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次世代防衛技術の最前線!AIが変える戦争の未来
近年、ロシアによるウクライナ侵攻など、世界規模の紛争リスクが高まるなか、軍事技術や安全保障に関する議論が一気に活発化している。特に米国では、「次世代の防衛テクノロジー」が大きな注目を集めており、AI(人工知能)や自律型兵器システム、ドローン技術などを駆使するスタートアップが台頭し始めた。
本稿では、2017年創業のディフェンステック企業「Anduril(アンドゥリル)」の取り組みを軸に、AIが戦争のかたちや国防産業そのものをどう変えようとしているのかをわかりやすく解説する。さらに、米国防総省(DoD)が抱える従来型の調達・開発プロセスの問題点、そして新しいアプローチとして注目されている“固定価格契約”や商業技術の活用がもたらす可能性にも迫る。
Anduril創業の背景:国防産業は「変革の余地だらけ」
Andurilの共同創業者たちは、元々ビッグデータ分析企業Palantir(パランティア)などに在籍し、政府機関や国防分野へソフトウェアを提供する仕事に携わっていた。そして「国防にはテクノロジーの導入余地がまだまだある」という危機感と、「既存の国防企業にはスピードやイノベーションが欠けている」という問題意識から、2017年に新しい防衛テック企業を立ち上げたのだ。
さらに、Facebook傘下になったVR企業Oculusの元創業者であるパーマー・ラッキー氏も加わり、ハードウェア・ソフトウェア双方に強いチームが結集。そこに大手VCの支援や投資が重なり、創業直後から急速な成長基盤を築く。最初に開発したのは、監視カメラとレーダーを組み合わせた「Sentry(セントリー)」という自律型の国境監視システムだった。高性能GPUやコンピュータビジョンを活用し、砂漠のような過酷な環境にも対応可能な設計をたった数か月で形にしてみせた。
AIが戦争のかたちを変える要因:情報の爆発的増大と自律化
AIの進歩が、「戦争のかたち」に大きな影響を与えるとされる最大の理由の一つは、圧倒的な量の情報処理が可能になる点だ。ドローンや衛星、センサー類、レーダーなど現代の戦場には膨大な“目”が存在する。
たとえば、「もし世界中の船・航空機・地上兵力のすべてがどこにいるか正確にわかる完璧なAIシステムがあったとしたら?」という問いかけがあったとき、その情報量は人間の能力をはるかに超える。AIはこの莫大な情報をふるいにかけ、脅威となりうる対象を瞬時に洗い出せるだけでなく、敵の動きがいつもと異なるのか、何らかの欺瞞工作ではないか、といった分析まで高速に行う。
自律型システムへの期待
さらに、ドローンなどの自律型システムの運用が「人間の負荷を大きく減らす」点もAIの威力を押し上げる。従来の無人機(UAV)であっても、実際には人間のオペレーターが遠隔操作をする必要があった。しかし、高度な自律性能が備われば「このエリアを偵察せよ」という大まかな命令だけで、複数の無人機が最適ルートを自動で計算し、対象の捜索から報告までを実行できるようになる。
こうした“オートメーション”の進歩は、兵士の危険を減らすだけでなく、高速かつ大規模な作戦展開を可能にする。まさに「より少ない兵力で、より大きな防衛力を発揮できる」ことこそがAI活用の核心だ。
既存の調達体制の歪みと変革の機運
では、なぜ現行の国防システムでは、こうした先端技術の導入が遅れがちなのか。その理由としてよく言及されるのが、米国の「コストプラス方式」だ。これは第二次世界大戦期に確立された仕組みで、企業が開発にかかったコストに一定の利益率を上乗せして報酬を得る契約形態である。
しかし、この方式では、コストや開発期間が膨らむほど企業の利益が増えやすくなるという問題点がある。結果として、25年以上かかったF-35戦闘機のように、膨大な時間と資金を投入しながら量産・実戦配備までに大幅な遅延や予算超過が発生するケースが後を絶たない。
一方、スペースXのように“固定価格契約”で新世代ロケットの開発に成功した例もあるように、「必要な性能を明確に定義し、それを達成すれば企業の収益が確定する」モデルに転換することで、イノベーションとコスト削減が一気に進む可能性がある。Andurilも固定価格ベースで開発を請け負い、短期間で成果物を示すスタイルを実践し、勢いを得ている。
商業テクノロジーとの融合がもたらすブレークスルー
AIやエレクトロニクス技術が商業分野で爆発的に進化している今日、国防領域でも最新の民生技術を積極的に取り入れることで急速な開発が可能になっている。
エレクトロニクス部品の汎用化
従来、電子戦用のジャマー(電波妨害装置)などを一から開発しようとすると、大量の専用部品を特注する必要があった。しかし、現在では、5G関連の高性能部品を流用すれば、はるかに低コストかつ短期間で開発できる。民間製造技術の活用
航空機の外装を「アクリルバスタブ」に使われるホットプレスの製法で成形したり、燃料タンクを玩具などに使われる回転成形(ロトモールド)で製造するといった手法が可能になってきた。Andurilは、こうした“意外な民生技術”の積極的な転用により、安価で大量生産が利くシステムを構築している。AI研究への投資と連携
近年、ChatGPTなどを提供するOpenAIをはじめ、多数の企業や研究機関が最先端AIを猛スピードで開発している。Andurilは、そうした基盤モデルを活用し、軍事向けにカスタマイズすることで、防空システムやドローン群制御などで最適化を図る。ある意味、「自社でAIモデル自体の研究をゼロから行うより、最良の既存技術を統合する」アプローチが鍵となる。
将来へのビジョン:抑止力としてのAI
AIが軍事に導入されることに対しては、しばしば「ターミネーター」的なシナリオが懸念される。しかし、実際には「最終的な武器使用の判断には人間が責任を持つ」という方針が米国では厳格に貫かれる。あくまでAIは意思決定を補助し、膨大なデータを整理してヒトの判断をサポートするツールである。
また、長期的に見れば、軍事の自律化が進むほど「自国の兵士のリスクが下がり、世論の反発や政治的負担も下がる」ため、抑止力が高まりやすくなるという見方もある。実際、先端兵器システムを多数運用する国に対しては、敵対的行動を起こすリスクが増すからだ。むしろ防衛を強化しておくことで「戦争にならない状況」を作り上げる――これこそが“デターレンス”(抑止力)の真髄である。
Andurilのようなスタートアップの台頭は、従来の巨大国防企業とは異なるビジネスモデルとスピード感で軍事・安全保障の技術革新を加速している。そこには、AIの進歩や商業ベースでの急成長といった追い風があるものの、依然として米国防総省の複雑な調達プロセスやコストプラス方式の弊害といった課題も残る。
しかし、こうした課題を乗り越え、実際にドローンや自律型センサーシステムを実戦投入し、短期間で成果を出した成功事例は増えつつある。国際情勢が不安定化するなかで、国防関連に携わる人々も「本気で変わり始めている」というのは、ウクライナ紛争や各種の新技術の導入状況を見れば明白だ。
最先端のAIを国防に活かし、大量のセンサー情報を高速処理して被害を最小化する――これは人類にとって、より「安全な将来」を構築するチャンスでもある。もちろん、戦場における意思決定は人間が担うべきという倫理観・安全保障上のルール作りも不可欠だ。一方で、古い体制や非効率な仕組みにしがみつくならば、国防における脆弱性が増すリスクも否めない。
「AIを使えば何もかも自動化できる」わけではない。だが、AIや商業技術を国防に積極活用し、短期間でシステムを実用化する流れは加速していくだろう。そこに真摯に向き合い、倫理・安全性・効率性のバランスを取りながら推進できるかどうか――まさに今、国防の未来を大きく左右する岐路に私たちは立っている。