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【a16z】ハイパーセンターとコンピュート砂漠の間で小国が勝ち残る方法

a16z
フェイスブックやAirbnbなどへの投資で知られる米国を代表するトップクラスのVC


AI Is Becoming a Regional Race

AI(人工知能)は、電気や印刷機に並ぶ「汎用技術」として社会全体に革命的な変化をもたらしています。現在、国々はAIをどのように取り入れるかという重要な岐路に立たされています。選択肢は2つ、「自国で開発するか(ビルド)、他国や企業から購入するか(バイ)」。特にリソースが限られる小国がどのようにAIインフラを整備し、競争力を保つのかについて具体的な戦略を考える必要があります。

汎用技術としてのAI:その特性と重要性


AIは、電力や印刷技術と同様に、人類の社会基盤を広範囲に変革する力を持つ汎用技術です。汎用技術の普及には特有のステップがあります。

  1. 採用の初期段階
    国家はAIを受け入れるか否かを問います。現状では多くの国がすでにAIを採用しており、この問いはほぼクリアされています。

  2. ビルドかバイか
    次の課題は、自国で技術を開発するか、他国や企業から購入するかという決断です。この選択は国家の技術的独立性や競争力に直結します。

ハイパーセンターとコンピュート砂漠


AI開発の最前線に位置する国々は「ハイパーセンター」と呼ばれます。これらの国は以下の特徴を持ちます。

  • 高度な計算能力(GPUやクラウドインフラ)。

  • 質の高いデータセットと専門知識。

  • 巨額の資金を投じた研究開発体制。

一方、リソースが不足している国々は「コンピュート砂漠」と呼ばれ、取り残されるリスクに直面しています。小国が技術的に孤立しないためには、以下の具体的なアプローチが求められます。

AIインフラ整備に必要な4つの要素


  1. 計算能力(Compute)
    AI技術の基盤となるGPUやデータセンターの確保が最重要です。例えば、NVIDIAは世界中の政府から大規模な注文を受けています。GPU確保の競争では、12~36ヶ月前に発注しないと市場で遅れを取ることが明らかです。

    • 事例: サウジアラビアは石油収入を背景に、大規模なGPU購入とデータセンター建設を進め、AI開発のハブ化を目指しています。

  2. エネルギー資源
    AIを支えるデータセンターには膨大な電力が必要です。特に、中東諸国は豊富な石油・天然ガス資源を利用し、低コストのエネルギー供給によるAI投資を加速しています。

    • 事例: フランスは20年前からの原子力推進政策が功を奏し、効率的なエネルギー供給によるAIインフラを構築しています。

  3. 高品質なデータ
    AIモデルのトレーニングには、膨大かつ多様なデータが必要です。しかし、多くの国ではデータ規制が課題となっています。アメリカでは、2024年だけで700件以上の州レベルのAI関連法案が提出され、企業が適応に苦労しています。

    • 解決策: 国際的なデータ共有協定を締結し、信頼できるデータへのアクセスを確保する。

  4. 政策と規制
    明確で一貫性のあるAI政策が、技術発展を支える鍵です。特に小国は、柔軟な規制と効率的なパートナーシップ戦略を採用する必要があります。

    • 事例: シンガポールやルクセンブルクはハイパーセンターと連携し、税制優遇措置や柔軟な規制によりAI研究拠点を誘致しています。

小国が取るべき具体的な戦略


  1. 価値観の一致を優先
    AIモデルにはトレーニングデータ由来の文化的価値観が組み込まれます。小国は、価値観が一致する国や企業と提携することが重要です。

    • : アイルランドはEUの法的枠組みを活用し、AI技術の倫理的基盤を整備しています。

  2. 共同開発の推進
    小国はハイパーセンターと共同でAIモデルを開発することで、技術的孤立を防ぎつつ、自国の専門知識を蓄積できます。

    • 事例: アラブ首長国連邦(UAE)は、GoogleやMicrosoftと協力し、独自のAI研究拠点を設立しました。

  3. 資源を活用した比較優位の確立
    自国の強みを活かし、技術的パートナーを引き寄せる戦略が有効です。

    • 事例: ノルウェーは再生可能エネルギーを活用し、AIデータセンターの建設を促進しています。

民間企業との連携の必要性


AI開発における政府と民間企業の役割分担は国ごとに異なります。

  • 中国の事例: 民間企業は法的に政府支援を義務づけられています。

  • アメリカの事例: 民間企業が自律的に技術開発を進める一方で、規制の不明確さが課題となっています。

小国はアメリカ型の柔軟なアプローチを参考にしつつ、自国に最適なパートナーシップモデルを構築することが求められます。

AI時代における成功は「ビルドかバイか」の選択にあります。具体的には、価値観の一致を重視したパートナーシップの形成、計算能力やエネルギーの確保、柔軟な規制体制の導入が鍵です。小国であっても適切な戦略を採用することで、技術的主権を確立し、AIの未来における競争に勝ち残る可能性があります。この新たな技術革命の波に乗ることで、小国もまたAIインフラの重要なプレイヤーとなり得るのです。


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