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2024年第4四半期のクリプトVCトレンド
2024年第4四半期のクリプト(暗号資産)市場は、依然としてマクロ経済や規制環境の影響を受けつつも、VC(ベンチャーキャピタル)の投資額は前年とほぼ同水準を維持するなど、着実な成長を示しました。本記事では、PitchBookのEmerging Tech Researchレポート「Q4 2024 Crypto VC Trends」(2025年2月7日公開)のプレビューをもとに、2024年第4四半期におけるクリプトVC投資の動向を総合的に解説します。専門的なトピックをわかりやすく整理しながら、実際の資金調達事例やセグメント別の分析結果を交えて紹介していきます。
1. 2024年第4四半期のクリプトVCトレンド
1-1. 全体概況
2024年第4四半期(以下、Q4)におけるクリプト関連のVC投資額は、前四半期比(QoQ)で13.6%増加し、22億ドルから25億ドルへと上昇しました。しかし、投資件数は、411件から351件へと14.6%減少しており、「投資家の資金供給意欲は一定の水準を保ちつつも、投資対象を厳選している」という選択的投資の傾向が強まっています。
さらに、2024年通年では、投資総額が100億ドル、件数は1,940件となり、2023年(103億ドル・1,936件)とほぼ同水準でした。これは「マクロ経済的な逆風や規制上の課題を抱えながらも、依然として暗号資産分野が投資先として魅力を保っている」ことを示唆しています。
1-2. 評価額と調達金額の特徴
2024年は、シードからアーリーステージの企業における評価額(バリュエーション)が大きく上昇した点が注目されます。たとえば、シード期(プレシード含む)の中央値は、前年の1,180万ドルから2,000万ドルへ、アーリーステージでは、2,500万ドルから5,230万ドルへと大幅に上昇しました。
一方、レイトステージは4,370万ドルから4,530万ドルへとわずかな上昇にとどまり、ミドルステージ・レイトステージ企業の調達がやや慎重になっている様子がうかがえます。実際の調達金額でも、シード期の中央値は、2023年の250万ドルから300万ドルへと20%上昇し、アーリーステージは、380万ドルから480万ドルへ約26.9%増加しました。その一方、レイトステージは、640万ドルから630万ドルへわずかに減少しています。
「成熟したプロジェクトほど大規模資金に頼らず、必要最小限の調達でランウェイを伸ばす傾向にある」と指摘されており、これは依然として先行き不透明なエグジット環境や、市況の不確実性を見据えた戦略的調達姿勢と言えるでしょう。
2. クリプトVCエコシステムとセグメント
2-1. インフラストラクチャ/開発者ツール
Q4は、スケーラビリティや相互運用性、開発者向けツールを扱うインフラ系プロジェクトに投資が集中した傾向が見られました。特に、レイヤー1やレイヤー2などブロックチェーン基盤技術を強化するスタートアップが引き続き注目を集め、分散化されたデータストレージや新しい合意形成(コンセンサス)アルゴリズムを提案する企業にも投資が流入しています。
「クリプト領域におけるインフラは、“新たな成長の基盤”として捉えられ、特に、高性能チェーンや開発者体験を向上させる技術が有望視されている」という声もあり、2025年以降さらに統合や買収による集約化が進む可能性も示唆されています。
2-2. DeFi(分散型金融)
分散型取引所(DEX)やレンディング、ステーキングなどのサービスを提供するDeFi領域では、シード期における取引件数が引き続き活発でした。一方で、大型案件は、やや減少傾向にあり、新興のプロトコルや流動性プール設計に工夫を凝らすスタートアップに注目が集まっています。
特に、「ステーキング報酬や利回りを組み合わせた複合的な金融商品」に特化したプロトコルが評価されるなど、従来にはない付加価値を提供できるプロジェクトが選別される形となっています。
2-3. Web3(コンテンツ、ソーシャル、メタバース、ゲームなど)
2024年後半から継続して、Web3関連のプロジェクトへの投資が活発化しています。特に、メタバースやブロックチェーンゲーム分野では、「ユーザー体験を重視したゲーム設計やトークンエコノミクスを取り入れたプロジェクトに資金が集まっている」ことが特徴です。
また、NFTを活用したデジタル所有権の拡張や、SNSの分散化を目指すソーシャルプラットフォーム領域にも関心が向けられ、トークン保有者がプラットフォームの意思決定に参加するガバナンス形態が徐々に実用段階へ移行している点が注目されます。
2-4. アクセス領域(ウォレット、決済、オンボーディング)
エンドユーザーや機関投資家向けのウォレット、取引所、ペイメントなど「入り口」にあたる領域も、引き続き投資対象として一定の需要があります。特に、「既存の金融システムと暗号資産の橋渡し」を担う決済系スタートアップは、地域・国ごとに異なる規制や為替管理に対応するソリューションを提供することで、投資家にとって魅力的なテーマになっています。
3. 主要な資金調達・エグジット事例
3-1. プレシード/シード期の注目調達
Zero Gravity(ブロックチェーンネットワーク・レイヤー1):
11月に7,500万ドルを調達。Hack VCが出資に参加。StakeStone(DeFiレンディング/ステーキング):
11月に2,200万ドルを調達。Polychain CapitalやSevenX Venturesがリード。
こうしたシード案件の多くは、「ブロックチェーン技術の課題を解決する新規性の高いプロトコル」や「従来型金融と組み合わせた融合型サービス」の開発を目指しており、大手ファンドが積極的に関与している点が特徴です。
3-2. アーリーステージの大型案件
Praxis(Web3の分散型コミュニティ/メタバース領域):
10月に5億2,500万ドルを調達。ArchやManifold Capital Partnersなどが出資。Cassava Network(オンボーディング・決済):
12月に9,000万ドルを調達。投資家非公開。
シード期よりも大きな資金調達が見られるアーリーステージでは、特に「Web3コミュニティ基盤構築」や「ユーザー獲得に直結する支払い/オンボーディングソリューション」が高評価を得ています。また、レイヤー1やスケーラビリティに特化したTONのように、基盤技術を強化するプロジェクトも3,000万ドル規模の調達に成功しています。
3-3. エグジット事例
2024年Q4は、M&Aが引き続き主なエグジット手段となりました。特に、インフラ系スタートアップのBridgeが10月に11億ドルでStripeに買収された事例が象徴的です。
加えて、Web3関連プロジェクトのM&Aも活発で、Just Wont DieやTokenproofなど複数の企業が買収・統合を通じて、より大きなコミュニティやサービス体系を構築しようとしています。エグジットにおいては「補完的な技術・サービスを取り込む狙い」が強く、バリュエーションや買収金額よりも長期的なシナジー創出が重視され始めているようです。
2024年は、結果として総額100億ドル超・取引件数1,940件と、前年同水準を保ちながら投資家の選別意識が高まる年となりました。特に、シードやアーリーステージでのバリュエーション上昇は顕著で、インフラ技術や分散型AI、Web3コミュニティ構築などに特化したプロジェクトが高い評価を得ています。一方で、レイトステージでは、大幅な調達額を避け、ピンポイントな追加資金で事業継続を図る企業が目立つなど、慎重な資金戦略も見られました。
2025年以降、インフラ系や取引所・カストディ分野ではさらなる統合・買収が進み、プロジェクト間の差別化がより鮮明になる可能性があります。また、高性能ブロックチェーンやトークン化技術を活かした新領域、さらに暗号資産とAIの融合を狙うスタートアップが引き続き投資家の注目を集めるでしょう。「短期的な投機マネーが集まっていた時代」から「選りすぐりの技術と実需が評価される時代」へと移行しつつある状況を踏まえると、今後のマーケットは安定的な拡大と成熟を続けていくと考えられます。
今後も規制環境の変化やマクロ経済情勢の影響を受けることは避けられませんが、2024年に見られたクリプト業界の底堅い資金調達と着実なプロジェクト成長は、「長期的視点での投資妙味」を示す一つの根拠となりそうです。
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