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Uber One、DashPass、Instacart+、Amazon Prime:メンバーシップ施策の成功事例分析
Uber One(Uber)
概要と施策内容:
Uber Oneは、Uberが2021年末に導入した月額制メンバーシッププログラムで、ライドシェアとフードデリバリー(Uber Eats)の両方に特典が及ぶ点が特徴です (Which company is winning the restaurant food delivery war? - Bloomberg Second Measure)。月額約10ドル(年額99ドル)で、Uber Eatsの配達手数料無料や対象注文の最大10%割引、ライドの割引・優先配車などを提供しています (Uber One subscription is boosting delivery spend, frequency and user loyalty for Uber Eats | Restaurant Dive) (Uber CEO: Member Base Now 30 Million, Up 60% YoY)。2022年に従来のEats PassやUber Pass(それぞれフードデリバリー専用・総合版の旧サブスク)から移行・統合され、以降グローバルに拡大しました ( Uber Technologies, Inc. - Uber Announces Results for Fourth Quarter and Full Year 2024 )。
会員数の増加:
サービス開始以来Uber Oneの会員数は急速に拡大しています。2022年の1年間で会員数は約2倍に増え約1,200万人に達し (Uber One subscription is boosting delivery spend, frequency and user loyalty for Uber Eats | Restaurant Dive)、2024年第4四半期には3,000万人(前年同期比+60%)に到達しました (Uber CEO: Member Base Now 30 Million, Up 60% YoY)。特に2024年Q4だけで500万人の純増を記録しており (Uber CEO: Member Base Now 30 Million, Up 60% YoY)、同年には欧州・アジア太平洋・中南米の6か国でも新たにUber Oneを開始して計34か国で提供(Uberのデリバリー展開国すべてを網羅)するなど国際展開も進みました ( Uber Technologies, Inc. - Uber Announces Results for Fourth Quarter and Full Year 2024 )。この拡大により、Uber Eatsプラットフォーム上の全米デリバリー総予約額の40%がUber One会員によるものとなっています (Uber One subscription is boosting delivery spend, frequency and user loyalty for Uber Eats | Restaurant Dive)。
売上・利用頻度への効果:
メンバーシップ導入後、Uberの事業成長には顕著な加速がみられます。2024年Q4の全社グロスブッキング(取扱高)は前年同期比+18%の442億ドルに達しましたが (Uber CEO: Member Base Now 30 Million, Up 60% YoY)、経営陣は「今四半期のテーマは加速」と述べ、Uber One会員の増加によるリテンション(継続利用)向上と顧客あたり価値向上が原動力になったと強調しています (Uber CEO: Member Base Now 30 Million, Up 60% YoY)。実際、Uber One会員は非会員の約4倍の月間支出を行っており、注文頻度も飛躍的に高まります (Uber One subscription is boosting delivery spend, frequency and user loyalty for Uber Eats | Restaurant Dive)。Uber Eatsの2022年Q4業績では、デリバリー注文総額が前年同期比+14%と堅調でしたが、CEOは「物価高の逆風下でもUber Oneのバリュー提案がUber Eatsの成長を支えている」と述べています (Uber One subscription is boosting delivery spend, frequency and user loyalty for Uber Eats | Restaurant Dive)。Uber One会員の拡大はUber全体のモビリティ(ライド)部門にも良い相乗効果をもたらし、2024年Q4のモビリティ取扱高も前年同期比+24%と予想を上回りました (Uber CEO: Member Base Now 30 Million, Up 60% YoY)。
リテンション(継続利用)率:
Uber Oneは利用者の定着率向上に大きく寄与しています。Uber One会員のリテンション率は非会員より15%高いことが分かっており (Uber One subscription is boosting delivery spend, frequency and user loyalty for Uber Eats | Restaurant Dive)、一度会員になったユーザーはより長期間にわたりUberのサービスを使い続ける傾向があります。これは、会員特典によってユーザーが「元を取ろう」と注文頻度を上げる効果や、ライドとデリバリーの両方を使うようクロスユースを促せていることが要因です。CEOの発言によれば、「我々はモビリティとデリバリー両方の特典がある会員プログラムを持つ唯一のプレイヤーだ」としており、複数サービスを束ねたUber Oneは競合に対する“moat” (堀)、すなわち強力な参入障壁になっているとしています (Uber One subscription is boosting delivery spend, frequency and user loyalty for Uber Eats | Restaurant Dive)。もっとも、会員獲得直後は割引コストが先行して一時的に赤字になるものの、ライフタイムで見れば有意な成長機会と収益源になるとも述べられており (Uber One subscription is boosting delivery spend, frequency and user loyalty for Uber Eats | Restaurant Dive)、長期LTV(顧客生涯価値)の向上によって十分ペイする施策と捉えられています。
利益率への影響:
Uber Oneによる無料配送や割引提供は短期的にはデリバリー1件あたりの採算を低下させる可能性があります。しかし、会員からのサブスクリプション収入(月額費用)と注文頻度増加による取扱高拡大によって長期的な利益額は増大しています (Document)。実際、2024年Q4のUberデリバリー部門の調整後EBITDA利益率は3.6%となり前年同期から大きく改善しました(2023年Q4は2.8%) ( Uber Technologies, Inc. - Uber Announces Results for Fourth Quarter and Full Year 2024 ) ( Uber Technologies, Inc. - Uber Announces Results for Fourth Quarter and Full Year 2024 )。これは広告収入の増加や規模拡大による効率化もありますが、安定収入源としての会員課金と高頻度利用客の増加が利益押し上げに寄与したと考えられます。Uber One会員はUber Eatsのデリバリー総予約額の約40%を占め (Uber One subscription is boosting delivery spend, frequency and user loyalty for Uber Eats | Restaurant Dive)、Uberにとって収益の柱の一つになりつつあります。また、2025年春には米国にてDelta航空との提携で会員にマイルを付与する試みも開始予定で (Uber CEO: Member Base Now 30 Million, Up 60% YoY)、さらなる付加価値提供により解約率の低減と長期的な収益確保を図っています。
地域別の展開例:
Uber Oneは現在提供国34か国とグローバルに展開されていますが ( Uber Technologies, Inc. - Uber Announces Results for Fourth Quarter and Full Year 2024 )、地域ごとの浸透度合いを見ると、北米での成功が際立ちます。例えば米国では、フードデリバリー市場で後発だったUber Eatsが2021年にUber Oneを投入して以降、定額制で先行していたDoorDashとの差を縮める一因となりました。また、ラテンアメリカやインドなどライドシェア利用が盛んな市場でも、デリバリー特典とライド割引を組み合わせたUber Oneはユーザー獲得に奏功しています(ブラジルやメキシコでもUber Oneを提供)。欧州・アジアでもサービス展開国を拡大し、各地域の学生向け割引プラン(Uber One Students)導入など現地ニーズに合わせた施策も行っています ( Uber Technologies, Inc. - Uber Announces Results for Fourth Quarter and Full Year 2024 )。地域別の具体的数値は公表されていないものの、各国のデリバリー市場参入と同時にUber Oneを導入する戦略により、新規市場でも早期にロイヤルユーザー層を育成している点が成功要因といえます。
競合との比較:
Uber Oneの競合としては、ライドシェアではLyftの「Lyft Pink」がありますが、こちらは主に乗車向け特典のみでフードデリバリー事業を持たないため、総合的な特典を提供するUber Oneに競争優位があります (Uber One subscription is boosting delivery spend, frequency and user loyalty for Uber Eats | Restaurant Dive)。フードデリバリー分野ではDoorDashのDashPassが最大の競合と言え、会員数はUber Oneより少ないものの(後述のとおり2023年時点で約1800万人)、先行者として一定の市場を築いています。一方でUber Oneはわずか2年強で会員数3000万とDashPassを凌駕する規模に成長しており (Uber CEO: Member Base Now 30 Million, Up 60% YoY) (DoorDash Monthly Users Hit All-Time High | Progressive Grocer)、ライド+デリバリーのクロスセル戦略が奏功した例と言えます。また、Amazonが提供する他社配送サービス(Amazonフレッシュや提携レストラン配送)とも間接的に競合しますが、Uber Oneはオンデマンド移動と食の両面で独自のエコシステムを形成して差別化を図っています。
成功のポイント:
Uber Oneの成功事例から得られる教訓として、サービス複合型の会員制が強いロイヤリティを生む点が挙げられます。異なるサービス間で相互に利用を促進し合うことでユーザーの囲い込み効果を高め、解約しにくい状況(Uber生活の浸透)を作り出しています。さらに、特典内容も逐次アップデート(例:優先配達や空港送迎優先などの新特典追加 (Uber CEO: Member Base Now 30 Million, Up 60% YoY))し、常に付加価値を拡充することで会員の満足度維持と継続率向上を図っています。価格設定も月額$9.99と競合と同水準に抑えつつ、Deltaマイル提携のような外部パートナー連携で他社にはない魅力を提供している点も優れた戦略と言えるでしょう。
DashPass(DoorDash)
概要と施策内容:
DoorDashのDashPass(ダッシュパス)は、2018年に開始されたフードデリバリー業界で先駆け的なサブスクリプションサービスです (Which company is winning the restaurant food delivery war? - Bloomberg Second Measure)。月額$9.99(年払いで$96)で、$12以上のレストラン注文や$35以上のスーパー/コンビニ注文に対する配達料無料、サービス手数料割引などの特典を提供します (Chase DoorDash Subscription What to Know - NerdWallet)。2022年には学生向けDashPass for Students(月額$4.99)も導入し (Which company is winning the restaurant food delivery war? - Bloomberg Second Measure)、若年層の取り込みも図りました。また、米国の大手銀行と提携してクレジットカード会員への無料提供キャンペーン(例:Chaseとの提携で特定カード保有者に最大2年間無料提供)を実施するなど (Which company is winning the restaurant food delivery war? - Bloomberg Second Measure)、プロモーション戦略にも力を入れています。
会員数の増加:
DashPassの会員数は順調に拡大を続けています。サービス開始から約3年で2021年末には1,000万人を突破し (Document)、その後も2022年末に1,500万人(前年比+50%)、2023年末には1,800万人超に到達しました (DoorDash Wants Its Subscription as Popular as Netflix) (DoorDash Monthly Users Hit All-Time High | Progressive Grocer)。特にパンデミック期の需要増を追い風に、2019~2021年で急増しています。DoorDashは2022年に欧州・アジアで展開するデリバリー企業Woltを買収しましたが、そのWoltの会員サービス(Wolt+)を含めた合算で2023年末の会員数が1,800万超となったことが発表されています (DoorDash Monthly Users Hit All-Time High | Progressive Grocer)。これは前年(2022年末)の1,500万強から約20%増で、伸びこそやや鈍化したものの依然として成長軌道にあります。CFOの発言によれば、「DashPass会員数はまだNetflixの2億人やAmazon Primeの1.7億人に比べれば桁違いに少なく、今後も成長の余地は大きい」としており (DoorDash Wants Its Subscription as Popular as Netflix)、同社は更なる会員獲得に自信を示しています。
売上増加への寄与:
DashPassはDoorDashの注文頻度と売上拡大に明確な貢献をしています。DashPass会員は非会員に比べ月間注文回数が約15%多く、平均すると月5.2回の注文を行うと分析されています(非会員は約4.5回) (DoorDash continues to grab share from Grubhub - Earnest Analytics)。この高頻度利用により、1ユーザーあたりの取扱高(GOV)が増加し、結果としてDoorDash全体のマーケットシェア拡大に寄与しました。事実、DoorDashは2018年当時14%だった米国シェアを2020年末に50%近くまで伸ばし、その成功の裏には業界で最も高い顧客リテンション率があったと指摘されています (DoorDash continues to grab share from Grubhub - Earnest Analytics)。2023年Q4の業績でも、総注文数は前年同期比+23%の5億7400万件、総取扱高は同+22%の176億ドルに達しています (DoorDash Monthly Users Hit All-Time High | Progressive Grocer)。会員数の拡大と既存会員の利用増による「ユーザー数×頻度」の両面の伸長が、このような二桁成長を下支えしたと考えられます。また、会員費収入そのものも収益源となり、2023年のサブスクリプション収入は前年を上回る勢いで増加しました(具体額は非公開ですが、注文量と会員数の増加から推察されます)。
リテンション率・顧客ロイヤリティ:
DoorDashはDashPass導入により利用者の囲い込みに成功しています。同社の内部資料によれば、DashPass会員は非会員よりも顧客維持率が高く、年間の注文回数も多いことが示されています (Document)。第三者調査でも「DoorDashは米国フードデリバリーで顧客リテンションが最も高い」と評価されており (DoorDash continues to grab share from Grubhub - Earnest Analytics)、その原動力の一つがDashPassです。ただし、有料会員ゆえの課題として、一定の解約率も見られます。Bloomberg Second Measureの分析では、2023年3月にDashPassに加入した利用者コホートのうち1か月後に69%が継続、6か月後には36%、12か月後には28%が継続していたと報告されています (Which company is winning the restaurant food delivery war? - Bloomberg Second Measure)。約3割が1年後も有料会員を続けている計算で、これはサブスクリプションビジネスとして決して低い数字ではありませんが、Amazon Primeなどの異例に高い継続率(後述)と比べると更なる価値訴求の余地も示唆しています。この点、DoorDashは学生割引プランやパートナー企業との無料期間提供でまず体験させ、その後定着させる戦略をとっており (Which company is winning the restaurant food delivery war? - Bloomberg Second Measure)、解約を防ぐため特典内容の拡充(例えば対象店舗の拡大、優先カスタマーサポート等)を続けています。実際、DashPass会員向けにはフード以外に日用品やコンビニエンス商品の配達も増やし、「生活インフラ的サービス」として手放せなくなる位置づけを目指しています。
利益率への影響:
DashPass注文は非会員注文に比べ1件あたりのコントリビューションマージン(貢献利益率)が低いものの、会員全体ではより高い注文頻度と長期利用によって総利益額の拡大に繋がっています (Document)。DoorDash経営陣も「DashPassは長期的な利益ドル最大化を図る戦略の体現だ」と述べており、目先のマージンよりもLTV向上を重視しています (Document)。2023年Q4のDoorDash全社のネット収益率は13.1%へ上昇し前年同期(12.6%)から改善しました (DoorDash Monthly Users Hit All-Time High | Progressive Grocer)。この背景には広告ビジネスの成長もありますが、DashPassによる安定収入とコアユーザー基盤が利益率底上げに貢献したと考えられます。また、DashPassにより注文総数が増えることで配車効率やバッチ処理効率が向上し、単位コスト低減にもつながっています。さらに、会員による高額注文(例えば家族向けの大口注文や高頻度な日用品注文)は手数料収入も大きく、長期では非会員を上回る収益性をもたらすことが示唆されています。
地域別の成功事例:
DoorDashは主に北米市場で成長してきた企業ですが、DashPassの成功はまずアメリカ国内で顕著です。米国では2020年以降、競合GrubhubやUber Eatsを抑えてシェアトップ(2024年3月時点で市場の67%)を維持しています (Which company is winning the restaurant food delivery war? - Bloomberg Second Measure)。この急成長を支えたのがDashPassによる都市部ユーザーの囲い込みであり、定額制で配達料を気にせず注文できるモデルがリピーターを増やしました。例えばニューヨークやロサンゼルスなど大都市圏では、月に10回以上注文するヘビーユーザー層がDashPassで大幅に拡大したとの指摘があります(具体数値は非公開ながら、会員全体の上位層が注文全体の相当割合を占めると推測されます)。一方、DoorDashは2022年に欧州・アジアのWolt買収を通じてグローバル展開にも乗り出しました。ヨーロッパではWolt+という同様のサブスクモデルを各国で展開し、例えばフィンランドやデンマークといったWolt発祥の地で高い利用率を記録しています。北米以外の地域ではまだ米国ほどの普及には至っていませんが、現地でのプロモーション(例えばドイツでの初月無料キャンペーン等)により会員基盤を拡大中です。今後はDoorDashブランドとしてもカナダやオーストラリアなど英語圏でDashPassを広げており、地域ごとの最適化(レストランパートナーの拡充やローカルプロモーション)によって各市場での成功事例を増やしています。
競合との比較:
フードデリバリー業界では主要各社が類似のサブスクリプションを提供していますが、その中でもDashPassの規模は最大級です(米国では加入者数でトップとみられる)。Grubhubは2020年にGrubhub+を開始しましたが、2022年にAmazon Prime会員向けに1年間無料提供する施策を打ったものの有料転換に課題があり、2023年には会員数減少が報じられています(※具体数値は非公開)。Uber Eatsは2021年末にUber Oneを立ち上げましたが、こちらは前述の通りライドシェア特典も含む独自色があります。会員数ではUber Oneが2024年時点でDashPassを上回っていますが (Uber CEO: Member Base Now 30 Million, Up 60% YoY) (DoorDash Monthly Users Hit All-Time High | Progressive Grocer)、DoorDashはレストラン数や提携チェーンの多さで優位性を保ち、特に郊外や地方都市での強みを発揮しています。加えて、競合が外部パートナー提携(UberのDelta連携やGrubhubのAmazon提携など)を行う中、DoorDashは自社チャネルでのオーガニック成長に重きを置いてきました (DoorDash Wants Its Subscription as Popular as Netflix)。その結果、会員の質(真にサービスを気に入って有料加入した層)が高く、経済環境の逆風に対しても堅実とされています (DoorDash will let customers gift DashPass subscriptions)。もっとも、今後は競合他社との連携も模索すると見られ、実際にChaseとの提携カード発行や学生層向けの無料パス提供など部分的にコラボを進めています (Which company is winning the restaurant food delivery war? - Bloomberg Second Measure)。総じて、DashPassは競合サービスと比べ一貫した高成長と市場シェア拡大を達成した成功例と評価できます。
成功のポイント:
DashPass成功の鍵は、シンプルな価値提案(配達料の即時節約)による大量ユーザー獲得と、パートナーシップ戦略にあります。月に3~4回以上注文する人にとって元が取れる価格設定($9.99)とし、初回1か月無料などハードルを下げたことで、大量のユーザーを会員化できました。さらに、Chaseや学生団体(Chegg)、ストリーミングデバイス(Roku)などとの提携 (Which company is winning the restaurant food delivery war? - Bloomberg Second Measure)でターゲット層ごとに訴求し、認知拡大と加入促進を図った点も奏功しています。また、サービスの範囲を食事の宅配から日用品・食料品配送まで広げたことで、ユーザーの日常生活に深く入り込み、他サービスへの浮気を防いでいます。DashPassから得られる教訓は、サブスクモデル成功にはコアバリューの明確化(ユーザーにとっての即効性あるメリット)とエコシステム拡大(利用シーンの拡張による解約抑止)が重要だということです。さらに、データ分析による需要予測とマーケティング(どの層が継続しどの層が離脱しやすいかを把握)を行い、例えば頻度が落ちたユーザーにクーポンを配るなど細かな施策で継続率を維持した点も見逃せません。このようにDashPassは、定額制モデルのROIを最大化するための総合的戦略の好例と言えるでしょう。
Instacart+(Instacart)
概要と施策内容:
Instacart+(インスタカートプラス)は、食料品宅配プラットフォームであるInstacartが提供するサブスクリプション会員サービスです。元々は2015年にInstacart Expressとして開始され (Instacart - History Timelines)、2022年6月にInstacart+へ名称変更・リニューアルされました (Instacart - Wikipedia)。年額$99(月額$9.99)で、$35以上の注文に対する配達料無料とサービス手数料の一部免除、提携小売店での割引、優先カスタマーサポート等の特典が受けられます (Instacart IPO | S-1 Breakdown ‒ Meritech Capital)。また、Instacart+ではアカウント共有機能が導入され、家族や同居人2名までを無料で追加し共同で特典を利用できるようになりました (Instacart - Wikipedia)。さらに、Chase発行のInstacart提携クレジットカードを作成すると1年間無料になるなど、金融機関とのコラボ施策も展開しています (Free Instacart+ Membership & Credits for Select Chase Cardholders)。
会員数の増加:
Instacart+(旧Express)の会員数は着実に増えてはいるものの、他のオンデマンド系サービスに比べると規模は小さめです。2022年6月時点で約460万人の会員が存在し、1年後の2023年6月には510万人へと約11%増加しました (Instacart IPO | S-1 Breakdown ‒ Meritech Capital)。成長率はUber OneやDashPassのような爆発的伸びではないものの、Instacart全体のユーザーベース自体がフードデリバリー各社より小さいことを踏まえると、コアユーザー層の相当部分が会員化しているといえます。実際、2023年上半期のデータでは、総取扱高(GTV)の57%がInstacart+会員による注文で占められており (Instacart IPO | S-1 Breakdown ‒ Meritech Capital)、売上の過半を会員が支えている状況です。なお、Instacartは2023年9月に株式上場(IPO)しましたが、そのS-1書類でも有料会員数の増加が強調されており、投資家へのアピールポイントとなっていました。
売上・利用動向への効果:
Instacart+は、同サービスにおける1ユーザー当たり売上の大幅増加をもたらしています。平均して、Instacart+会員は月に4回の注文で合計461ドルを支出しているのに対し、非会員は月2回の注文で223ドルの支出に留まります (Instacart IPO | S-1 Breakdown ‒ Meritech Capital)。つまり会員は非会員の2倍の頻度で注文し、支出額は約2倍強と大きな差が生まれています。この結果、会員ひとり当たりの年間取扱高は非会員を大幅に上回り、5年間の累積では非会員の6.2倍ものGTV(総流通額)をもたらすとの分析もあります (Instacart IPO | S-1 Breakdown ‒ Meritech Capital)。Instacart全体の売上成長率はパンデミック期に急伸した後近年はやや落ち着いていますが、それでも2023年通年の売上高は30億ドル超と前年比約15%増収(推計)を維持しています (Instacart - statistics & facts - Statista)。この安定成長を下支えするのが、継続課金による安定収入と高LTV顧客であるInstacart+会員と言えるでしょう。また、Instacartは広告事業(CPGメーカーからの広告収入)が売上の約30%を占めるビジネスモデルですが (Instacart IPO | S-1 Breakdown ‒ Meritech Capital)、会員は非会員より買い物額が大きく広告ターゲットとして価値が高いため、結果的に広告売上の増加にも寄与しています。つまり、Instacart+は直接的な会費収入だけでなく、周辺ビジネスの収益性向上にも貢献しているのです。
リテンション率・ロイヤリティ:
Instacart+は利用者の囲い込みに効果を発揮しています。公式に継続率データは公開されていませんが、前述のように会員の注文頻度が高いことから、一度会員になると習慣的にInstacartを使うユーザーが多いと推察されます。実際、Instacartの2023年Q2時点の全体ユーザーの四半期ごとのリテンション率は61%程度でしたが (How did Instacart's grocery delivery sales fare ahead of its IPO?)、有料会員に限定すればこれを上回る可能性が高いです。加えて、Instacart+では家族アカウント共有が可能なため、家族ぐるみでサービスにロックインされる仕組みになっています。例えば夫婦やルームメイトで1つの会員権を共有すると、そのグループ全体がInstacartを積極的に使うようになります。こうした仕組みにより、競合のWalmart+やAmazonフレッシュなど他の食料品宅配サービスへ乗り換えにくくしており、ロイヤリティ向上に繋がっています。また、Instacartは2022年以降クレジットカード会社との提携プロモーションを展開し、Chase Sapphireカード保有者に半年から1年の無料Instacart+を提供するなどの施策をとりました (Chase's Instacart benefit: Cardholders can save up to $15 per month)。これによりまずユーザーに便利さを体験させ、その後有料会員として残ってもらう戦略です。実際、こうした提携により数十万規模の新規会員を獲得したと推定され、サービス全体のリテンション向上に寄与しています。
利益率への影響:
Instacart+の提供によって、Instacartの単独取引あたりの収益は一部減少します。なぜなら配達料(通常3.99ドル~)が無料になるため、その分の収入を放棄する形になるからです。しかし、Instacartは小売店からの手数料や広告収入が大きな収益源であり、会員が増えることで注文数・注文額が増加すれば小売提携収入と広告収入が増え、総合的な収益は向上します (Instacart IPO | S-1 Breakdown ‒ Meritech Capital)。実際、Instacartの営業利益率は黒字転換して以降安定しており、2022年には初めて年間黒字を計上しました (Instacart - statistics & facts - Statista)。これは全体の注文成長鈍化にもかかわらず利益を出せる構造になったことを意味し、その背景にはサブスク会費という高マージン収入と、会員の高アクティブ率による運用効率の向上があると考えられます。例えば、一定以上の需要量が見込めると配送ネットワークの最適化(配達バッチあたりの件数増など)が進み、単位コストが下がります。Instacart+会員は注文頻度が高いため、配送ダイヤの平準化にも貢献し、結果として1注文あたりコスト削減と利益率改善に繋がっています。また、年会費前払いのモデルはキャッシュフロー上も有利で、事前にもらった会費を顧客サービスやマーケティングに再投資できる点でも事業に好循環をもたらしています。
地域別の成功事例:
Instacartの事業は主に北米(米国・カナダ)市場に限定されています。そのため、Instacart+の地域的な成功事例も北米内で語る形になります。米国内では、ニューヨークやサンフランシスコなど大都市圏でInstacart+の普及率が高く、忙しい都市生活者が定期的に食料品を注文するライフスタイルを根付かせました。特にニューヨークでは車を持たない住民も多く、週1回以上のペースでInstacartを利用するヘビーユーザーが多いため、配達料定額制との親和性が高かったと言えます。また、カナダにおいてもInstacart Express(現Instacart+)が早期から導入され、トロントやバンクーバーなどの都市部でスーパーマーケットのオンライン需要を開拓しました。競合のWalmartが自社サービス(Walmart SparkやWalmart+)を展開していない地域では、Instacart+が事実上の標準的サービスとなり、地元スーパーと提携して独占的地位を築いたケースもあります。例えば、一部の地方都市では地域密着型スーパーの宅配をInstacartが一手に引き受け、その常連客にInstacart+へのアップグレードを促すことで成功した例があります。このように、地域別ではありませんが提携先小売店別に見ると、Instacart+を通じて特定チェーンの優良顧客を囲い込むという成功パターンが生まれています。
競合との比較:
食料品宅配の分野では、Instacart+に相当するサービスとしてWalmart+やAmazon Prime (Amazon Fresh利用時)、Target傘下のShiptなどが存在します。Walmart+は年額$98でWalmart店舗の商品配達が無料になるサービスですが、2023年時点の会員数推計は数百万人規模とされ(正確な数値は非公表)、Instacart+の会員数(510万人)と同程度かやや少ない程度と見られます。一方、Amazonはプライム会員向けに生鮮食品配達サービス(Amazon Fresh)を展開しており、一定額以上の注文で配達料無料となる点でInstacart+と類似しています。ただ、Amazon Freshはプライム会費に内包され追加費用不要で利用できるため、食品宅配単体の収益性ではInstacartとは異なるモデルです。そうした中、Instacart+は純粋な食品宅配サブスクとしては老舗かつ最大級の規模であり、競合Shipt(Targetが運営する年額$99の配達パス)は会員数非公開ながらInstacart+には及ばないと推測されます。Instacartは以前DoorDashと買収交渉の噂もありましたが (Which company is winning the restaurant food delivery war? - Bloomberg Second Measure)、依然独立路線を貫いており、自社会員基盤の価値を高めています。総合すると、Instacart+は競合ひしめく中で食品宅配に特化した強固な会員エコシステムを築き、他社の参入を防ぐ参入障壁の一つとなっています。
成功のポイント:
Instacart+の事例からは、定期的需要のあるサービスでのサブスクリプション導入が有効であることがわかります。食料品は典型的な反復購入商材であり、週単位での注文ニーズがあります。そこで配達料を定額にすることで、ユーザーは心理的障壁なく何度も注文できるようになり、結果として売上が伸びる好循環を生みました。また、家族共有機能の追加はユニークな施策で、これによって実質的に「1契約で複数顧客を囲い込む」ことに成功しています。さらにInstacartは、プラットフォーム上でのユーザー行動データを蓄積し、どの会員がどのくらい注文するかを細かく分析してサービス改善につなげています。例えば頻度の高い会員にはパーソナライズされたクーポンを提供し、更なる利用を促進しています。また、パートナー企業との協業(クレジットカード会社との提携)も功を奏しました。無料期間やキャッシュバック特典でまず会員に引き込み、その価値を体感させた上で本会員化させる手法は、DashPassなど他社にも通じる成功パターンです (Which company is winning the restaurant food delivery war? - Bloomberg Second Measure)。Instacart+の場合、特に食材宅配という習慣化しやすいサービス特性が追い風となり、一度入ったユーザーが抜けにくい「スイッチングコストの高い状況」を作れたことが最大の勝因と言えるでしょう。
Amazon Prime(Amazon)
概要と施策内容:
Amazon Prime(アマゾンプライム)は、EC最大手のAmazonが2005年に開始した有料会員プログラムであり、サブスクリプションモデル成功例の先駆けと言えます (Amazon Prime Statistics (2025) — Subscribers & Revenue)。年間プランは現在139ドル(日本では4900円) (Amazon Prime Statistics (2025) — Subscribers & Revenue)で、加入者は無制限の無料お急ぎ配送に加え、Prime Video(動画見放題)、Prime Music(音楽聴き放題)、独占セール(プライムデー)への参加、Prime Reading(電子書籍)など多岐にわたる特典を利用できます。料金は値上げを繰り返しつつもサービス拡充で支持を集め、「何でも屋的バンドル」として年々価値提案を強化しています。学生向け割引(半額以下)プランや、他社サービスとのバンドル(携帯プラン加入でのPrime付与等)も行われています。
会員数の増加:
Amazon Primeはその長い歴史の中で爆発的な会員数拡大を遂げました。2005年のローンチ当初は米国のみで数十万人規模でしたが、その後グローバル展開と特典充実により世界で2億人以上の会員を抱えるまでに成長しました(2020年時点で2億人、2019年の1.5億人から33%増) (Amazon Prime Statistics (2025) — Subscribers & Revenue)。公式発表では「2021年時点で全世界2億人突破」とされています (Amazon Prime Statistics (2025) — Subscribers & Revenue)。以降細かな更新はありませんが、推計では2024年に約2億2500万人に達するとされています(年率5-10%程度の成長)。特にアメリカ市場における普及が顕著で、2022年時点で米国のPrime会員数は約1億6830万人に上り (Amazon Prime Statistics (2025) — Subscribers & Revenue)、これは米国人口の約半数、世帯数ベースでは7660万世帯(全米世帯の約60%)が加入している計算です (Amazon Prime Statistics (2025) — Subscribers & Revenue)。米国以外でも、欧州(英国・ドイツを中心に数千万規模)、日本(1,500万以上と推定)、インド(会費を大幅に下げ急速拡大中)など多くの地域で成功を収めています。Prime会員数は既に非常に大きいため成長率自体は鈍化していますが、2023年時点でも米国で前年比+3~4%程度の増加が続いています (Amazon Prime Statistics (2025) — Subscribers & Revenue)。
売上増加への寄与:
Amazon PrimeはAmazonの売上成長エンジンとして機能してきました。Prime会員は非会員に比べ圧倒的に多く購買することが各種調査で示されています。例えば、ある調査ではPrime会員の年間購入額は平均1,400ドルで、非会員の600ドルを大きく上回りました (Amazon Prime Customers Spend More Than Others: Report - Business Insider)。この差は年々拡大する傾向にあり、2017年時点ではPrime会員1,300ドル vs 非会員700ドルだったものが、2018年には1,400ドル vs 600ドルと開きが増えています (Amazon Prime Customers Spend More Than Others: Report - Business Insider)。Prime加入後には年間購買額が$400から$900に増えたとのデータもあり (LukeW | Data Monday: Amazon Prime)、加入による売上増加率は+125%に達します。結果として、Amazonの売上全体に占めるPrime会員からの売上比率は非常に高く、2011年時点で既に全米売上の20%がPrime会員によるものとの分析もありました (LukeW | Data Monday: Amazon Prime)。現在ではさらに高まっている可能性があります。また、Amazonは毎年プライムデーと呼ばれる会員限定大型セールを開催していますが、2023年のプライムデー売上は世界で129億ドル(約1.9兆円)に達し過去最高を記録しました (Amazon Prime Statistics (2025) — Subscribers & Revenue)。このようなイベントドリブンな売上増も含め、PrimeはAmazonのトップライン成長に不可欠です。実際、Prime提供開始以降のAmazonの年平均成長率は加速し、2005年から約15年で年商は10倍以上に膨れ上がりました。さらに、会員に紐づく購買データを活用したパーソナライズ推奨や、Prime特典としての新サービス投入(例:Amazon Fresh、Prime Wardrobeなど)によってクロスセルが進み、一顧客あたり売上の最大化が図られています。
リテンション率・ロイヤリティ:
Amazon Primeの顧客ロイヤリティは極めて高く、継続率はサブスクリプションサービスの中でも突出しています。米国市場での調査では、初年度の更新率が93%、2年目以降では98~99%に達するとのデータがあります (Amazon Prime Statistics (2025) — Subscribers & Revenue)。つまり、一度Prime会員になった顧客の大半が翌年も継続し、2年継続すればほぼ全員がそれ以降も会員を続ける計算です。別の調査でも「Prime会員の92%が更新を予定している」と報告されており (LukeW | Data Monday: Amazon Prime)、解約率が極めて低いことがわかります。高いロイヤリティの要因として、提供価値の総合力が挙げられます。買い物での送料・速達メリットに加え、映像・音楽・書籍・ゲーム特典など生活全般に及ぶサービスが含まれるため、ユーザーにとってPrimeをやめることは「生活の質を下げる」ほど大きな機会損失に感じられます。また、心理的なスイッチングコストも存在します。ある調査では、Prime会員の82%が他店の方が安くてもAmazonで買い物をすると回答しており (LukeW | Data Monday: Amazon Prime)、一度Primeの便利さに慣れると多少の価格差は気にせずAmazonを使い続ける傾向があります。このように、Primeはユーザーの購買習慣をAmazon一色に染め上げる強烈なロイヤリティ効果を発揮しています。
利益率への影響:
Amazon Primeは長年「収益度外視の投資」とも言われてきましたが、近年では収益源・利益源として大きな役割を果たしています。2023年にはPrime会費などサブスクリプション部門の売上が402億ドルに達しました (Amazon Prime Statistics (2025) — Subscribers & Revenue)。これは配送コストやコンテンツ投資を差し引いても相当な利益貢献となっています。初期の頃、AmazonはPrime会員1人当たり年間90ドルをサービス提供に費やし、会費との差額約11ドルを赤字負担しているとの試算もありました (LukeW | Data Monday: Amazon Prime)。しかしこの赤字は会員数拡大と規模の経済で徐々に解消され、現在では会費収入だけでShippingコストをほぼ賄える状況とみられます。例えば、2021年に米国会費を年119ドルから139ドルに値上げした際には、配送網強化やプライム・ビデオへの投資増を理由としましたが、その裏には収益性の改善もあったと推測されます。加えて、Primeは他部門の利益も底上げします。AWS(クラウド)など直接Primeと関係ない部門であっても、Primeによるエコシステム拡大がAmazon全体のブランド力・資金力を高める好循環が生まれています。また、Prime会員はAmazonでの購入頻度が高いため、マーケットプレイス出品者からの手数料収入増や広告事業の拡大にも寄与し、総合的に見てAmazonの営業利益率向上に貢献しています。一方で、競合に対抗するための値下げや追加投資も続いており、必ずしも会費収入=純利益ではありません。しかしAmazonは顧客生涯価値(LTV)の最大化を第一に据えており、Primeによる囲い込みで長期的な利益確保を狙う戦略を一貫して採っています。その成果として、2020年代に入ってからのAmazonのフリーキャッシュフローや利益率は安定成長傾向にあり、Primeが収益面でも支柱となったことを示しています。
地域別の成功事例:
Amazon Primeの成功は世界各国で見られますが、特にアメリカ本国での成功は群を抜いています。米国では前述のように世帯普及率が約60%に達し (Amazon Prime Statistics (2025) — Subscribers & Revenue)、もはや社会インフラに近い存在となっています。地方に住む人でも年会費を払って当日配送を受けるほど浸透しており、小売業界の消費行動を一変させました。欧州でもイギリス・ドイツを中心に数千万単位の会員がいます。イギリスでは有料テレビに匹敵する規模でPrime Videoが視聴されているとの調査があり、Prime特典の一部である映像サービスが英国市場でNetflixと並ぶ存在感を持つまでになりました。インドは興味深い成功例で、2016年に月数ドル相当の低価格でPrimeを導入し、以降急激に会員を増やしています。2021年時点でインドのPrime会員数は2000万人規模と推定され、会費収入は低くとも将来のAmazon利用者基盤を先行者優位で確保する戦略が奏功しています。また日本でも数百万人規模の会員(正確な公表はないが推定1500万超)が存在し、物流網の効率化とあいまってEC市場シェア拡大に貢献しました。このように、Primeは各国で市場環境に合わせた価格設定・特典調整を行いローカライズ戦略で成功しています。たとえばインドではモバイル通信とのバンドル販売、ヨーロッパではサッカー中継など地域密着コンテンツの提供、日本では配送特典に加え特売(日替わりセール)強化など、その国のユーザーニーズにあわせて進化してきました。結果として、どの地域でも競合小売が対抗サービスを出す状況(Walmart+など)を作り出し、世界的に見ても他社に真似されるほど成功した会員モデルとなっています。
競合との比較:
Amazon Primeは小売・ECにおけるメンバーシッププログラムの金字塔であり、多くの競合がそのモデルを追随しています。代表的なのがWalmart+(ウォルマートプラス)で、Walmartによる年間会費制サービスです。価格はPrimeよりやや安いものの(年$98)、特典も配送無料やガソリン割引、ストリーミング提携など類似点が多く、「Walmart版Prime」と言われます。会員数では依然Primeが圧倒的に多く、2023年時点で米国におけるPrime会員約1.8億人に対し、Walmart+は推定6000万弱との報道もあります (Amazon Prime, Walmart+ Subscription Battle May Be Decided by ...)(※この数字には諸説ありますが、Primeの約1/3程度との見方が一般的です)。その他、小売各社も独自の有料会員を導入しています。例えば百貨店のTargetはShiptを通じた配達パスを提供し、百貨店Macy'sも有料ロイヤルティプログラムを試験導入しましたが、いずれもPrimeのスケールには遠く及びません。また、動画ストリーミングや電子書籍など異業種サービスとの複合会員という点でもPrimeの競合は見当たらず、NetflixやDisney+など単機能のサービスとは一線を画します。総じて、Amazon Primeは「競合がいないことが競合」とも言える独自の存在となっており、他社が部分的に模倣しても同等の価値提供には至っていないのが現状です。
成功のポイント:
Amazon Primeの成功要因は多岐にわたりますが、特に重要なのは提供価値の圧倒的充実と長期視点の投資です。まず、ユーザーにとって年会費以上の価値を感じさせるために、複数分野のサービスをまとめて提供するバンドル戦略をとりました。送料無料というコア特典だけでなく、映像・音楽・書籍といったデジタルコンテンツを付加することで、「たとえEC利用が少なくても元が取れる」と思わせる総合力が会員のすそ野を広げました。次に、利益度外視でもユーザーベースを増やす長期戦略です。創設当初、配送コスト超過で赤字になっても会員を増やし続けたことで、結果的に競合他社との絶対的な規模の差を生み出しました (LukeW | Data Monday: Amazon Prime)。このスケールメリットにより物流網の投資効率が上がり、現在では他社が追いつけない低コスト配送を実現しています。さらに、データ活用と顧客体験の最適化も重要です。Prime会員の購入履歴データを活かし、レコメンデーションや品揃え改善に反映することで、会員がよりAmazonで買い物しやすい環境を整えました。また、Prime Dayのような大型イベントで会員限定の特別体験を提供し、会員であることの満足度を高めています。こうした継続的なエンハンスにより、「最初は送料無料のためだけに入ったが、今では動画も音楽も使っているのでやめられない」といったユーザーを増やすことに成功しました。まとめると、Amazon Primeは段階的な価値拡大と顧客中心主義によって、ユーザーに愛され収益にも貢献する理想的なサブスクリプションモデルを築き上げたのです。
各施策の比較・総合考察
導入前後の成長比較:
4社のメンバーシップ施策はいずれも、導入前と比べて事業成長を加速させました。UberはUber One導入(2021年末)以降、デリバリーとライドのクロスユースを促進しユーザーエンゲージメントを強化、2024年には会員数+60%増とサービス利用の加速を実現しました (Uber CEO: Member Base Now 30 Million, Up 60% YoY)。DoorDashはDashPass開始(2018年)後、顧客リテンションと注文頻度で競合をリードし、2018~2020年に市場シェアを14%から50%近くまで急拡大させています (DoorDash continues to grab share from Grubhub - Earnest Analytics)。InstacartはExpress開始(2015年)前は単発利用が中心でしたが、会員制導入後は売上の半分以上が会員由来となるほど定着し (Instacart IPO | S-1 Breakdown ‒ Meritech Capital)、継続課金モデルで安定成長軌道に乗りました。Amazonに至っては、Prime導入(2005年)前後で売上成長率が飛躍的に向上し、Primeなしでは成し得なかった市場支配力を築いています (LukeW | Data Monday: Amazon Prime)。このように各社とも、メンバーシップ導入前と後では売上・利用指標に明確な差が生まれており、サブスクリプションモデルの威力を示しています。
競合との比較:
競争環境を見ると、メンバーシップ施策は各業界で模倣と差別化の連鎖を生んでいます。Amazon Primeが成功すると小売各社が追随し、Walmart+など類似サービスが誕生しました。また、DoorDashのDashPass成功を受けてUberやGrubhubもサブスクを導入し、現在ではフードデリバリー大手は全て会員プログラムを持つ状況です (Which company is winning the restaurant food delivery war? - Bloomberg Second Measure)。その中で成功している企業は、自社の強みを生かした差別化を図っています。Uber Oneはライドシェアとの複合特典でユニークさを出し (Uber One subscription is boosting delivery spend, frequency and user loyalty for Uber Eats | Restaurant Dive)、Amazon Primeは小売の枠を超えた包括的サービスで圧倒的差別化を果たしました。一方、差別化に出遅れたGrubhubやWalmart+などは、他社との提携や価格戦略で巻き返しを図っています(例:GrubhubはAmazonと提携しPrime会員に無料提供)。総じて、競合優位に立つには単なる価格競争ではなく独自の付加価値が不可欠であり、4社の成功例はそれを体現しています。
リテンション率とユーザー行動:
サブスクリプションモデルの効果として共通するのは、リテンション率(継続率)の飛躍的向上です。Amazon Primeの継続率がほぼ90%以上 (Amazon Prime Statistics (2025) — Subscribers & Revenue)と驚異的なのは前述の通りですが、Uber OneやDashPassも「会員の方が非会員より継続利用しやすい」という傾向が明確に出ています (Uber One subscription is boosting delivery spend, frequency and user loyalty for Uber Eats | Restaurant Dive)。有料会員になると、特典を活用しようとする心理が働き(サンクコスト効果)、結果としてそのサービスに留まることになります。ただ、各社の数字を比較すると継続率の絶対値には差があります。Amazon Primeは年更新型かつ特典バンドルが広範なため解約が少なく (LukeW | Data Monday: Amazon Prime)、一方DashPassは月額制で特典がデリバリー中心のため解約率がやや高め (Which company is winning the restaurant food delivery war? - Bloomberg Second Measure)と言えます。この差から学べるのは、特典の幅広さと更新サイクルが継続率に影響するということです。他社が参考にするなら、できるだけ多面的なメリットを提供し、ユーザーの日常に食い込むことで解約抑止につなげるべきでしょう。また、定期課金の頻度も考慮ポイントで、月額より年額一括の方が心理的負担が年1回となり継続率は上がる傾向があります。実際、Uber OneやInstacart+でも年額プランを用意して割引を効かせることで、長期コミットを促しています。
売上・利益への影響:
メンバーシップ施策は短期的な売上貢献に留まらず、顧客あたり売上高と利益率の構造自体を変えています。各社とも会員は非会員に比べ支出額が大幅に多く(+50~100%以上) (Amazon Prime Customers Spend More Than Others: Report - Business Insider) (Instacart IPO | S-1 Breakdown ‒ Meritech Capital)、これが売上増加率を押し上げる主因となっています。さらに、会費というストック収入が積み上がることで、売上の安定性が増し計画的な投資が可能になります。利益面では、一件あたりのマージンは会員特典によるディスカウントで低下する場合がありますが、LTVの向上で十分補填されてプラスに転じるのが共通する結果です (Document)。DoorDashやUberのように「一人当たりの利益ドル」で見れば会員の方が大きいという考え方が、サブスク成功企業のマインドセットです (Document)。また、サブスクにより需要予測がしやすくなるため在庫・人員計画の最適化が進み、結果的にコスト効率が上がるという副次効果もあります。例えばAmazonはプライム会員の購入データから地域ごとの需要を予測し配送ネットワークを構築しており、これが低コスト配送と迅速なデリバリーを両立する秘訣となっています。総じて、メンバーシップは売上拡大と利益率改善の双方を実現する強力な施策であり、4社の事例はそれを裏付けています。
地域戦略とグローバル展開:
メンバーシッププログラムは各地域の市場特性に合わせたローカライズ戦略が重要です。Amazon Primeは各国で価格や特典を調整し地域ごとに成功を収めました(例:インドでは低価格戦略で大量普及) (Amazon Prime Statistics (2025) — Subscribers & Revenue)。Uber OneやDashPassも、サービスを展開する各国で現地のニーズに合わせ学生プランを提供したり、提携先を増やすなど地場対応を行っています ( Uber Technologies, Inc. - Uber Announces Results for Fourth Quarter and Full Year 2024 )。一方、Instacartのように北米特化で成功するケースもあります。重要なのは、地域ごとに競合環境や消費者行動を分析し、それに適した特典内容やプロモーションを行うことです。他社がグローバルに会員施策を展開する際は、「ある市場で成功したモデルを別の市場に丸ごと持ち込む」のではなく、現地の文化・経済状況に合わせてローカライズすることが成功のカギとなります。
プロモーション戦略と提携:
4社の事例に共通するのは、外部パートナーとの提携による会員獲得を巧みに活用している点です。DoorDashはChaseや学生向け企業との提携で無料会員を拡大 (Which company is winning the restaurant food delivery war? - Bloomberg Second Measure)、UberはDelta航空との提携で新たな付加価値を付与 (Uber CEO: Member Base Now 30 Million, Up 60% YoY)、Instacartもクレジットカード会社との協業で顧客基盤を広げました (Chase's Instacart benefit: Cardholders can save up to $15 per month)。Amazonは自社内完結型ではありますが、プライムデーなどのイベントでメーカー各社と協調しプライム限定商品を提供するなど、間接的な協力関係を築いています。これらの成功例は、会員施策を自社単独の取り組みに閉じず、エコシステム全体で価値を高めることの重要性を示しています。他社が会員プログラムを運用する際も、自社だけで特典を用意しきれない場合は提携による補完を検討すべきです。例えば、小規模なECであれば決済サービスやコンテンツプロバイダと組んで会員に付加価値を提供するといった戦略が考えられます。
他企業への示唆:
以上の分析から、他の企業が参考にできるポイントをまとめると以下のようになります:
価値訴求の明確化と総合力: 会員費に見合う価値をわかりやすく提供すること。送料無料や割引といった直接メリットに加え、周辺サービスもバンドルすることで「入って損なし」の状態を作る (LukeW | Data Monday: Amazon Prime)。特に、コアサービスに対する補完的サービスを組み合わせると効果的(例: Amazonの動画、Uberのライド特典)。
顧客習慣への埋め込み: サブスクモデル成功には、サービスを日常生活の一部にすることが重要。他社より便利・お得な体験を積み重ねて、「これがないと困る」と思わせるレベルに到達すれば高い継続率が得られる (LukeW | Data Monday: Amazon Prime)。そのために、継続利用を促す仕掛け(ポイント、ランク、限定セール等)も有効。
初期投資と長期視点: 最初は割引や無料期間提供などで積極的に会員を増やし、規模効果を狙う。短期的な損失が出ても、長期LTVで回収するという長期視点が不可欠 (Uber One subscription is boosting delivery spend, frequency and user loyalty for Uber Eats | Restaurant Dive)。KPIも月次収益より年間・生涯価値に重点を置くべき。
データ駆動型の最適化: 会員の利用データを収集・分析し、解約予兆のある顧客への働きかけ(例: 利用頻度が落ちたらクーポン送付)や、人気特典の強化などPDCAを回す。成功企業はこのデータ活用が巧みで、常にサービスを改善しています。
継続的な価値向上: 会員プログラムは始めて終わりではなく、継続的なアップデートが必要です。Amazon Primeが毎年のように新特典を追加しているように、既存会員に飽きさせない工夫が大切です。UberやDoorDashも学生プラン追加や新サービス連携など絶えず拡充しています ( Uber Technologies, Inc. - Uber Announces Results for Fourth Quarter and Full Year 2024 ) (Which company is winning the restaurant food delivery war? - Bloomberg Second Measure)。
競合との差別化: 仮に競合もサブスクを持っている場合、自社ならではの強み(品揃え、サービス範囲、提携先など)を前面に出す。差別化ポイントがないと価格競争に陥りやすいため、唯一無二のメリットを磨くことが得策です (Uber One subscription is boosting delivery spend, frequency and user loyalty for Uber Eats | Restaurant Dive)。
以上、Uber One、DashPass、Instacart+、Amazon Primeの事例に見るように、メンバーシップ施策は売上・会員数の拡大、顧客定着率の向上、利益率改善において大きな効果を発揮しました。それぞれの成功には独自の工夫がありますが、共通して言えるのは「顧客に長期的な価値を提供し、その見返りとして企業も長期的な利益を得る」というWin-Winの関係を構築できた点です。これらの教訓は、サブスクリプションモデルを検討する他業界の企業にとっても大いに参考になるでしょう。