lyft Statistics 2024 By Revenue, Active Riders, Drivers And Country)。
UberとLyftのコスト構造の比較
コスト構造を見ると、両社ともドライバーへの支払いなど変動費の占める割合が高いビジネスモデルですが、固定費のスケールメリットでUberが優位です。Uberはグローバル展開や多角化により収益規模がLyftの8倍以上あるため、開発費や本社機能、人件費といった固定コストを広い収益基盤でカバーできます。実際、Uberの2023年の営業費用には株式報酬の減少もあり前年同期比で大きく削減がみられ (Uber Posts Better-Than-Expected Earnings)、収益増に対してコスト増を低く抑えるオペレーションレバレッジを発揮しました。一方Lyftは、地域限定かつ単一事業ゆえに規模が小さく、同様のシステム開発や管理部門を維持するにも売上に占める固定費負担が重い傾向にあります。例えば2023年通年のLyftの純損失は取扱高の2.5%でしたが (Document)、これは営業費用など固定費を吸収しきれていないことを意味します。Uberは同年、投資評価益など一時要因を含むものの純利益が出るまで固定費率を引き下げることに成功しています (Uber Posts Better-Than-Expected Earnings)。
また、戦略投資と効率性の面でも差異があります。Uberは自動運転や新規事業への投資を継続しつつも、外部パートナーとの連携で費用負担を抑える戦略を取っています(例:Waymoとの提携で自動運転車を一部導入 (The U.S. Rideshare Industry: Uber vs. Lyft - Bloomberg Second Measure))。Lyftは自動運転開発を外部に任せることで投資負担を下げていますが、その分将来の技術競争力ではUberのネットワークに頼る部分も出てきます。また保険コストや規制対応コストもライドシェア企業にとって重要な固定費です。Uberは世界中で蓄積したデータによりリスク管理やルール対応を高度化しており、単位あたりコストの低減に努めています。Lyftも保険料削減に取り組んでいますが、絶対的な走行データ量や運行地域の少なさからUberほどのスケールメリットは得にくいでしょう。
両社の変動費について言えば、ドライバーへの報酬やインセンティブが最大の項目です。UberもLyftも売上の大部分をドライバーに還元していますが、Uberはフードデリバリー等も含めた総合的な配車網を活用し、ドライバー稼働率の最大化を図っています。例えばUberのドライバー/配達パートナーは2023年に計620億ドルを稼いだ ([PDF] Uber Technologies, Inc. Q4 2023 Prepared Remarks February 7, 2024)のに対し、Lyftのドライバー支払総額は同年約80億ドル(ライドシェア取扱高138億ドルのうち約58%前後と推測)と見られ、スケールが違います。UberはAIによる需要予測やマッチング最適化にも投資し、1回あたりの配車コストや空車時間の削減に取り組んできました。結果として、Uberは同じ1ドルの売上を得るのにLyftより低いコストでサービス提供できる体質を築きつつあります。Lyftも固定費削減により一定のコスト効率化は進めていますが、人員削減はサービス品質への影響リスクも伴うため、今後は効率とサービス水準の両立が課題となるでしょう。
まとめ:Uber黒字化の要因とLyftとの違い
以上の分析を踏まえると、Uberが黒字化を達成したのは、需要回復を追い風に収益基盤を拡大しつつ、徹底したコスト削減と事業の選択と集中で収益性を高めたためです。ライドシェアとデリバリーという複数の柱でバランスよく成長し、世界的なネットワーク効果を活かして規模の経済を実現しました。その結果、営業利益・純利益ともに企業史上初の黒字領域に到達し、持続的な利益創出への道筋をつけました (Uber Actually Turned a Profit For the First Time Since Going Public Five Years Ago) (Uber Posts Better-Than-Expected Earnings)。
競合のLyftもコスト削減やサービス改善で黒字化を目指していますが、事業規模と多角化の差が両社の明暗を分けています。Uberはグローバル展開と多様なサービスで成長エンジンを複数持ち、高い成長率と市場シェアを享受しています。一方Lyftは北米ライドシェア一本に依存しており、市場シェアも劣勢(米国で24%程度) (Lyft Statistics 2024 By Revenue, Active Riders, Drivers And Country)、成長も限定的です。固定費吸収力や技術投資の面でもUberに軍配が上がり、収益性の回復ペースに差が出ています。総じて、Uberは規模と戦略の優位性によって黒字化を果たし、Lyftとの間に収益力の差を広げつつある状況と言えるでしょう。 (The U.S. Rideshare Industry: Uber vs. Lyft - Bloomberg Second Measure)