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VCから起業:Zehra Naqviが語るVCでの経験、「Lore」の挑戦

「何かに夢中になる“オブセッション”こそが、ビジネスの原動力になる」。
そう力強く語るのが、VC投資家として名を馳せ、自らも若くして起業家の道を歩んできたZehra Naqvi(ゼーラ・ナクヴィ)です。シンガポールで生まれ、香港で育ち、パキスタン系のバックグラウンドを持つ彼女は、10代の頃からアメリカのポップカルチャーやトレンドを追いかけ、「ファンガール」としてTumblrPinterestを駆使しながらコミュニティを作り上げました。さらに中学時代には、当時まだ香港に進出していなかったアメリカの人気ブランド――例えば、Bath & Body Worksなどのアイテムを仕入れては、同級生たちが「ブラックマーケット」(いわゆる校内限定の闇市!)で高額転売しているのを目の当たりにし、「本当にほしいものをもっと気軽に手に入れたい」という友人たちの思いから、最初のビジネスをスタート。これが彼女の起業家としての第一歩となりました。


10代で起業:“Glow”誕生秘話


Zehraがまだ10代の頃、当時香港では、Forever 21やJusticeといったアメリカの若者向けブランドがほとんど手に入らず、若者が憧れるYouTubeやJ14、Teen Vogue、Seventeenなどのアメリカン・ポップカルチャー誌の情報が3~4か月の時差を持ってようやく届くような状況でした。そこで彼女と妹は、Instagramによるインフルエンサー施策を駆使し、地元で入手困難なアメリカ発のファッションを取り扱うECブランド「Glow」を創業。もともと中学生がはじめた小規模ビジネスでしたが、SNSの波に乗って急速にスケール。自作のiMovie動画によるプロモーションや、Instagramでのインフルエンサーマーケティングを積極的に展開し、見事に事業を軌道に乗せ、学生ながら利益をあげるまで成長させました。

Zehraいわく、当時は「年齢的な“恐れ知らず”の強み」が大きかったと言います。若いからこそ「失敗を恐れない」、「とにかく楽しむ」というマインドセットがあり、まだ誰もやっていない方法で事業を進めることに迷いがなかったのです。この経験は、後の彼女が「創業者(Founder)」としての道を歩む上で、大きな自信とノウハウを与えてくれました。

FounderとEntrepreneurの違い?


Zehraは、しばしば「Founder」と「Entrepreneur」の呼称の違いについて語ります。一般的に、VCスケールに乗るようなスタートアップの創業者を「Founder」と呼び、オーガニックに利益をあげる中小規模の事業者を「Entrepreneur」と呼ぶ風潮があるといいます。しかし、彼女は「ビジネスの大小や資金調達額で優劣を付けることには違和感がある。どちらも問題を解決しようとする起業家である点では変わりがない」と語ります。VCから調達しなくても、独自にブランドを成長させる力こそが真の魅力であり、そのどちらを選ぶかはあくまで事業の性質や個人のビジョンによるもの。彼女自身、“Glow”はVCスケールではないながらも成功を収め、「Entrepreneur」としての輝かしい第一歩となりました。そして今、彼女は「Founder」として新たな挑戦に挑むのです。

さらなる学びを求めて:VCとAngel Investorの世界へ


大学進学のためにニューヨークへ渡ったZehraは、Columbia大学で学びながら、Sephoraのような大手ビューティーブランドのスタートアップから、フィンテックやキャットフードのD2Cブランド、ワードローブ管理のコンシューマー向けアプリなど、多様な企業でインターンを経験。こうした経験を通じて気づいたのは、「どの創業者も資金調達、とりわけVCとのやりとりに苦労している」という現実でした。

そこで、彼女はスタートアップ向けの投資プラットフォーム「Republic」に参加。ここではAngel Investorや小口投資家がスタートアップへ投資する仕組みを整備し、コミュニティと資金の“民主化”を目指していました。さらにVCファンド「Headline」にて投資家としてのキャリアを積むことで、創業者と投資家の両面を深く理解。多くのFounderが、「大企業からの巨額投資を受けるだけではなく、コミュニティからの支えを得る意義」に気付く現場を目の当たりにし、Zehra自身もAngel Investorとして次々と企業に出資していきました。

その際、彼女が常に重視したのが「創業者のオブセッション(執着・情熱)」。どれほどビジネスモデルや数字が魅力的でも、創業者から“本物の熱意”が感じられなければ投資には至らないというのです。Zehraは、「問題に対する執着心こそが根源的な原動力。オブセッションのない事業は、よほど運がよくないと難しい」と断言します。

「Z-list」がもたらすコミュニティの力


Zehraは、独自に構築したコミュニティ型のニュースレター「Z-list(ズィー・リスト)」を通じ、Angel Investorたちと起業家をつなぐ活動を続けてきました。これは、彼女が出会ったスタートアップの情報を投資家に共有し、投資が成立すれば、FounderとVC両方の成功を後押しする仕組み。最初は数十人のメール配信から始まりましたが、SNSや口コミが広がり、いまや数万人規模の読者を抱えるまでに成長。単なるメルマガにとどまらず、オフライン・ディナーの開催やピッチイベントを実施するなど、リアルの場でもコミュニティづくりを加速させています。

ここで重要なのは、「ギブの精神」です。Zehra自身、「相手にまず価値を与える」姿勢こそが、強いコミュニティの基盤になると語ります。お互いに有益な情報をシェアし、Founder同士やVC同士、Angel Investor同士を結びつける。その積み重ねが、いざ自分が助けを必要とする時に大きな力となって返ってくるというわけです。

新たな挑戦:ファンとオタクの楽園「Lore」とは?


そして、いよいよZehraは、再び創業者(Founder)として新たなプラットフォーム「Lore(ロア)」を立ち上げます。構想そのものは8年前から抱いていたものですが、現在のAI技術の進化が背中を押し、本格的に形にする段階へと至りました。

Loreのコンセプト

  • 「ファンダム(Fandom)」のための居場所
    TumblrやPinterest、Redditなどを行き来して、好きな作品やアーティストの情報を追いかける――そんな人々の時間と労力を「Lore」が大幅に削減。「自分が熱狂しているジャンル」の最新情報やディープな考察を網羅的に集約し、手軽にアクセスできるようにします。

  • 「オブセッション×コミュニティ」重視
    例として、Zehraが子どもの頃から愛してやまないOne Direction、近年再び熱狂している人が増えているLord of the Rings、あるいはPercy Jacksonシリーズなど、ファンが“狂おしいほど好き”なトピックをフォローすれば、関連ニュースやSNS上の盛り上がりなどが自動的に届く仕組み。ユーザーが「自分の好きな世界観」に深く没入することをサポートします。

  • AIが可能にする主観的検索
    Z世代のみならず、あらゆる世代のファンダムが求めるのは、膨大なネット情報の中から“自分の欲しいものだけ”を即座に引き出す体験です。Loreでは、AI技術を用いて、単なるキーワード検索ではなく、トピックの“いちばんディープな部分”や“背景にあるストーリー”を瞬時に引き出すことを目指します。

  • ビジネスモデルは、「ノー広告」路線へ?
    Zehraは、「Loreを開くたびに広告に邪魔されるのではなく、“自分の日記”のように愛着が持てる場所にしたい」と語ります。現時点での構想では、広告モデルではなく別の方法で収益化するプランを検討中。2024年のバレンタイン・デー前後にMVP(最小限のプロダクト)を公開し、ユーザーの反応を確かめながら柔軟に発展させていくとしています。

オブセッションが導く未来


Zehraは、「これからのインターネットは、よりコミュニティ指向になり、かつ“本気で好きなもの”に没入できる場が見直される」と予測します。

  • かつてのTumblrやPinterest、Teen Vogueへの熱狂が、AI技術の進化とともに新しい形で甦る。

  • 好きなアーティストの最新情報を12時間後に知るのではなく、リアルタイムで受け取りたい。

  • Liam PayneやOne Direction関連のビッグニュースを漏れなくキャッチし、愛する作品が映画化・舞台化される情報をいち早くチェックしたい。

そんな「熱狂の再定義」が始まりつつあり、Zehraはその中心に「Lore」を据えたいのです。

自身の“ファンガール”としての原体験と、VC投資家としての知見を融合し、Zehra Naqviは、「Lore」という新たなプラットフォームを立ち上げようとしています。幼少期に香港で培った大胆さと、Columbia大学在学中から積み上げてきたスタートアップ支援の経験は、彼女のコミュニティ構築力をさらに強固にしました。いま、Zehraが提唱する「Obsession」と「Community」は、スタートアップや新規ビジネスに限らず、すべての人にとって学びのヒントとなるはずです。

企業やサービスが乱立する現代、「本当に大好きなもの」を深く追求したいという需要は高まる一方。Loreが、「バレンタイン・デー」前後からどう進化し、世界中のFandomをどのように再定義していくのか、私たちはその行方を注目し続けたいと思います。Zehraのオブセッションがどんな未来を創りだすのか——それこそが、次世代のインターネットの“ロア(Lore)”となるのかもしれません。


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