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Uberを黒字化に導いたプロ経営者Uber CEO Dara Khosrowshahi(ダラ・コスロシャヒ)の経歴と功績

生い立ち (Early Life)

ダラ・コスロシャヒ(Dara Khosrowshahi)は1969年5月28日、イランのテヘランに生まれました (Dara Khosrowshahi - Wikipedia) (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。彼の一家は製薬や食品、化学など多角的事業を展開する大企業「アルボルズ投資会社(Alborz Investment Company)」の創業一家として知られる裕福な家庭でした (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。1978年のイラン革命直前、一家は富裕層であるがゆえに標的とされ、母親は財産をすべて残して国外へ逃れる決断をします (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。一家の事業は新政権によって接収・国有化され、まず南フランスへと避難しました (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。その後、イラン情勢の好転が見られずイラン・イラク戦争も始まったため帰国を断念し、最終的にアメリカ合衆国へ移住します (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。コスロシャヒ一家はニューヨーク州タリータウンに住む叔父を頼り、そこで新生活を始めました (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。母親はそれまで職務経験がありませんでしたが、手元の資金が乏しい中で子供たちの教育費を支えるためフルタイムで働き始めたと伝えられています (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。1982年、ダラが13歳のときに父親が祖父の介護のため一時帰国しましたが、イラン政府は父親の再出国を認めず、その後6年間にわたり父親と会えないまま思春期を過ごすことになりました (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。こうした幼少期から青年期にかけての経験は、後に本人が「移民として何もない状態からスタートした」人生の困難と糧として語られることになります (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider) (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider)。

学歴 (Education)

米国で生活基盤を築いたコスロシャヒは、ニューヨーク州ウェストチェスター郡にある名門私立プレップスクールのハックリー・スクール(Hackley School)に通い、1987年に同校を卒業しました (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。高校卒業後はアイビーリーグの一角であるブラウン大学に進学し、電気工学を専攻します (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。1991年にブラウン大学を卒業し、電気工学の理学士号(B.S.)を取得しました (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。学生時代にはシグマ・カイ(Sigma Chi)友愛会に所属するなど活発に活動していたことが伝えられています (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。エンジニアリングの素養と米国名門大学での学位取得は、後のビジネスキャリアにおいて技術と経営の両面を理解する下地となりました。

キャリアの変遷 (Career Progression)

初期のキャリア (Early Career in Finance and Media)

大学卒業後の1991年、コスロシャヒはウォール街の投資銀行アレン&カンパニー(Allen & Company)にアナリストとして入社し、キャリアをスタートさせました (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。在職中、上司が急病で不在となった際に若手ながら大口案件の数字説明を任され、それがメディア界の大物バリー・ディラー(Barry Diller)との初対面となります (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。この偶然のチャンスがディラーに強い印象を与え、コスロシャヒの将来に影響を与える出会いとなりました (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。
その後1998年、コスロシャヒはアレン社を離れてバリー・ディラーの経営するUSAネットワークス(USA Networks)に転じ、戦略企画担当上級副社長(SVP of Strategic Planning)や社長職を歴任しました (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。さらにディラー率いるインタラクティブコープ(IAC)では最高財務責任者(CFO)を務め、ディラーのもとでメディア・インターネット業界の経営ノウハウを蓄積していきます (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。IAC在籍中には、当時マイクロソフト傘下であった旅行予約サイト「Expedia」の買収にも深く関与しました。実際、2001年にIACがExpediaを約13億ドルで買収する際には、ディラーとコスロシャヒがその交渉をまとめ上げています (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider)。このように金融業界の分析職から始まり、ITメディア業界の大手企業で経営戦略や財務に携わった初期キャリアが、彼のビジネス基盤を形作りました。

ExpediaのCEO時代の業績 (Achievements as CEO of Expedia)

2005年8月、IACはExpediaをスピンオフ(分社上場)させることになり、ダラ・コスロシャヒがExpedia社の最高経営責任者(CEO)に就任しました (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider)。当時会長となったバリー・ディラーの後押しもあり、以後2017年まで約12年間にわたりExpediaのトップを務めます (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider)。この期間、Expediaは米国最大のオンライン旅行会社へと成長を遂げました (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider)。具体的な実績として、2005年に21億ドルだった年間収益は2016年には87億ドルにまで拡大しています (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider)。また、ホテルや航空券などの総取扱高(グロス予約額)は4倍以上に増加し、税引前利益も2倍以上に増加したと報じられています (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。コスロシャヒの指揮の下、Expediaは積極的な買収戦略と国際展開も推進しました。以下は彼の在任中の主な功績です。

  • グローバル展開: Expediaは60か国以上で事業展開するまで拡大しました (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。各地域に合わせたサービス展開により世界的な旅行プラットフォームを構築しました。

  • 主要ブランドの買収: Travelocity、Orbitz、HomeAwayといった競合オンライン旅行ブランドを次々と買収し、グループ傘下に収めました (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。これによりExpedia傘下にはHotels.com、Trivago、Travelocity、Orbitz、HomeAwayなど多数の旅行関連サービスが集約され、事業ポートフォリオが強化されました (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider)。

  • モバイルへの投資: コスロシャヒはモバイル戦略に積極投資し、Expediaのトラフィックの半数以上がモバイル経由になるまで同社のサービスをモバイル対応・強化しました (Dara Khosrowshahi | Leadership | Uber)。

  • 社員からの支持: 穏やかで開かれたリーダーシップにより従業員からの支持も厚く、Expedia時代には米求人サイトGlassdoorの「最高経営責任者ランキング」において最高位の一人に名を連ねました (Dara Khosrowshahi | Leadership | Uber)(Expedia社員からの支持率は94%とも報じられています (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider))。

こうした成果により、2015年には取締役会から約9,100万ドル相当の長期インセンティブ株式報酬を与えられ、年俸や賞与と合わせてその年のS&P500企業で最高額の報酬を受け取ったCEOとなりました (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider)。この報酬パッケージには2020年まで在籍することなどの条件が付されていましたが、後述するように彼はその一部未確定株式(評価額1億8,000万ドル相当とも)を放棄してUberに転じる決断をしています (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider) (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。

UberのCEO就任までの経緯 (Path to Becoming Uber’s CEO)

2017年、Uber社は共同創業者のトラビス・カラニックCEOが一連のスキャンダルにより辞任し、新たな指導者を探していました (5 key takeaways from The New Yorker's revealing profile of new Uber chief Dara Khosrowshahi – GeekWire)。当初、有力候補にはジェフ・イメルト(元GEのCEO)やメグ・ホイットマン(元HPのCEO)らの名が挙がっており、コスロシャヒは「ダークホース(穴馬)的な候補」と見られていました (Dara Khosrowshahi - Wikipedia) (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。コスロシャヒ自身、当初はUberのトップ就任に興味を示さずヘッドハンターからの打診を断っていましたが、Spotify共同創業者のダニエル・エクらの助言もあり最終的に応募を受け入れることになります (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。選考プロセスでは、最有力とされたイメルトがプレゼンテーションで失態を演じ信任を失ったこと、ホイットマンは取締役の一部から支持を集めたもののVC筆頭株主のBenchmark社との軋轢が生じたことなどから、最終的に取締役の票が割れる中でコスロシャヒが過半の支持を得て選出されました (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。
こうして2017年8月にコスロシャヒはUberのCEOに就任し、評価額数百億ドル規模のスタートアップの舵取りを任されることになりました (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。就任にあたって彼はExpediaに残してきた将来受取予定の巨額報酬(前述の未受領株式)を放棄していますが、Uber側からは就任の対価として2億ドル超の報酬契約が提示されたとも報じられています (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。Uber取締役会は、オンライン旅行分野での豊富な経験と穏健なリーダーシップを持つコスロシャヒが、スキャンダルで揺らいだ同社を立て直す適任者だと判断したのです。

Uberでの具体的な実績 (Achievements at Uber as CEO)

就任後の主要な戦略と改革 (Key Strategies and Reforms Post-Taking Office)

コスロシャヒがUberのCEOに就任した当時、同社はセクハラ問題や法規制回避ソフト使用問題、データ漏洩隠蔽など数々の不祥事にまみれ、世間から「最も嫌われた企業」の一つとさえ称される状況にありました (5 key takeaways from The New Yorker's revealing profile of new Uber chief Dara Khosrowshahi – GeekWire)。彼に課せられた最大の使命は、この悪化した企業イメージを浄化し、事業を持続可能な軌道に戻すことでした (5 key takeaways from The New Yorker's revealing profile of new Uber chief Dara Khosrowshahi – GeekWire)。就任直後からコスロシャヒは内外に向けて次のような戦略・改革を打ち出しています。

  • レピュテーションの立て直し: 世界各国の規制当局や政府との関係修復に努め、誠実路線への転換を図りました。例えばロンドンでは、就任直後に同市交通局(TfL)がUberの営業免許更新を拒否した際、「過去の過ちに対し心からお詫びする」との公開書簡を現地紙に掲載し (Uber CEO Dara Khosrowshahi Apologised in an Open Letter to Londoners After Transport for London’s Decision Not to Renew Uber's Licence - Business Insider)、「我々は変わらねばならない」とサービス改善を誓いました (Uber CEO Dara Khosrowshahi Apologised in an Open Letter to Londoners After Transport for London’s Decision Not to Renew Uber's Licence - Business Insider)。従来の経営陣が対決姿勢で臨みがちだった問題にも謙虚な姿勢で臨み、各国での信用回復に努めています。

  • 法令遵守と透明性の向上: 以前の経営陣の下で行われていた法規制逃れの手法(たとえば当局の追跡をかわすための「Greyball」ツール使用など)を廃止し、内部調査報告書の勧告に従ってコンプライアンス体制を強化しました (5 key takeaways from The New Yorker's revealing profile of new Uber chief Dara Khosrowshahi – GeekWire)。またデータ漏洩の事実を隠蔽せず公表・対策するなど、透明性ある対応に切り替えています。

  • 経営方針の転換: 「成長第一」から「持続的な成長と収益性」へのシフトを打ち出しました。就任以降、コスロシャヒは赤字縮小に注力し、採算性の低い事業や地域からの撤退も辞さない戦略を取りました。その一環として2018年前後には、ロシアや東南アジアなど激しい競争で赤字が膨らんでいた市場から撤退し、現地競合(ヤンデックス、Grab)との事業売却提携を行っています (Uber Reports Q4 Financials - Business Insider)。これにより一時的な売却益が生じるとともに、継続的な損失負担を軽減することに成功しました (Uber Reports Q4 Financials - Business Insider)。

  • 将来への投資と多角化: 既存のライドシェア事業の強化と並行して、新規事業への投資も継続しました。後述するようにフードデリバリーや自転車シェア、貨物輸送などへの事業拡大を進める一方で、自動運転技術など将来のモビリティ革命につながる分野への開発投資にも慎重ながら取り組みました。

企業文化の変革 (Cultural Transformation)

コスロシャヒは就任後、企業文化の大改革に乗り出しました。前体制下のUber社は社内調査報告で「まるで映画『アニマル・ハウス』のようだ」と形容されるほど無秩序で社内倫理に欠ける風土でした (5 key takeaways from The New Yorker's revealing profile of new Uber chief Dara Khosrowshahi – GeekWire)。これは元米司法長官エリック・ホルダーによる調査で明らかになったものですが、まさにその乱れた文化を正すことが新CEOの急務だったのです。

まずコスロシャヒは、かつてカラニック前CEOが定めた14か条の行動規範を全面的に見直しました。「Always Be Hustlin’(いつでもがむしゃらに)」や「Meritocracy and Toe-Stepping(実力主義と足踏み)」など攻撃的とも取れる旧バリューを廃止し、従業員からの公募アイデアも取り入れて練り直した8つの新しい行動規範を2017年末に発表しました (Uber's new cultural norms - CNBC) (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。新たなバリューには「We do the right thing. Period.(私たちは正しいことを行う。ピリオド。)」や「We celebrate differences.(違いを称賛する)」といったフレーズが掲げられ、多様性の尊重倫理的判断長期志向を強調する内容となっています (Uber has replaced Travis Kalanick's values with eight new "cultural norms") (Uber has replaced Travis Kalanick's values with eight new "cultural norms")。この刷新により、社内には以前とは異なる価値観が浸透し始めました。

またダイバーシティ(多様性)&インクルージョン推進にも力を入れ、組織風土の改善に努めています。就任以降、女性やマイノリティの採用・昇進割合向上を図り、Uber自身の公表するダイバーシティ報告でも若干ながら指標の改善が見られます。コスロシャヒ本人も「多様性と包括性の向上は始まったばかりだ」と述べ、継続的な取り組みを約束しています (Uber CEO on diversity report: We need to improve 'across the board')。さらに従業員との対話を重視し、全社集会やオンラインでの意見募集を通じて経営層と社員の距離を縮めました。こうした文化改革の努力により、「正しいことを行う」企業へと生まれ変わるというメッセージが社内外に発信されています (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。

収益・市場シェアの変化 (Financial Performance and Market Share Under Khosrowshahi)

コスロシャヒ就任後、Uberの財務指標には徐々に改善が見られました。2018年通年の売上高は113億ドルと前年比42%増加し(2017年は約75億ドル)、最終損益はロシア・東南アジア事業売却益の寄与もあって3.7億ドルの赤字まで損失が大幅圧縮されました(前年度2017年は45億ドルの赤字) (Uber Reports Q4 Financials - Business Insider)。仮に特殊要因を除外しても、2018年の調整後損失は18億ドルと前年の22億ドルから縮小しており、収益性改善への道筋が示されています (Uber Reports Q4 Financials - Business Insider)。もっとも、これらの数字には一時的な売却益が含まれるため、純粋な本業収支はなお赤字ではあったものの、成長率と赤字幅のバランス改善という点で投資家に前向きなシグナルを与えました。実際、2019年5月には悲願であったUber社の株式上場(IPO)を実現し、時価総額750億ドル超で公開市場への第一歩を踏み出しています (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider) (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider)。上場に際してコスロシャヒは社員に宛てた書簡で、「これはUberにとって新たな章の始まりであり、持続的成長と収益性確保にコミットしていく」との決意を表明しました (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。

市場シェアの面では、Uberは引き続き各主要市場でリードポジションを維持しています。特に本拠地アメリカでは、ライバルのLyft(リフト)との競争が続く中でも市場シェア約70%前後を占めてトップを堅持しています (U.S. ride-hailing market share - Statista)。Lyftが一時シェアを伸ばした局面もありましたが、サービス品質向上や料金戦略により大勢に大きな変化はなく、米国ライドシェア市場の支配的地位を保ちました (U.S. ride-hailing market share - Statista)。グローバルでも、南北アメリカやヨーロッパ、インド等で高いシェアを持つ一方、中国や東南アジアでは地元企業との提携へ戦略転換したものの、それによって得た株式持分を通じ市場間接支配力を維持しています。総じてコスロシャヒ体制下のUberは、無秩序な拡大路線から収益バランスを意識した成長路線へ移行しつつ、市場リーダーの地位は守り抜いたと言えます。

新規事業・サービスの導入 (New Businesses and Services Introduced)

コスロシャヒのリーダーシップの下、Uberはライドシェア以外の新たな事業領域へも積極的に拡大しました。彼はUberを「移動のプラットフォーム」と位置付け、都市交通のあらゆるニーズに応えるサービス展開を推進しています (Will Uber’s CEO, Dara, take Uber back to the future?)。その代表的な例がフードデリバリー事業とマイクロモビリティ事業です。

  • フードデリバリー(Uber Eats): コスロシャヒ就任以前から存在した食事宅配サービス「Uber Eats」を戦略的事業と位置づけ、大規模投資と拡張を行いました。彼の就任後、Uber Eatsは急速に提供地域を拡大し、2018年末までに米国人口の70%がUber Eatsのサービス圏内になる計画が進められました (Uber plans to expand food delivery to 70% of the US - CNBC)。その結果、Uber EatsはUberの主要収益源の一つに成長し、パンデミック下の2020年にはライドシェア減少を補う柱ともなりました。コスロシャヒ自身も「デリバリー事業は近い将来黒字化可能」と述べるなど期待を示しています (Uber Sees Profitability For Delivery On The Horizon As Rides ...)。

  • 自転車・スクーター共有(JUMPなど): 2018年に電動自転車シェアの新興企業JUMPを買収し、アプリ内で自転車や電動キックボードのレンタルができるサービスを開始しました (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider)。この一手により、短距離移動やラストワンマイルの需要にも応え、公共交通との連携を含む総合的な移動サービス提供を目指しました。JUMP導入当初は都市部を中心に好評を博し、Uberアプリが「クルマ以外の移動手段」も扱うプラットフォームへと進化する象徴的な出来事となりました (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider)。

  • 貨物輸送(Uber Freight): トラック輸送のマッチングサービス「Uber Freight」にも注力しました (Will Uber’s CEO, Dara, take Uber back to the future?)。このサービスは長距離トラック運転手と荷主を結びつけるもので、ライドシェアで培ったマッチング技術を物流分野に応用した新規事業です。コスロシャヒはUber Freightの本部をシカゴに設立し規模拡大を図るなど、本業周辺領域への多角化にもリソースを割きました (Mayor Lightfoot Joins Uber CEO to Announce Major Expansion ...)。

  • その他のサービス: この他にも、医療機関向けの患者送迎サービス「Uber Health」や、短期就労マッチングの試験サービス「Uber Works」など新分野の開拓を試みました。空飛ぶタクシー構想の「Uber Elevate」にも一時期取り組みましたが、こちらは後に他社へ売却しています。

一方、こうした新規事業への挑戦の裏で課題もありました。2018年3月にはUberの自動運転テスト車両が歩行者を死亡させる事故を起こし、コスロシャヒは直ちに全自動運転テストを9ヶ月間凍結する措置を取っています (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider)。この悲劇的な事故は自動運転開発計画に大きな打撃を与えましたが、彼は安全対策を最優先して信頼回復に努めました。その後、自動運転部門(Advanced Technologies Group)は2020年に他社へ売却され、Uberは戦略を見直しています。コスロシャヒの下での新規事業展開は成果と試行錯誤が混在しましたが、Uberは単なる配車ビジネスから、食事配達や物流も含めた総合モビリティ企業へと進化しつつあります (Will Uber’s CEO, Dara, take Uber back to the future?)。

その他の影響力・評価 (Other Influence and Leadership)

業界内での評価 (Reputation in the Industry)

ダラ・コスロシャヒはその穏やかな人柄と確かな業績から、テクノロジー業界で高く評価されるリーダーの一人です。Expedia時代の部下からは「フレンドリーで冷静、ドラマを生まない経営者」と評され (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider)、前任のカラニック氏が強引な手法で知られたのに対し「真逆のタイプのリーダー」と言われます (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider)。実際、2017年にUberに迎えられた際も、同社の破天荒な企業文化を正常化できる「大人の経営者」として各方面から歓迎されました。2018年には米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出されており(ビジネス部門) (TIME 100: The Most Influential People of 2018)、「人々の移動手段に革新をもたらした世界有数のテック経営者」との評価を受けています (5 key takeaways from The New Yorker's revealing profile of new Uber chief Dara Khosrowshahi – GeekWire)。加えて、2013年にはEYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー(米北西部)を受賞するなど (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)、経営者としての手腕も折り紙付きです。

一方で率直な物言いで注目を集めることもあります。例えば米国の政治に関しては、トランプ前大統領のイスラム圏渡航者に対する入国禁止令に公然と反対し、シャーロッツビルでの人種差別的騒動に対する大統領対応を批判するなど、移民出身の経営者として多様性擁護の立場を鮮明にしてきました (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider)。2017年には「自分が期待する大統領像に彼(トランプ氏)が近づくのを待っているが、期待は繰り返し裏切られている」とTwitterで発信するなど、その発言はメディアにも取り上げられています (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider)。もっとも発言には慎重さを欠く場面もあり、2019年にはサウジアラビア政府関係者によるジャーナリスト暗殺事件についてのインタビュー発言が物議を醸す一幕もありました (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)。総じて、コスロシャヒは公正な価値観を持つリーダーとの評価がある一方、発信力の高さゆえに注目を浴びる存在でもあります。

他の役職やプロジェクトへの関与 (Other Roles and Projects)

コスロシャヒは本業以外にも様々な役職やプロジェクトに関与してきました。メディア業界ではニューヨーク・タイムズ・カンパニーの取締役を務めた経歴があり (Dara Khosrowshahi - Wikipedia)、2015年から約2年間、その見識を新聞社の経営にも提供していました(Uber就任に伴い辞任)。また、かつて率いたExpediaグループの取締役にも現在名を連ねており (Dara Khosrowshahi | Leadership | Uber)、業界を超えた知見を同社にもたらしています。さらに非営利分野では女性やマイノリティの地位向上を目指す団体「Catalyst」のボードメンバーとしても活動しており (Dara Khosrowshahi | Leadership | Uber)、ダイバーシティ推進に貢献しています。加えて、テック業界の有力者ネットワークにも食い込んでおり、親族にも著名起業家・投資家が多いことから人的ネットワークは広範です (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider)(例:兄のカーベは投資銀行アレン&カンパニーの重役、従兄弟にはGoogleやFacebookに投資したパルトビ兄弟など (The Amazing Life of Uber CEO Dara Khosrowshahi - Business Insider))。このネットワークと経験を活かし、スタートアップ支援や業界イベントへの参加なども積極的に行っています。

ビジネス界における影響力とリーダーシップ (Influence and Leadership in the Business World)

ダラ・コスロシャヒは、「難局に直面した企業を見事に立て直す手腕を持つリーダー」としてビジネス界に確固たる地位を築いています。Expediaでは伝統的な旅行業界にITを持ち込み成功させ、Uberでは急成長企業のガバナンス改革と継続成長を両立させました。その軌跡は多くの経営者の手本ともなっており、「スタートアップを海賊から正規の海軍へと変貌させた」という比喩で称賛する声もあります (How Dara Khosrowshahi transformed Uber from a band of pirates ...)。実際、彼のリーダーシップは学術的なケーススタディとしても取り上げられ、「ギグ・エコノミー時代の新リーダー像」を体現する存在と評価されています ([PDF] ダラ・コスロシ - CNN English Express)。今後もUberを中心に、新たなモビリティサービスの創造や既存ビジネスの変革を牽引することが期待されており、その動向は世界のビジネス界から注目され続けるでしょう。


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