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TuroのIPO撤退でスリムなIPOパイプラインがさらに細くなる

2025年のテクノロジーIPO市場は、もともと新たな銘柄の上場が活発ではないといわれていました。しかし、先日ピア・ツー・ピア(P2P)の自動車レンタル・プラットフォームであるTuro(トゥーロ)がIPO計画を撤回したというニュースが伝わり、既に細っていたIPOパイプラインがさらに一段と縮小したことが明らかになりました。Turoは長年、上場準備を進めてきたユニコーン企業の一つとして知られてきましたが、ここにきて「現時点では新規公開を行う意向がない」という姿勢を示し、正式に証券申請を取り下げています。

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本記事では、TuroのIPO撤回に至る経緯や背景、IPO市場に与える影響、そして今後の展望について、具体的な引用や事例を交えながらわかりやすく解説します。


1. TuroのIPO撤回がもたらす衝撃


1-1. Turoとは何か

Turoは、2009年に創業したピア・ツー・ピア型の自動車レンタル・サービスです。個人が所有する車を他の人に貸し出すことを仲介するプラットフォームで、「世界最大のカーシェアリング・マーケットプレイス」を自称していました。
初期には「個人間で車をシェアする」という画期的な発想が注目を集め、ウーバー(Uber)やエアビーアンドビー(Airbnb)などと同様に、いわゆる“シェアリングエコノミー”の草創期を支えてきた企業の一つと見なされていました。

1-2. 長年の期待と大きな出資

Turoは創業以来、多数のベンチャーキャピタルから約5億ドル規模の資金を調達し、IACやG Squared、August Capitalといった投資家が主要な株主となってきました。
「カーシェアリング市場は、ライドシェア(例:Uber)や短期宿泊(例:Airbnb)ほどの爆発的成長には至らなかった」と言われるものの、特定の車種をリーズナブルな価格で借りられる利点や、レンタカー大手では見つからない高級車や特殊車両に乗れる特徴もあって、一定の支持を集めてきました。そうした背景から、Turoは上場企業として十分に成長が期待できると見られていたのです。

2. 撤回の背景:新年早々の悲劇とブランドイメージへの打撃


2-1. 新年の惨事

Turoが、IPO撤回を決定する直前の2025年1月1日、サービスを通じてレンタルされた車両が関与する悲劇的な事件が相次ぎました。
一つ目の事件は、ニューオーリンズの有名観光地であるバーボン・ストリートで発生し、「男がTuro経由で借りたフォードF-150ライトニングを暴走させ、15人が死亡、35人が負傷」したと報じられています。
また、二つ目の事件は、ラスベガスのトランプ・インターナショナル・ホテル前で起きた爆発で、「Turoでレンタルされたテスラ・サイバートラックが爆破に使用された」とされました。幸いにも人的被害の詳細は一部伏せられていますが、上場を控えた企業にとって、これほどの悪影響は計り知れないといえます。

2-2. 企業側の対応と世間の不信感

Turo側は、この一連の事件を受け、捜査機関への協力姿勢を示しつつ、「どちらの事件の容疑者も事前に犯罪歴が確認できるような人物ではなかった」との見解を発表しました。とはいえ、自社のプラットフォームが重大な犯罪に利用された事実は、ブランドにとって痛手です。法的責任の所在以上に、世間からの不信感を招いてしまう可能性が高いといえます。
当然ながら、これは上場のタイミングとしては、「最悪のシナリオの一つ」といえます。新規株式公開の直前に重大事件が連続して発生し、プラットフォームの安全性・チェック体制の甘さを疑問視される事態になれば、投資家や市場の評価に大きな影響を与えます。

3. 事前に見えていた成長と数字の実態


3-1. 最新のIPO目論見書に示されていた業績

Turoは、2024年11月に更新したIPO目論見書において、「世界最大のカーシェアリング・マーケットプレイス」という自己評価に加え、同年1月から9月までの売上高が7億2,200万ドルに達したことを公表していました。前年同期比で約8%の増収となり、比較的堅調な伸びを示していたのです。
この売上規模こそ、UberやAirbnbのような大手プラットフォームとは大きくかけ離れていますが、シェアリング経済をベースに収益を上げている点で投資家からの注目度は高く、上場による資金調達が期待されていました。

3-2. 長期化していた準備期間

TuroのIPO計画は、かなり以前から噂されており、2021年から2022年ごろには、「数十億ドル規模のバリュエーションでの上場が近い」とも報道されていました。しかし、市場環境の悪化やテック企業への投資熱の冷え込みなど複数の要因が重なり、Turoの上場計画は後ろ倒しの状態が続いてきたのです。そうした中でようやく更新目論見書が提出されたものの、結局は今回の悲劇的な事件とブランドイメージへの懸念が重なり、撤回に至ったとみられています。

4. テックIPOのパイプラインがさらに細る理由


4-1. 市場全体の停滞感

ここ数年、米国市場で大きな話題をさらうテックIPOは数が限られていました。「2024年末の時点で、2025年に上場が確実視されるようなハイプロフィール企業はかなり少ない」といわれており、IPO市場の盛り上がりに期待が持てない状況が続いています。
本来、新規公開企業が増えるほど市場に活気が生まれ、投資家の選択肢も広がります。しかし、Turoのように上場候補とされてきたユニコーン企業がパイプラインから抜けてしまうと、ますます「将来の成長株」に投資する機会が減少するのです。

4-2. Confidential Filingの存在

一方で、「AIチップの開発企業Cerebras」や、「出張・経費管理プラットフォームのNavan(旧TripActions)」がConfidential Filing(秘密裏のIPO申請)をしていると噂されており、これらが正式に上場への動きを見せれば、久々に活況が戻る可能性も取り沙汰されています。
しかし、「公開ベースでのIPO申請が目立たない」現状では、投資家や市場関係者が具体的な数字やリスク要因を把握できず、「いつになったら新たな有望銘柄が出てくるのか」という不透明感が強いと言わざるを得ません。

5. 2025年以降の見通しと注目点


5-1. 2025年の静かな始まり

2025年に入ってからの米国テック企業IPOは、「ServiceTitan」といった住宅関連サービス向けプラットフォームの上場があったものの、それ以外はめぼしい動きが見られず静かなスタートとなっています。Turoの撤回もあいまって、「さらなる上場候補の撤退があるのでは」という悲観的な見方を示すアナリストも少なくありません。

5-2. 投資家心理の回復には時間が必要か

大手ハイテク企業が軒並み不透明な経営環境に直面していることも、IPOの勢いを削いでいる要因の一つといわれています。インフレ圧力や金利の上昇、不安定な国際情勢など、2025年の経済状況は好材料に乏しく、投資家がリスクを取りにくい状況が続いているのです。
実際、多くのテック企業がキャッシュを確保するために上場を急ぐよりも、プライベート市場での追加調達や事業合理化を進める姿勢を見せています。IPOが投資家や一般社会に対して企業の将来性を訴える場である一方、失敗すれば大きな資本コストやブランドイメージの低下につながるリスクも抱えているのです。

TuroのIPO撤回は、単なる一企業の判断にとどまらず、2025年のテックIPO市場全体の厳しさを象徴する出来事となりました。シェアリングエコノミーの中でも比較的有名な企業が、「上場目前で事件に巻き込まれる」という最悪のタイミングを経験したことで、ブランドイメージと投資家からの信頼を同時に揺るがしてしまったのです。
現在の市況では、そうした「予期せぬリスクへの警戒感」が高まっており、今後も他のユニコーン企業が計画を延期または撤回する可能性は十分に考えられます。一方で、CerebrasやNavanなどが本格的に上場へ動き出せば、市場に新たな息吹がもたらされるかもしれません。
いずれにせよ、「2025年のIPOラッシュ」のような大きなブームはすぐに訪れないと見る向きが強いのが現状です。投資家心理と企業戦略、さらには世界経済の行方が相互に影響を及ぼす中、テック企業のIPO市場は暫くのあいだ、様子見の姿勢が続くことになりそうです。


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