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半導体巨人インテルの試練——50年史上最悪の株価暴落、その背景と復活への道筋

2023年は、半導体業界の巨人であるインテル(NASDAQ: INTC)にとって試練の年となりました。年初から株価は約60%も下落し、今月初めには単日で26%という50年の歴史で最悪の暴落を記録しました。この急落は、同業他社であるマイクロン・テクノロジー(NASDAQ: MU)が21%上昇、エヌビディア(NASDAQ: NVDA)が161%上昇、アプライド・マテリアルズ(NASDAQ: AMAT)が25%上昇と、市場平均を大きく上回るパフォーマンスを示している中で起こりました。これらの企業が成長を続ける一方で、インテルの苦境は際立っています。


市場シェアの低下と技術革新の遅れ


インテルはここ数年、グローバルなチップ市場でのリーダーシップを維持するのに苦戦しています。特に、モバイルデバイスの普及とAIチップへの需要増加が同社のコアビジネスを直撃しています。この結果、市場シェアの低下が顕著となり、2021年度以降、1株当たりの収益と利益はそれぞれ34%と54%も減少しています。

一方で、エヌビディアやAMDなどの競合他社は、AIや機械学習向けの高度なチップ開発で市場を牽引しています。エヌビディアは、特にAIチップの分野で圧倒的なリードを保ち、その株価は年初から大幅に上昇しています。この技術革新の波に乗り遅れたインテルは、市場での競争力を失いつつあります。

資金調達と戦略的投資


インテルは、この危機的状況を打開するために積極的な資金調達と投資を行っています。2022年には、ヨーロッパにおける半導体製造施設への800億ユーロ(約10兆円)もの巨額投資計画を発表し、ドイツ、フランス、アイルランド、イタリア、ポーランド、スペインなどでの拠点拡大を図っています。また、米国では、CHIPS法による政府支援を活用し、国内生産の強化と供給網の多様化を進めています。

さらに、インテルは資本市場からの資金調達も積極的に行っています。株式や社債の発行を通じて資金を調達し、その資金を研究開発や生産設備の拡充に充てています。特に、次世代の7nmプロセス技術への投資を加速させ、競合他社に追いつくことを目指しています。

経営陣の取り組みと投資家の懸念


経営陣は、再建計画を策定し、業績回復に向けたロードマップを示しています。CEOのパット・ゲルシンガー(2024年12月1日退任)は、2021年の就任以降、技術革新と製造能力の強化を中心とした戦略を推進しています。彼のリーダーシップの下、インテルは、IDM 2.0戦略を発表し、自社製造と外部調達を組み合わせた柔軟な生産体制の構築を目指しています。

しかし、一部の取締役の辞任や経営方針に対する不透明感が投資家の懸念を呼んでいます。特に、経営陣の間での意見の相違や、市場トレンドへの適応の遅れが指摘されています。それにもかかわらず、ゲルシンガーCEOは「ムーアの法則」の継続を掲げ、技術的なリーダーシップの回復に強い意欲を示しています。

今後の見通しと復活への道


インテルは、2024年度に向けて、売上高が590億ドルに達すると見込んでいます。これはAIやデータセンター向け製品の需要増加を見込んだものです。また、コスト最適化の取り組みが進めば、利益率の改善も期待できます。特に、インテルは新しいファウンドリ事業を強化し、他社のチップ製造を受託することで新たな収益源を確保する計画です。
投資家にとっては、現在の株価約20ドルは過剰に下落している可能性があります。市場分析企業Trefisは、インテルの公正価値を30ドル程度と推定しており、長期的な視点で見れば投資妙味があると考えられます。

インテルは復活できるのか?


インテルの株価は、ここ数年で大きく変動しており、市場平均を下回るパフォーマンスを示しています。しかし、同社は積極的な資金調達と戦略的投資を通じて、復活への道を歩もうとしています。技術革新のスピードを上げ、市場のニーズに即した製品を提供できれば、再び業界のリーダーシップを取り戻す可能性があります。
投資家にとっては、不確実性の高い時期ではありますが、インテルの持つ潜在的な価値に注目する必要があります。今後の業績や市場動向を注視しつつ、中長期的な投資戦略を検討することが重要です。

インテルの試練と挑戦は、半導体業界全体にとっても重要な示唆を与えています。技術革新と市場適応力が企業の存続を左右する中、インテルがどのようにカウンターアタックを仕掛けていくのか、今後の展開から目が離せません。

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