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【Sequoia Capital】Dropboxの創業物語

Sequoia Capital
Sequoia Capitalは、シリコンバレー発の世界トップクラスのベンチャーキャピタルとして、Apple、Google、Airbnbなど、時代を変える企業を支援してきた実績を誇ります。革新的なスタートアップを見出し、彼らのビジョンを現実に変えるパートナーとして、50年以上にわたり成長と成功をリードしています。


Dropbox ft. Drew Houston - How the Cloud Pioneer Reinvented Itself

クラウドストレージの代名詞として知られるDropboxは、忘れがちなUSBメモリへの不満から生まれた“シンプル”な発想を出発点に、競合ひしめく市場を生き抜いてきました。TechCrunch Disruptでのデモ失敗、MailboxやCarouselの買収と終了、AWSからの大規模移行「Magic Pocket」など、幾度もの決定的転機をくぐり抜けた背景には何があったのか。本稿では、創業期から最新のAI活用まで、Dropboxの挑戦の軌跡と学びを掘り下げます。

2007年、まだオンラインストレージという概念が一般的でない時代に、MIT出身のDrew Houston(ドリュー・ハウストン)とArash Ferdowsi(アラシュ・フェルドウシ)は、Dropboxを立ち上げました。発端は「USBメモリを忘れてバスに乗ってしまい、作業できなかった」という単純な不便への怒り。そこから「どこでもファイルにアクセスできるフォルダ」を作ろうと、最初のコードをバスの座席で書き始めたのです。

初期段階ではスタートアップ支援のY Combinatorに応募しようとしましたが、共同創業者が必要だと指摘され、二人は急いで意気投合。幸運にもハッカー向けサイトで話題を集めたデモ動画が追い風となり、最初の資金調達に成功します。しかし当時すでに大手IT企業は類似のサービスを開発中で、「GoogleやMicrosoftといった巨大企業が同じことをやるなら勝ち目はないのでは」と投資家からも疑問視されました。それでも「自分たち自身が使いたくなるほど完成度の高いサービス」を徹底した結果、ユーザーは「競合の類似サービスにはない安定性と使いやすさ」を強く評価。徐々にDropboxの評判は高まっていきました。

大きな転機の一つは2008年のTechCrunch Disruptでの“失敗”です。会場のWi-Fiが突然不安定になり、デモ画面でファイルの同期が起こらないという最悪の事態が世界中に配信されました。創業メンバーはステージ裏で落胆しましたが、「社内が動揺するほど自分たちも取り乱してはいけない」と気持ちを切り替え、直後から懸命に開発とサービス改善に注力しました。結果的に、この危機対応の姿勢は社内の結束を強め、さらに後押しとなったのが紹介(リファラル)プログラムです。紹介者と新規ユーザーの両方にストレージ容量を付与する“両面インセンティブ”が爆発的なviral 効果を生み、ユーザー数は急速に増加。やがて世界中でクラウドストレージといえばDropbox、と認知されるようになっていきました。

その後、成長を加速させるための新製品開発や買収が矢継ぎ早に行われました。中でも注目を浴びたのはモバイルメールアプリのMailboxと写真管理アプリのCarouselです。しかし、Mailboxは競合サービスに革新的機能をまねされ思うように拡大できず、Carouselはユーザー獲得に苦戦。結局、大胆な判断としてこれらを終了させることになります。創業当初の「使いやすさとシンプルさ」を軸に企業向けコラボレーションへ集中投資する決断は痛みを伴いましたが、同時に「何に本当に集中するか」を明確化する転機ともなりました。

さらなる大転換はAWS(Amazon Web Services)から自社インフラへの移行、通称「Magic Pocket」プロジェクトです。一般的には自社で大規模データセンターを持つのは巨大IT企業だけという印象が強いなか、膨大なコストとエンジニアリングリソースを投じて実現へ動き始めました。当時、DropboxはAWSの最大級の顧客の一つでしたが、データ容量が急増するに連れて「インフラコストとサービス品質を自前で最適化する」必要に迫られていたのです。わずか数名の精鋭エンジニアが集結し、ソフトウェア面・ハードウェア面両方で徹底的な検証を実施。ハードの搬入が物理的に追いつかず、トラックの事故やデータセンター側の搬入口の逼迫といった不測の事態にも対応しながら、期限内にクラウド上のデータを完全に移し切りました。大規模なハード投資を経て自社インフラを整備したことで、コスト競争力だけでなくエンジニアリング面の独自性が高まり、最終的には収益性の大幅改善とIPO成功を後押しする鍵となったのです。

そして今日、Dropboxはビジネス用途やコラボレーション機能を拡充しつつ、AI分野にも力を注いでいます。ファイル単位の同期から「情報を整理・検索し、チームをシームレスにつなぐ」次世代のコラボレーション基盤へ。その一環として、複数のクラウドサービスをまとめて横断検索できるDropbox Dashなど新機能を発表するなど、新たなステージへの挑戦を続けています。創業時から変わらぬ「ユーザーファースト」の姿勢と、激変するテクノロジーへの柔軟な適応こそがDropbox最大の強みと言えるでしょう。

USBメモリの紛失や複数デバイス間のファイル管理の不便を解消する、というアイデアから始まったDropboxは、幾度もの転機を乗り越えてクラウド時代を代表する企業へ成長しました。デモの失敗やサービス終了といった痛みも、集中すべき本質を見極める糧となり、最終的には自社インフラ構築まで手がけるスケールへと到達。これまでの軌跡は、新しいアイデアや技術に挑む際の“学び”の宝庫だといえます。


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